悪役令嬢の復讐2
復讐を終えて城から出ると、外で待っていた皆が近寄ってきた。
「エメシー様、ご無事のようで何よりです……!」
「心配は要らないと言ったでしょう。もちろん諸悪の根源はこの手で滅ぼしたわ」
心配そうなルナに、私は問題が無かったと伝えるために澄ました顔で答えた。
すると、ルナは目に涙を溜めながら私の胸に飛び込んできた。
「エメシー様……。本当に、本当にありがとうございました。私、ジェード王子がとても怖くて、周りにも誰も助けてくれる人が居なくて、どうすればいいのか全くわからなかったのです」
そう言って私の胸で涙を流すルナ。
「勘違いしないで。私は自分の復讐のためにやったのだから、あなたを助けたわけではないの。だからあなたに感謝される筋合いはないわ。それに、今から私がやることを見たら、優しいあなたは私に幻滅するはずよ」
私はそれだけ伝えて、復讐の仕上げに取り掛かるために城へと向き直る。
私は躊躇なく、城を包み込むだけの破滅の業火を振りまいた。この炎はやがて王都全体にまで延焼して辺り一帯を瘴気溜まりへと変える。
「!?エメシー様、どうしてそこまで……」
「国に仕える者が誰もジェード様の暴走を止めなかったことへの報復、って所かしら。騒ぎに気付かず中に残っていた人達はこれで全滅でしょうね」
それは建前でしかない。ジェード様への復讐を終えて溜飲が下がった今、彼に従っていた者達のことはもうどうでもよくなっている。けれど、私には何故かこうすることが自然であるように思えた。
このよく分からない気持ちは、またグラトに心の影響を受けているのかしら?
『なんとも良い眺めだな!ここに新たな魔王城を建てるのもよし。エメシーが新たな魔王になるというのなら特別にそれも許そうではないか』
……私に魔王の座を譲ろうとしているし、心を乗っ取ろうとしているとかそういうのでは無さそうね。
「せっかく終滅の地を浄化したっキュのに、これじゃまた魔物がたくさん生まれてしまうっキュ……。エメシーはやることが滅茶苦茶っキュ」
シロミンは当然苦々しそうに黒く燃え上がる城を見ている。
「パパはこの国はもうダメだって言ってたし、別にこれくらいいいんじゃない?エメシーがやりたいようにやるのが一番だよ!」
ノアは相変わらず私に対して甘いというか、全肯定的というか……。ノアらしいという他ないわね。
それぞれ思う所はあるだろうけれど、シロミンだって何だかんだこんな私についてきているし、多少は人間への理解を深めているのでしょうね。
けれど、やっぱり問題はルナね。彼女はきっとこの事態の変遷について来れていないわ。私のことを優しいとかなんとか言っていたけれど、今は恐怖心を抱かれているのでしょうね。
「ルナ、これで私が優しい人間ではないって分かったでしょう?住む場所くらいなら提供してあげてもいいけれど、これ以上私には関わらない方が良いわ」
私のせいでかなりの迷惑をかけたから、せめてこれからの暮らしは助けようと思いそう言った。
けれど、ルナの返答は予想外にも程がある内容だった。
「いえ、エメシー様は強い心を持ったお方なので、これも間違ったことをしているのだとは思えません。きっとエメシー様はこれからも世界を変えていく真の勇者なのだと思います。勇者を導く聖女として、私はエメシー様の側に居させてもらえませんか?これからもエメシー様の疲弊した心を癒させてください」
真の勇者ですって?この私がそんな崇高なものであるはずがないのに。
「本気で言っているの?勇者を導く聖女としてって、それは初代勇者が聖女とともに旅をしたってだけでしょ。それにその聖女は魔王が討たれた後消息不明になったって聞くし、碌な役目ではないわよ」
「はい、知っています。それでも私はエメシー様の側に居たいのです。それとも、こんな田舎者が側にいては迷惑でしょうか?」
ルナは拒絶されることが怖いのか、悲しそうに上目遣いで私を見つめてくる。
今までルナのことは敵としか見ていなかったけれど、こんなに愛らしい子だったのね。一度そう見えてしまうと、突き放すのがかわいそうに思えてきたわ。
「別に迷惑なんかじゃないわ。私も悪役令嬢なんてもう懲り懲りだし、これからは普通の女の子同士仲良くしましょう。勇者や聖女なんて話はひとまず置いておいてね」
私がそう言うと、ルナは安堵したようで一気に顔を綻ばせた。
ルナの笑顔を見ていると、こっちまで幸せな気持ちになってくるわね。これも聖女の力かしら?いえ、そんなの聞いたことが無いし、私が単にルナの笑顔が好きなだけ……、ってそれじゃ私が笑顔一つで絆される甘い女みたいじゃない!
きっと復讐が上手くいって気が緩んでいるだけよね。そうに違いないわ。
そうやって私が煩悩でふやけた気持ちを整理していると、ノアが不機嫌そうに私とルナの間に割って入ってきた。
「ちょっとー、何二人で見つめ合ってんのさ。エメシーにはボクが居るでしょー?浮気は許さないからね!」
「何を言っているの!別にルナに対して何か特別な気持ちがあるとかではないし、ノアとだって親友ってだけでしょ!」
「えぇー。だってエメシーは僕に入れられてかわいい声で悦んでたじゃん。それってもう親友を越えた特別な関係でしょ?」
「言い方がはしたなすぎるわよ!首筋に牙を入れられて血を吸われただけだし、悦んでなんかいないわ!」
「えっと、お二人はそういうご関係なのですか……?思えば学園でもいつも一緒に居ましたし」
「ルナも信じないで!ああもう、ノアのせいで滅茶苦茶になっちゃったじゃない。あまりここでゆっくりもしていられないし、場所を移して切り替えるわよ!」
いつものからかい癖が出たのか、ノアは誤解を招く発言をして空気をかき乱してきた。
今回のはあまりに品が無くてガツンと叱っておこうかとも思ったけれど、まあお陰でおかしな気持ちもどこかに行ったし、見逃してあげるわ。
それよりも、こんなところで長居すると誰かに見られて怪しまれないとも限らないし、さっさと移動を開始しないとね。
次で一章最終回です。




