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衣装4

「ねえ、あなた、ちょっとフード取ってみて。身体の線が」

「身体の線?」


 って何でしょうか。シニーユは言いながら、既にフードに手をかけて、脱がそうとしてくる。

 ちょっと、何よ。何なの!?


「やっぱり、あなた、フィルリーネ王女様と、体型が一緒だわ」

「はい!?」

「すごいわ!ちょっと、くるっと回ってみて。そうそう。ちょっと、着てほしい服が、ちょっと、これ着てみてよ!」


 シニーユは、ちょっとちょっとと言いながら、なぜか女性ものの服を持ってきて、フィリィに着替えるように言う。何が何だか分からない。とにかく体型が同じだから、王女に合わせたかった服を着てほしいとか。どういうこと?


 視認しただけで体型が一緒って、どういう目をしているのだろうか。渡された服は、その辺の街の人が着る服ではない。布をふんだんに使った、装飾の凝った服だ。

 手伝うからと言われて、衝立の向こうに追い込まれる。


「私、王女様の仕立てを任されたことがあるんだけど、王女様って、あまり好みがある方じゃないのよ」

「へ、ええ」

 返事がぎこちなくなってしまった。え、どういうこと?


 我が儘フィルリーネ王女、我が儘を言いまくり、豪華で他の者たちが着ていないような新しい衣装を好む、面倒な客。それはもう、あれがいいだの、あれは嫌だの言いまくっているのだが、好みがある方ではないとな?


「とても美しい方で、作るこっちも楽しくなっちゃうような綺麗な体型されていて、仕立て屋としては最高のお客様なんだけれど、ご婚姻の衣装を作るにあたって、適当に好みを言われている気がしたのよね」


 ひえ、何ですか。その感想。

 シニーユは衣装のスカートを伸ばしながら、フィリィの腰帯を結んだ。


「婚姻の衣装でしょう? それは注文も多いだろうし、作る方も大きな仕事だってなったらしいんだけど、注文を聞いてきた商人が頭抱えてたのよね。それで私に声が掛かって、考えることになったんだけれど、注文を聞いている限り、好みが一貫していなくてね」

「へ、えええ」


 いや、私、ちゃんと豪華で装飾いっぱいで、でも、華美になり過ぎないように選んだよ? 確かに、あれもこれもいいな。とか沢山言ったけれど。迷ってくれるように、沢山色々な注文したけれど、それが好み適当に思われたってこと? そういうこと??


「優柔不断な方なんですかねえ」

「そういうんじゃなくてね。迷っているふりをして、実は選んでないんじゃないのかなあって」

「ど、どうう意味でしょうか」


 つい敬語になってしまう。一体、人づての会話から、何を推測したのだろうか。

 当初やって来た商人の中に、シニーユはいなかった。布選びや装飾の絵様を出された時にも立ち会っていなかったのだ。この間、衣装ができた時に会ったのが、初めてなのである。それなのに、何に気付けるというのか。


「王女様だけあって、趣味はすごく良かったのよ。装飾の合わせ方とか、色の選びとか、いいもの選ぶなって思うんだけど、その選んでいるものがばらばらで、組み合わせしにくいものだったのよね。あれだけ趣味がいい方なのに、どうしてそんな合わせにくいものを選ぶのかなあって」


『全部合わせてみろって、あんた言ってたわね』

 言ってたわー。これ全部合わせられないのかしら。素敵だわ。どれもー。みたいな。言ったわ。そんなこと。


「やっぱり王女様だから、色々付けたくなっちゃうんじゃないんですかねえ」

「そうじゃないのよ。趣味がいいのだもの、合わせてうまくいかないことぐらい分かるはずだわ。だから、分かっていて、わざと言っているのかなあって、思っちゃって」


 ええ、何ですか、その分析力。どういうこと?

 心臓の音が大きくなってくる気がする。冷や汗流れますよ。そこから何を導いたんでしょうか。


「ここだけの話、王女様、今回の婚姻を望まれていないのかしらって」

 ひえ。何てこと。そんな風に見えましたかね。結構、きゃいのきゃいの言って、衣装楽しみだわーって、何回も言っていたはずなんですが。そんな風に見えませんでしたか!?


「結局、いくつか種類を作って、一番お似合いになる衣装をお出ししたら、それに満足いただけたから良かったんだけれどね。それでも、やっぱり、お相手のご婚約者の話が出なかったから、婚姻したくないのかなあって」


 シニーユはしんみりと言った。衣装は似合っていても、心が望んでいないのならば、衣装はきっと無駄になってしまうわ。と。

 もう、何も言えません。何なの、その分析力。しかも、ルヴィアーレの話出さなかったから決定的って、どういうこと?


