二日目 (17) 姉妹
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その、数刻前のこと。
西の工場街の広範囲に亘る戦場を、余さず睥睨する南の電波塔に。
数キロ先の忍と小鳥遊の姿を見つめる二人の人間の姿があった。
一人は愉快そうに。
一人は無表情で。
遥か遠い戦況を見つめている。
歌が響いていた。
「~♪ ~~♪ ♪~♪~ むふふ。むっちゃ楽しそうに戦う悪魔だにゃ」
「…………」
「むおおお!? あぶねー。すんごいすんごい! 狂っちゃってるよアイツ」
「……お姉様」
「にゃははは。こわこわ」
「……お姉様」
「む? なにかな妹」
「……このまま放って置くと、あの天使、死にますよ? それとそれ以上身を乗り出すとお姉様が先に死にます」
「にゃんですと!? ってうわー、あちしあぶねー! さすがのあちしも五十メートル超えたら着地はムリな気がするぜ。というか着地しちゃいけない気がするぜ。生物として」
「……とにかく助けます。いくら貧弱とは言え、序盤で天使を喪うのは損益ですから」
「よーし一発かましたれ妹! 外すなよー?」
そう言って、にゃーにゃーと騒がしかった女の子はお腹に両手を重ねて、ナニカの唄を歌い始めた。
「~♪~~♪~♪♪~」
夜を爽やかに跳ねるような唄。
夜を縫いつけるように滑る唄。
不思議な響きを持つその唄は、夜に沁み渡った。
すると、停滞していた空に勢い良く風が流入して、二人の周囲に波紋を描き始めた。その風は、冬にも関わらず生命力を宿したような暖かさを持っている。
「……誰に言っているんですか」
静寂な女の子は、戦場に対して半身になり、掴み取るように左手を伸ばす。
――左手首に、蒼い蒼いブルーサファイヤの嵌まった、ブレスレットがあった。
その手に唐突に顕れるは、二メートル半程の大理石のような質感の弓。しかし、振動でしなやかに撓るそれは確実に石とは異なる素材で出来ていた。
次いで彼女は右手を伸ばす。
空に掲げられた右手は、渦巻く風の中で何かを掴み取って。
「……我、過たず」
それは、矢だった。
いや、矢のようだった。
彼女が弦にかけて引絞っているソレは、透明で、不可視で、何もないように見える。
けれど、彼女の手元は確かに矢を掴んでいるようで、そこには強烈な風が渦を巻いていた。
世に比類なき、圧し固めた風の矢――。
「フッ!」
「いっけーっ!」
風は空を突き破る。
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