魔法少女の誕生3
シロミンと話している内に、目的の村の近くまでやってきた。色々あって今日は疲れたし、休ませてもらえるよう頼む予定だったのだけれど……。
「まずいわね。よく考えたら、今日私がここで夜を過ごすことは事前にこの村にも通達されているはずだわ。馬車で来る予定だったのに馬車も見張りの兵士も無しで立ち入ったら、きっと私は逃げ出した罪人だと思われてしまうわ」
もっと早く気付くべき問題だった。この村に入ったら、きっとまた捕縛されて終滅の地へと送られることになるだろう。それなら、多少時間はかかっても来た道を戻って別の村を探すべきだった。
私は痛恨のミスをしてしまったと嘆いたその時、シロミンが思わぬ提案をしてきた。
「それなら、魔法少女に変身したらいいっキュ。魔法少女には認識阻害の能力があって、自分からバラさない限りは他人に魔法少女とエメシーが同一人物であることはバレないっキュよ」
えっ、何なのその神能力!?私って恐らくはホワイトタイガーに殺されたってことで処理されるから、生きてるってバレたら不都合が多いのよね。でも、その能力があればその問題は解決するわよね。
「それはすごい能力ね……。それなら、旅の魔法使いとでも言っておけば問題無さそうね。早速変身したいわ。どうすればいいのかしら?」
「簡単っキュ。ペンダントを握って『変身』って唱えるだけっキュよ」
面倒くさい手順とかは一切ないのね。楽で助かるわ。
私は言われた通りに首にかけたペンダントを手に握り込み、
『変身』
と唱えた。
すると、ペンダントの宝石が契約の時と同じように緑色の輝きを放ち、その輝きが私を包んだ。その眩さに思わず目を閉じてしまったけれど、輝きはすぐに収まり目も開けることができるようになった。
「ふー、びっくりしたわ。シロミン、どう?ちゃんと魔法少女になれているのかしら?」
「大成功っキュ!自分の姿を確認してみるっキュ」
そう言われて、私は自分の服装が変わっていることに気が付いた。春の草原を思い起こさせるような優しい緑色の服とスカート。そして、その所々にリボンとフリルがあしらわれている……。
「……って、目立ちすぎるわよこれ!どこにこんな派手な服を着た魔法使いが居るっていうのよ!」
「髪も変わってるっキュよ」
「え?……ほんとだわ、これもまた何て綺麗なエメラルドグリーン……。ってこれじゃ更に目立つじゃない!村人にもだたの頭のおかしな人と思われるわよ!」
恥ずかしすぎて、一刻も早く元の姿に戻りたいわ……。
けれど、そんな私の気持ちにお構いなしに、シロミンは話を続ける。
「大丈夫っキュよ。それも魔法少女の認識阻害能力が働いて、相手が都合良く解釈してくれるようになっているっキュ。だから、変に恥ずかしがらずに堂々としていればいいっキュ」
「そう、認識阻害、便利ね!でも、こればっかりは私の気持ちが付いて行かないというか……。私、今まで高価な服はいくつも着てきたけれど、こんな可愛らしい感じのものは着たことがないのよ。それにスカートも短すぎるわよ。こんなの酒場のはしたない女が履くような長さじゃない!」
「そう言われても、魔法少女の格好っていうのはこういうものらしいから仕方ないっキュ。その内慣れるはずだから今は我慢して欲しいっキュ」
慣れるまで我慢しろだなんて、こっちの恥ずかしさも知らないで……。でも、私の正体がバレるよりはそっちの方がマシなのよね。
背に腹は代えられないし、このまま村に向かうしかないわね。
私は自分の格好に落ち着かないまま村の正面の門の前までやってきた。村といっても、ここはモンスターが大量発生する終滅の地にかなり近い場所であるため、立派な防壁が築かれていて数多くの警備兵たちが見張りをしている。
あまり挙動不審にしていると怪しまれかねないわね。
普通こんなところに女性一人で立ち寄るなんてことはありえないけれど、そこはシロミンが言っていた相手が都合良く解釈してくれるっていう能力に頼ってみるわ。
「こんばんは。私は通りがかりの魔法使いなのだけれど、できれば今晩ここに泊めてもらえないかしら?」
私は門番をしていた男に問いかけた。
「お?お嬢ちゃん一人で旅をしているのかい?見たところ武器も持っていないみたいだけど」
服装への突っ込みは無し。ちゃんと認識阻害は働いているみたいね。でも、流石に女性一人であることや武器がない事には突っ込まれてしまったわ。ある程度想定はしていたから怪しまれないように返事をしましょう。
「私は魔法使いなの。武器はほら、これを使っているわ」
私はそう言ってペンダントを握り念を込める。すると、ペンダントは形を変えて、妙な形の魔法の杖になった。
