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砦2

「進むつもりですか?」

「そうですね。興味がありますから」


 フィリィが問えば、当然のように答える。にっこり笑顔が余裕だ。

 魔導士として腕はいい、モストフも剣の技がある。王の手でない場合どんな輩なのか。反王派ならば、大抵の者たちは知っているつもりだが、まだ隠れている者たちがいてもおかしくない。


 ここは、ついて行った方が良さそうだ。彼らが何をするか、知っておいた方がいい。

「地下にいる者たちと、戦う気はありません」

「僕たちも同じ気持ちですよ」


 見付からないように調べるだけだと念を押して、フィリィはモストフを見上げた。身長が高く、がたいがいいので、地下への道を歩んだら気付かれる気がする。


「出来るだけ使うつもりはありませんが、もしもの時は、幻術を使います」

 フィリィの視線に、シェラが神妙に言った。地下にいる者が、魔導力のある者でなければいいのだが。シェラの言葉に返事はせず、フィリィは足音を立てないように、地下へと進んだ。


 地下への階段は、螺旋階段で幅が狭い。足元も綺麗に成形されたものではなく、ごつごつとして歩きにくい。

 ここで、足音を消すのは難しいか。

 困ったね。一人ならば魔導でも使うが、今ここで自分が何をできるか、シェラたちに知られたくない。

 エレディナの案内で、進むしかないだろう。


『さっきの男は奥へ入ったわよ。別の通路に入りましょ。直接行くより、回って行った方が安全だわ』

 そうだね。ここの地下は入り組んでいるわけだし、見つかりにくい道から行こうか。

 フィリィはシェラたちを振り返りつつ、音を立てないように階段を降りると、壁に背をつけながら周囲を確認する。すると、奥から魔獣の悲鳴が聞こえた。つんざくような響きが、通路にこだまする。


「魔獣が出たのでしょうか」

「倒したような悲鳴でしたね……」

 断末魔の叫びのように、魔獣の鳴き声が通路にこだまし、しんと静まりかえる。何かを引きずるような金属音がすると、再び魔獣の唸り声や、吠える声が聞こえた。


「とにかく、進みましょう」

 地下の通路は、洞窟を利用しているだけあって岩場があり、地面や天井から、石が飛び出したままになっている。削るのが面倒だったのか、岩がせり出た状態の通路だ。通路の幅も統一されておらず、広がった通路に扉を作り、部屋にしている場所もあった。


 道はいくつか分岐されているが、全て同じ道に戻るようになっているようだ。どの道を進んでも、奥の広場には繋がるようで、進み続けると、暗がりに小さな明かりが見えた。

 通路が途切れる先、広間になっているか、男たちの話し声が響く。その中に、獣の鳴き声も混じった。


 洞窟を削った広間で、天井が高い。そこに、仕切られた檻がいくつも並んだ。その中に一匹ずつ、小型の魔獣が閉じ込められている。

 シェラが隣で、フィリィの頭の上から覗いた。一瞬、フィリィの手の甲が滲んだが、すぐにそれをマントで隠す。


「戦わせているんでしょうか」

 光には気付かなかっただろう、シェラがぽそりと呟いた。

 視線の先には、魔導士らしき男がおり、魔導士はただ立って、様子を見ているだけ。動いているのは兵士だ。檻と檻を移動させて、魔獣同士を戦わせている。


 ぎゃんっ、と首元を掻き切られた魔獣が、地面に飛ばされた。魔獣の種類は同じで、倒した方の魔獣が、倒れた魔獣を餌にしている。


「随分と、殺気立った魔獣たちですね」

 魔獣は檻の中をうろうろし、檻に体でぶつかっては、檻に噛み付いている。空の檻もいくつかあったが、檻の中にいる魔獣は、種類別に並べられていた。


「共食いを、させているようですが」

 シェラの言葉に、フィリィも頷く。魔導士は何かを紙に書いて、その様子を眺めた。

 男たちは、何度か檻と檻を繋いで、魔獣同士を戦わせた。檻は動きやすいように滑車がついており、最初から移動させやすくされたものになっている。どこから連れてきたのか、この辺りでは見ない魔獣もいた。


 しばらくして戦いも飽きたのか、殺気立っていた魔獣たちが大人しくなる。男たちは何か相談しながら、やることは終えたのか、何も持たず、広場を後にした。

 残ったのは、檻に入った魔獣だけ。燃やした明かりはそのままで、男たちは出て行ってしまった。


『確認するわ』

 エレディナが男たちの跡を追う。このまま戻って来ないのか、確認するのだ。

 シェラは男たちの足音が消えるのを確認して、広場へと入っていく。お腹いっぱいになったのか、魔獣たちは寝転がって、ゆっくりとしていた。先ほどの殺伐とした雰囲気は、まるでない。


「何の、匂いでしょうか」

 シェラが鼻をすんすん鳴らしながら言った。廊下にいた時には気付かなかったが、仄かに甘い香りがする。血生臭さすぎて分かりにくいが、別の匂いがどこからか漂ってきていた。


