間章 -次の日のはじまり-
暗い森。
風が梢をざわざわと揺らしていて、何かが迫ってくるような不安を漂わせていた。
手の届く範囲しか見えない闇を、二筋の光が通り抜けた。
何度も森の影に隠れながら近づくそれは、低い唸りを上げて、やがて見えてきた光は獣の両眼のようだった。
車。
黒いワゴン車だ。
ワゴン車はかなりのスピードで狭い道を走り、そして、ある空間で停止した。
ドアが開く。
「こわかったー、もお飛ばしすぎだよ」
「大丈夫だって。俺、めっちゃ運転うめえんだから」
笑顔で車から降りてきたのは、十代から二十代前半ほどの若者だった。男子二人と女子二人。一様に派手な色彩をしているが、暗闇であまり見えない。
車のヘッドライトは建物を照らしていた。
白い壁。割れたガラス窓。三階建てほどの建築物。まるで森に抱かれるように建っていた。
「ねえここ? めっちゃこわくない?」
「肝試しなんだからこんくらいじゃなきゃ」
エンジンとヘッドライトが消えて、世界は真っ暗の森に戻る。
「きゃあっ!」
「ははは、大丈夫だって。ほら掴まって」
「あ、気を付けて、そいつに掴まるほうが危ないかもよ?」
「何言ってんだバカ」
懐中電灯が灯り、四人は建物へ向かっていく。
「……――?」
ふと、最後尾を歩いていた女が振り返った。
視線の先には森、その向こうには街がある筈だ。
「どうしたのー?」
先を行っていた男が尋ねる。
女は男を見て、
「なんか……パトカーの音が聞こえなかった?」
「え? 聞こえなかったけど」
「そう……」
女は名残惜しげに視線を残していたが、やがて振り切って建物へ向かった。
四人は闇に飲み込まれた。
誰も知らぬうちに。
☨