三日目 (13) 代理戦争、開戦
そして。
「――フ、フフ、フフフフフ!」
『殺人鬼』が、躯を小刻みに揺らして嗤い出した。
「フフフフフフフフ! 『九条』! 『九条』! 『九条』『九条』『九条』! 成程お、代理戦争が始まって此れほど早く天使の契約者と出逢えたのは、長年の業だったわけねェ」
腕が、一瞬消えたように見えた。
ドス、と言う音がして建物の壁を見ると、さっきまで『殺人鬼』が持っていたナイフが壁に突き刺さっていた。
「ベルゼブブ。入りなさい」
「はいはい了解」
ふっとベルゼブブの姿が消えて、右手の辺りで碧色の光がぼんやりと灯った。注視すると、小指にエメラルドのピンキーリングが嵌まっている。
あれが、“誓約の宝玉”か。
「あんな玩具では代理戦争に相応しくないですから」
女は右の掌を突き出す。
小さな呟きが風に乗った。
「殺鎌」
鋼が舞った。
女はくるりと回転する。長い髪の毛が遠心力で広がって、黒い布のようになる。
再びこちらを向いて止まった時、その手には、誓約武器が握られていた。
女の身長と同じくらいの棒の先に、長く鋭利で湾曲した刃が付いている。色は全体的に黒。ただ濃淡が斑についており、しかもまるで生き物のようにぐらぐら蠢いて見える。
一言で言えば、鎌。
死神の鎌だ。
「美しいでしょう? 生き物を殺せる、殺す為の武器」
愛おしそうに、刃を撫でる。
――女の雰囲気が変わった。
女の抱える黒が漏れ出して、周囲をも濁らせ始めている。
じくじくじくじく。
侵食だ。
日常を侵食している。
「―――ッ!」
反射的に聖剣を構える。
同時に、梓が半身になるのが見えた。
「さあ、死の舞踏を踊りましょう。貴方のイノチを私に頂戴!」
吊り上がった口元が赤く映える。
黒い羽が二翼生える。
そして、代理戦争が開戦した。