『普通なら、相手のこと考えるはずって話でしょ。自分が満足しても、相手も喜んでくれるかどうか考えるんじゃないの』


 エレディナの冷たい声が飛んでくる。衣装着てて、ルヴィアーレのことなんて一切考えなかったよ。勿体無いしか思わないよ。そうでしょ? ルヴィアーレ、関係ある!?


『だから、おかしいって話してんのよ。あんた婚姻の意味、分かってんの?』

 エレディナが呆れ声を出した。ルヴィアーレに気に入ってもらえるか、言えば良かったってこと? 絶対、思い付かない、そんな感想。


 エレディナが鼻で笑ってくる。自分のことしか考えていない、我が儘王女ってことで良くない?

 しかも、あの衣装以外にいくつか作っていたなんて、よく時間あったな。やはり毎日徹夜したのではないだろうか。


「きゃあ、やっぱり、似合うわ! これきっと、王女様にも絶対似合う!!」

 シニーユは髪と同じ焦茶色の瞳を瞬かせた。


 シニーユに着させられた衣装は、王女が城で動き回らない時に着るような衣装だ。スカートの広がりがあまり大きくないが、裾が長い。足元が隠れるどころでなく、ずるずると床を掃除できる長さだ。これは、外に出ないやつである。

 しかし、肩を若干出す衣装で、着たことのない型だった。


「新しく考えていたものなんだけれど、形がすっきりしすぎてて、どうかなって思ってたの。でも、王女様と同じ体型をしているあなたが着こなせるなら、王女様にも間違いなく似合うわ!」


 シニーユは満足顔でそう言って、長い帯を地面に流した。これから刺繍などを行うつもりらしい。既に次の衣装まで用意しているとは、縫うの早過ぎだろう。王女の衣装の型はあるので、あとはどんな形や装飾にするかだけらしいが、それでも早いと思う。


「ねえ、フィリィ、また店に来てくれない? これから王女様の衣装を手掛けることになるから、合わせる人がほしいのよね。婚姻衣装と違って、普段着ならば好みもちゃんとあると思うし、新しい衣装をお渡しして、様子見ながら王女様の衣装の幅を増やしたいのよ」


 専属になることを嫌がっていたわけではないようだ。婚姻を望んでいないことを心配していたらしい。しかし、衣装合わせか。何とも微妙な話である。


「また来て! 安くするから!」

 押し切られて、結局、また来る約束を取り付けられてしまった。

 荷物を持ちながら、フィリィは嘆息する。


『強引な女だったわね』

「そうだね……」


 何だかすごく疲れたよ。ルヴィアーレの服を適当に買うはずだったのに、おかしな話が増えてしまった。しかし、会ったことのない人に、婚姻を望まないなどと、気付かれるとは思わなかった。

 客観的に見ると、そう見えるのか。気を付けよう。


 ルヴィアーレに関する時は、ルヴィアーレの話題も出せばいいのね。私、学んだ。

 エレディナが鼻で笑ってる。どうせ忘れるわよ。って。うん、忘れる可能性大だね。


 買い物の後、工業地帯へ行って、魔鉱石の入荷量を確認したかったのだが、そろそろ部屋へ戻らなければならない。

 最近魔鉱石が手に入らず、値が上がっているようなのだ。元々魔鉱石は手に入りにくくはなっていたのだが、ここにきて、更にそれが顕著になった。

 恐らく、城が買占めに入っているのではないか。そんな情報がある。一時期入っていた、ラータニアの商人も来なくなった。入国を拒否されているからだ。


『最近は、グロウベルからしか手に入らないって言うわね』

 グロウベルとは、ラータニアとは逆側にある隣国だ。海を隔てた島国である。それでもラータニアに比べ、輸入量は少ない。そこを買い占められたら、市場に出てこなくなるのではないだろうか。


 空には、カサダリア行きの航空艇が出発したのが見える。航空艇を動かすには、魔鉱石が必要だ。そして、それは、攻撃に使うことができた。

 城が購入を増やしているのならば、移動手段だけでなく、攻撃用の燃料として、魔鉱石を購入している可能性がある。


「もう少し、調べを行わなければ駄目ね」

 夕焼け空に浮かぶ航空艇は、夕日に照らされ、真っ赤に染まって見えた。

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