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DECEMBER  作者: 竜月
三日目 Bohemian Rhapsody
44/63

三日目 (6) 鬼


 歌が終わり、


「ふう、つっかれたあ」


 楓はお尻を支点にしてくるりとこちらを振り向いた。勿論、傾けば屋上へ真っ逆さまだ。心臓に悪いから止めてほしい。


「……どうでした?」

「うん。いたいた。いろんな『架空種』がわんさか!」

「本当に街一つ判別したのですか……!」


 ラファエルは驚いているけれど、僕としては『わんさか』って部分のが気になった。僕が七歳から過ごしてきたこの街に……一体何がいるのやら。知りたいような知りたくないような。


「……天使と悪魔は?」

「んーとね、天使がひとつと悪魔がふたついたかな」


 両手で指折り数えた楓は、再びくるりと回転して足を空に晒す。だからそれは止めて。


「あっちに天使がひとつ。あっちに悪魔がひとつ。それに空の上に悪魔がひとつ」


 楓は最初に街の中心、次にずうっと川向こうの西南の端、最後に宙空を指差した。

 梓は薄く笑みを浮かべる。


「……三体か。上出来ですね」

「けどね、ちょっくら不思議ちゃんがいるんだけどさ」


 楓は首を傾げながら、二つ目の西南の方向を指差した。


「この悪魔、となりに『鬼』がいるにゃん」

「…………!」


 梓の表情がはっきりと変わった。

 遠い遠い、まだ見えぬ悪魔の話なのに、まるで臨場しているかのような緊迫感を漂わせる。

 顎に指を当てて考え込み始めた。

 オニ? 

 最初に思い描いたのは桃太郎。他にも色々な創作物で登場する鬼たち。

 意外と馴染み深い単語ながら、しかし聞き慣れない単語に眉を顰めた。

 梓が僕の表情に気が付いた。


「……『鬼』は現存が確認されている『架空種』の一つです。人間と同じように魔法は使えませんが、身体能力や考え方などは人間と大きく異なり、『架空種』の中でも特に人間に害をなす危険な存在です」


 危険。

 呼吸が浅くなった。


「それが、この街にいるって?」

「……はい。悪魔と一緒に」


 梓は難しい表情で虚空を睨み、


「……その悪魔を偵察に行きましょう」


 一瞬、痛む右腕の筋肉が引き攣った。


「……『鬼』と『悪魔』が共在するなんて事態は、今回の代理戦争時でしか起こらない突発異状です。何を企むか、何を仕出かすか解かったものではない。……放っておくのは危険です。居場所が解かったのは僥倖。移動されて解からなくなってしまう前に、そして代理戦争の序盤の内に、その契約者と『鬼』と『悪魔』の姿を確認しておきましょう」


 淡々とした声が、耳から沁み込んでくる。

 自分の唾を呑む音がいやに大きく聞こえた。気が付くと少し息が荒い。耳の裏で激しく流れる血脈の音を感じる。

 ――悪魔とその契約者に遭う。

 目的は偵察だ。戦いに行く訳ではない。昨日のようなことにはならない。

 だが、それは単なる期待であって事実ではないのだ。

 戦いは最早どこにでも起こり得る。

 いつだって傍らに剣を。

 高まる緊張と小さな震え。けれど、立ち止まるわけにはいかなかった。


「解かった。行こう」


 覚悟を決めるいつもの儀式はしなかった。それはもうさっきやっていて、それからずっとスイッチは入っているのだから。



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