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DECEMBER  作者: 竜月
一日目 はじまりの日
5/63

一日目 (4) 友人

 悠は明るい声で顔を上げた。


「そんなことより俺たちには、解決すべき問題がある」

「と言うと?」

「これだ!」


 どんと、悠は僕の眼前に問題集を突きつけた。


「この問題の答えを教えてくれ」

「ああそういえば」

「これで次回またやってありませんとか言ったら真剣にやべえからな。五分後には忘れちまうだろうし、覚えている今すぐの間に聞いておくのが吉だ。さあ教えてくれ!」

「うん。教えないけどね」

「え?」

「ふんふーん」

「…………」

「あれ? 財布どこいったかな」

「…………」

「あ、そういえば悠ってスイカの種を飲む派? 吐きだす派? それとも黒だけ吐いて白は飲む派?」

「どーでもいいわぁ!」


 卓袱台返しの要領でぽーんと放り投げた問題集が僕の頭を越えて飛んで行った。


「俺の言葉が悪かったのか、それともお前の耳が悪いのか分かんねえけど、とりあえず伝わってねえみたいだからもっかい言うぞ。……さっきのー! 問題のー! 答えをー! 教えてー!」

「ははは、悪いのは悠の言葉でも僕の耳でもなくて、ものの頼み方だよ」

「言外の土下座指令!?」

「こまっていたらたすけたいのは山々なんだけど、どれだけ頼まれても答えを教えるわけにはいかないんだよ」

「なしてよ」

「だって――」


「――私に怒られちゃうからね」


 頭の上にぽんと手がおかれる感触。

 それと同時に涼やかな声が聞こえた。

 振り返って確認するまでもない。僕の頭に手を置くのも、僕が怒られる相手も、奈月以外にはいない。

 奈月は横の馬飼さんの席の椅子を引っ張ってくると、僕の隣に運んで腰かけた。


「ほらこれ」


 さっき放り投げた問題集を悠に差し出す。


「あ、ああ。ありがとう」

「忍は放っておくとその手の頼みごとを全部引き受けちゃうからね。私からの禁止条約違反よ」

「な、なにそれ」


 そんなのあるの? って顔で僕を見る悠に、曖昧に笑みを返す。あるんです。僕も良く解からないけれど何項か禁止条約が。誰かの勉強をやってあげる、も禁止されていることの一つだ。


「大体ね利根川君、勉強くらい自分でやりなさいよ。しかも選択問題よ選択問題! 本文読まなくたって、問題文だけで二択くらいには絞れるじゃない」

「あー……」


 そんなこと出来んの? って顔で僕を見る悠に、また曖昧に笑みを返す。出来ません。少なくとも僕にはさっぱり。


「ま、それでも答えが手っ取り早く聞きたいって言うなら私が教えてあげるけど?」

「ホント!? 良かっ――」

「ただしものの頼み方は考えなさいよね」

「またしても土下座指令!? ……ねえ、キミたち。クラスメイトをなんだと思ってるのかな」


 悠はさめざめと泣いて机に突っ伏す。僕はそれを見て流石に気の毒に……はならなかったけれど。がんばれとは思った。


「まあいいわ。それよりも昼食にしましょう。私はお弁当だけど、忍と利根川君はどうするの?」


 奈月は無地のお弁当の包みを開く。

 僕は財布から三百円取り出すと、「よし飯だ飯だいったん忘れよう! 俺は購買だ」と席から立ち上がろうとしている悠の手にぽんと握らせた。


「フレンチトースト二枚と牛乳でお願いね。お釣りは取っといていいから」

「何だそれっぽっちでいいのか? 小食め。んじゃまあ、ちょちょいと行ってくるから食べないで待ってて――っておぅい!」


 一度扉の前まで行ったのに、わざわざ戻ってきて大声でツッコむ悠。愉快な奴だなあ。


「なんで問答無用で俺が行くことになってんだ!?」

「うーん、ヒエラルキー?」

「格差社会っ!?」

「む、聞き捨てならないわねその言葉。私はまだ頂点を忍に譲る気はないわよ」

「言外で俺が最下位って言ってるよね!?」


 うわーん、と泣きながら悠は購買へ駆けて行った。

 ……フレンチトースト二枚で二百円。牛乳は百十円。

 帰ってきたら何て言うのか楽しみだ。





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