これもシロミンに説明されていた通りだわ。杖があれば魔法使いで通るから良いわね。問題があるとすれば、杖の形がおもちゃみたいで、材質もツルツルしていて謎な点だけれど……。
「ああ、ちゃんと武器は有るんだな。それなら冒険者であることは間違いなさそうだ」
門番の男はあっさりこれを杖と認めてくれた。
ほんと、都合よく解釈してくれるわね。これなら、もう一押ししても良さそうだわ。
「こう見えても私は結構腕が立つのよ。ここに来るまでの間にも、ホワイトタイガーを仕留めてきたわ。ほら、これがその時に回収した牙よ」
自分の有用性を見せるために、私はホワイトタイガーを倒したことをアピールする。
「なっ!?ホワイトタイガーを一人で倒したっていうのか!?ちょっと待っててくれ、村長を呼んでくる!」
私が見せたホワイトタイガーの牙を見て、門番の男は目を見開いて驚いていた。そして、私を待たせて村の中へと入っていった。
良かった、これなら想定通り事が運びそうね。
そして待つこと数分、門番の男が村長らしき老人を連れてきた。その老人が口を開く。
「私はこの村の村長を務めている者です。旅の魔法使いのお方、話は聞きました。お望み通り、ここには好きなだけ滞在して下さって構いません。生活に必要なものもこちらで用意致しましょう。その代わりと言ってはなんですが、近隣の魔物退治をお願いしたいのです」
そうよ、その提案を待っていたわ!
目論見通りの言葉を聞かされ、私は内心でほくそ笑んだ。
旅人を泊める代わりに、警備や魔物退治を求めるのはこういう村では基本だとは聞いていた。
泊めてもらうというのは重要ではあるけれど、それ以上にこの村の為に魔物を退治することをしたかった。別に正義の心が芽生えたとかいうわけではなく、それが魔法少女の聖魔力を蓄えるために効果的だと思ったのだ。
終滅の地の近くにある村は、大抵が魔物からの最前線の防衛ラインとなるべくして存在している。それは常に魔物の危険に晒されるということで、当然村人の精神は疲弊していく。その村の近くで魔物を大量に討伐すればどうなるか?必然的に村人達に幸福な気持ちが芽生えるだろう。そこから聖魔力を得ようという魂胆があった。
なので、私はその提案を快く受け入れた。計画通り事が進んだことに私が満足していると、私の顔色を窺うようにしながら村長が別の話を始めた。
「して、ホワイトタイガーを倒されたと聞きましたが、それは一体どこでのことなのでしょうか?この近くではAランクの魔物が出るような瘴気は確認されておりませんが……」
何かと思えばその話ね。別に隠すことでもないしそのまま話しましょうか。
「それは私が来た道を1時間程歩いた辺りよ。私もこんなところにホワイトタイガーが居るなんて思わなかったから驚いたわ」
「ふむ、なるほど……。偶然どこかから迷い込んできたのかもしれませんが、その場所の警戒は強めた方がいいかもしれませんね」
まあ、村としてはそうするしかないわよね。私としてはあのホワイトタイガーには助けられたと思っているけれど。
そういえば、錬金術に使いやすそうな牙だけを回収してきたけれど、ホワイトタイガーは他の部位も強力な武具の素材になるって聞いたことがあるわね。
「そうね。話は少し変わるけれど、ホワイトタイガーは倒した後そのまま放置してきてしまったのよ。良ければこの村で回収して役立ててもらっても構わないわよ」
「なんと、それは本当ですか!?いやいや、タダでもらうという訳にはいきませんので、何かしらの謝礼は用意致しますが……」
村長は困惑気味にそう言う。しかし、私は微笑を浮かべて、優しくそれを拒否する。
「いいえ、謝礼なんて要らないわ。この村の方々はいつも国を守るために最前線で戦っているのでしょう?その日頃の感謝の形として、この村に引き取って欲しいのよ」
「おお……!そのようなありがたいことを言われる日が来ようとは……!いつも魔物と戦ってくれている兵士達にも聞いてもらいたい言葉です。いやはや、あなたはとても素晴らしい心を持った方ですね。その心に甘えて、ホワイトタイガーはこの村で引き取りましょう」
私の言葉に村長はとても感激しているわね。それこそが私の狙いなのだけれどね。
無償の善意で人を喜ばせて、そこから聖魔力を得る。それが魔法少女の本質だと私は勝手に解釈している。
微弱だけれど、私の中に今まで感じたことがない力が流れ込んできているのが分かるわ。これが聖魔力なのね。ひんやりとしているような、温かいような不思議な感じだわ。
この聖魔力の使い方を調べたい所ではあるけれど、できれば人の目につかないところがいいし、今日は早めに寝ることにするわ。