 どこから漂っているのか、シェラの隣で、モストフも匂いの元を探そうとする。しかし、血生臭さに混じって、辿れないようだ。

 匂いを感じながら、フィリィは檻に近付いた。中にいる魔獣は、すやすやと眠っている。


「魔鉱石?」

 檻の一部に、青白く鈍い光を放っている箇所がある。魔獣の檻は魔導で強化されているか、一つの檻に一つの魔鉱石がはめられていた。


 魔獣を留めるために、随分と手の凝った真似をしている。シェラも同じことを思ったか、檻の下の隅にはめられた魔鉱石を見遣って、顔を上げた。


「魔鉱石など使わなくても、この檻ならば、逃げたりしないでしょうに」

 檻は頑丈に作られていて、中で暴れても簡単に壊れそうにない。わざわざ魔鉱石を使ってまで、強化するほどではなかった。小さな魔鉱石一粒だが、全ての檻に使えば、結構な大金をはたくことになる。


「番号が書いてありますね」

 檻の入り口には木札が吊るされている。番号はどれもばらばらだが、魔獣の名前と番号が書かれていた。

 檻に近付くと、ひどく血生臭い。地面は血に染まり、こびり付いて固まっていた。随分古い血もある。魔獣は、ずっと檻の中で閉じ込められているようだ。


「何をしていたんでしょうね。魔獣同士を戦わせて、数を減らしているようでした」

「そうですね。餌を与えず、魔獣を与えたように見えました」

 殺気立っていたのは、腹が減っていたからだろう。檻を重ねて魔獣を合わせることで、わざと戦わせて、食事にさせていたようだ。


「まるで、強い魔獣を残すような」

 シェラは言うと、檻の木札を確認する。魔獣の名前と番号。それは3であったり、8であったり、13であったり様々だ。同じ番号もあるが、同じ魔獣の種類で、同じ番号はない。


「ああ、そうかもしれない。モストフ、そちらの魔獣の番号を言ってくれる?」

 シェラはモストフに木札の番号を確認させた。モストフは並べられた同じ種類の魔獣の木札を見ていく。

「3、4、8、13、16、20、23、26……」

 確かに同じ番号はない。フィリィが見ても、同じ番号が見られなかった。


「同じ種類で、一番強いものを残している?」

「そのようですね。恐らく、最後に残った魔獣が必要なんでしょう」

 最後とまではいかずとも、三位くらいまでは残すのだろう。


 これは実験だ。そうして、残った魔獣に薬を与えるに違いない。こんなところで魔獣を集めていたようだ。しかも、強力な魔獣を。


「何か、思い当たりますか?」

 フィリィが眉を顰めているのを見て、シェラがこちらを見つめた。のんびりした雰囲気を持っているくせに、魔導士の力を持つ男。調べていることは同じだろうか。


「強力な魔獣を使って、何かしたいみたいですね。その内、どこかに運ぶんじゃないかな」

「どこか、ですか」

「先ほどの男たちに、着いて行ってみるしかありません」


 これならば、ヨシュアを連れてくるのだった。ヨシュアはニュアオーマについて、彼との伝言係をやってくれている。今は、ルヴィアーレがどう動くのかを、ヨシュアに見てもらっているのだ。


『あいつら、小型艇で行っちゃったわ。方角は東だけど、どこに戻るかは分からない』

 ここから東に行くのならば、海に回って山を越えるだろう。ダリュンベリに行くのか、近くの領地に移動するのか、何とも言えない。しかし、恐らくは関わりのあることだ。

 ラータニアを襲撃する、別の用意をしているのだろう。


「しかし、よくこれだけ魔獣を集めたものですね。同じ種類を何匹も生け捕りにするのは大変でしょうに。それが、何種類も」

 シェラの言葉に、ため息をつきそうになる。この辺りには見当たらない魔獣を捕らえて、わざわざこの砦に連れてきたのだ。

 魔獣を捕獲して、生き残った魔獣に薬を投与する。それを、ラグアルガの谷で行うのか、それとも、別のどこかに放つのか。

 ここは、リンカーネに調べてもらうしかないだろう。一度戻り、これについて伝えるしかない。


「それにしても、魔鉱石を惜しげも無く使うものですね。最近では手に入りにくいと言うのに。城でも良く使用されているとは聞きますが」

 シェラは溜め息混じりだ。グロウベルの輸入品を買いに来たら、買い占められていたのか、買えなかったらしい。グロウベルに直接行った方がいいですかねえ。とぶつぶつ呟いた。


 ダリュンベリでもカサダリアでも、魔鉱石を使った移動式通路などは多い。城を作った当時は、魔鉱石が多く採れたのだろう。贅沢に使うからこそ、魔鉱石が枯渇しはじめた。それは、現王が精霊の声を聞けないせいでもあるが。


「質が良いものは高級品だ。これを使っている者はそれだけの財力があるのでしょうね」

「そうですね……」


 多くは言わず、フィリィは口を閉じる。王の手が、状況を疑ってシェラたちを動かしている可能性も、なきにしもあらずだ。ここは、さっさと退散しよう。シェラたちが、ここで何かをするわけではなさそうだ。

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