魔法少女の誕生4
村で夜をやり過ごし、朝を迎えた。
寝床も食事もかいがいしく用意してもらえて、とても助かったわ。
「それじゃあ、行ってくるわ」
「本当に一人で大丈夫なのですか?」
「ええ、一人の方が色々とやりやすいから心配は無用よ」
一人で魔物退治へと向かう私を村長が心配していたけれど、まだ自分でも把握しきれていない魔法少女の力を他人に見られたくなかったから一人の方が都合がいい。
私は魔物が居るであろう終滅の地方面の森を奥へと進み、周囲に誰も居ないのを確認してからシロミンへと尋ねる。
「ねえシロミン。これから魔物と戦うわけだけれど、魔法少女って他にどんな魔法を使えるの?攻撃魔法とかで魔物を倒せたら楽なのだけれど」
魔法少女は悪を挫くと言っていたから、当然攻撃手段はある、そう思って尋ねてみたのだけれど……。
「っキュ?エメシーが使えるのは変身だけっキュよ?」
シロミンはすっとぼけたような顔でそんなことを言い放った。
「はあ?使えるのが変身魔法だけって、それでどうやって魔物を倒せっていうのよ!魔法少女、欠陥だらけじゃない!」
流石に変身魔法しか使えないなんて思っていなかった私は、シロミンを両手で掴んでブンブンと振り回しながら問い詰める。
「ちょちょ、ちょっと待つっキュ!誤解っキュ!魔法少女はちゃんと他にも魔法を使えるっキュ!でも、他の魔法を使うためには魔法少女としての格を上げる必要があるんだっキュ!」
「魔法少女としての格……?何だか知らないけれど、それは一体どうやったら上がるの?」
私はシロミンを振り回す手を止め、パッと手を離した。それに伴いシロミンは力なく地面に落下する
。
「ゼェ、ゼェ……。し、死ぬかと思ったっキュ……。魔法少女としての格を上げる方法、それはずばり、愛っキュ。他者との間に愛が確認されると、魔法少女の力はより強くなるっキュ」
「愛……って、それは私への当てつけなの!?私は愛を他人に奪われたばかりなのよ!」
このウサギ、私のことを馬鹿にしているのかしら。
頭に来て、私は再びシロミンを両手で掴み、今度は胴体の部分を力一杯圧し潰した。
「グエッ。や、止めるっキュ!暴力は反対っキュ!僕に文句を言われても、そんな設定をしたのは僕じゃないっキュからどうしようもないっキュ!」
「ならそんな設定にした責任者のところに連れていきなさい!私が直接文句を言ってあげるわ!」
「それには精霊界にいかないと駄目だから無理っキュ~。というか、そろそろ離してくれないと苦し……くて限、界……」
そう言ってシロミンは私の手の中でグッタリとした。それを見て私は慌てて手に込めていた力を緩める。
あら、もしかしてやりすぎちゃったかしら!?
「ちょっと、しっかりしてよ!返事をして!もしかして死んじゃっていないわよね!?」
「キュ~。一瞬綺麗なお花畑が見えたっキュ。まさか自分が魔法少女にした女の子に殺されかけるとは思わなかったっキュ……」
なんだ、生きてたのね。頭に血が上って力加減を忘れていたから本当にやっちゃったかと思ったわ。
「ふぅー、びっくりした。でも、そうよね。あなたは精霊に作られたのだから、あなたに文句を言うのは筋違いよね。お陰で冷静になれたわ」
「それは何よりっキュ。そのために僕は殺されかけたっキュけど……」
シロミンは何やら恨み言を言っているけれど、もう空中に飛べるくらい回復している。
何よ、結構頑丈なんじゃない。これはもう心配する必要は無そうね。
「それにしても、魔法少女に戦闘能力がないとなると、別の戦い方を考えないといけないわね」
そう言いながら、私は昨日得た聖魔力について考える。
私自身の魔力は昨日聖剣につぎ込んでしまったせいでまだ完全には回復していない。けれど、今からやろうとしている魔物退治のためなら、人のためにしか使えない聖魔力も錬金術に使えるんじゃないかしら。
そう考えて、私は髪飾りから銀の欠片を取り出す。
この髪飾りは亡くなった私のお母様が生前私の為に用意してくれた特別なものだ。私の錬金術をいつでも使えるように様々な素材が仕込まれている。私とお母様二人だけの秘密だから、今この髪飾りのことを知っているのは私だけ。見た目は白と黒の鳥の羽根を模した唯の綺麗な髪飾りにしか見えないため、追放時に没収されるなんてことも無かった。
「何っキュかそれ?そんな小さな粒で何をするっキュ?」
私が取り出した物が不可解ならしく、シロミンが聞いてきた。
「そういえばまだ言っていなかったわね。私、実は勇者の血を引いていて、チート能力で錬金術を使えるのよ」
細かいことは説明するよりも見せた方が早いと思い、私は銀の欠片を地面に置いて錬金術を使った。もちろん聖魔力を使って。
『錬金術:魔法剣』
すると、私の予想通り聖魔力でも錬金術は使えて、銀の欠片は一振りの剣に姿を変えた。
「なっ!?すごいっキュ!突然剣が現れたっキュ!」
目の前で起こった現象に大興奮のシロミン。
「これが私の能力よ。魔力を物質が持つ価値に変換して、同価値の別の物を生み出す錬金術。今回は聖魔力を使わせてもらったけれど、問題なく成功したわ」
「な、なるほどっキュ。聖魔力にそんな使い道があるとは思わなかったっキュ」
「それはそうでしょ。この能力は私だけのものなのだから。まあ、これで武器は手に入れたし戦いは問題ないわ。さっさと魔物退治を始めましょう」
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私は魔物を探して森の中を駆ける。すでにゴブリンなどの弱い魔物を10匹以上倒している。
この魔法少女の服装は馬鹿げたデザインだけれど、なぜかとても動きやすい。そして何より、魔法少女に変身すると身体能力も向上するらしくとても体が軽く感じる。
そして、さっき作ったこの魔法剣もなかなかの性能だ。錬金術でこの魔法剣を作ると、総価値から剣自体の価値を差し引いた余剰分が切れ味になるから、あの僅かな聖魔力がかなりの価値に変換されたということになる。
使い道に制限は有れど、聖魔力を溜める意味は充分にありそうだ。
そういうわけで、緑色でふざけたデザインの服を着た女が一人で剣を握り森の中を駆け回るというシュールな光景が繰り広げられている。
見てる人が居ないのは本当に幸いだわ。
「すごいっキュ!この調子でドンドン魔物を倒すっキュ!」
前言撤回、シロミンがずっと着いてきて見てるわ。人ではないけれど。私の活躍っぷりを見てずっと興奮しているわ。
まあ、シロミンに見られてもあまり恥ずかしくないし、むしろ側で応援してくれるのは私もやる気が出てくるから構わないけれど。
「そうね。どうせならこのまま終滅の地の方まで近づきましょうか。その方が強い魔物も多いだろうから、より村の為に貢献できるわよ!」
調子付けられた私はそんなことを口走る。私も今までこんなに爽快な気分を味わったことはなかったから、とてもテンションが上がってしまっていた。
そして、初めてちゃんと意気投合できた気がした私たちは、その勢いのままに森の更に奥深くまで入り込んでいった……。