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勇者魔王魔法少女悪役令嬢錬金術師  作者: 鎌ろん
第一章:悪役令嬢の復讐
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悪役令嬢の復讐1

偽りの愛への、真の復讐

 いつからだろう、私が愛に執着するようになったのは。ただ厳しいだけの愛のない教育をお父様に施された時か、私の為に全てを捧げてくれたお母様が急逝した時か、私を可愛がってくれたお姉様が隣国へと売られるように嫁がされた時か、それともジェード様が私ではなくルナに構うようになった時か。


 帰らない日々、戻らない愛に苛まれて、いつの間にか私はシロミンが言う悪役令嬢になっていた。


・・・


 私は王の間へと向けて歩を進める。


私のドレスは私の黒い髪が溶け入っているかのように黒く染まっている。周囲の人間を委縮させるために瘴魔力を放出しているのが原因のようだ。


「エ、エメシー様!?どうしてここに……」

 純粋な瘴魔力に当てられ動けなくなった使用人の一人が怯えながら言う。

 けれど、私は何を言うことも無く、彼らを黒い剣で一閃する。この剣はグラトが愛用していた物で、錬金術で再現させてもらった。非常に強い力を秘めており、相手の鎧も結界も全て塵に変えて無力化できる。

 私はそうして出会った者全てを叫び声をあげる隙すら与えず物言わぬ塵へと変えていった。


『その慈悲無き剣筋、正に魔王だな。英雄など止めて、これからは魔王として世界に君臨してみてはどうだ?』


 私の振る舞いを見て、グラトが満足そうにそう言う。


「私は私よ。英雄にも魔王にも傾くつもりはないわ。城の者達には悪いけれど、これは私が過去と決別するために必要なことなの。だからなるべく苦痛なく殺してあげているのよ」

 彼らはジェード様の手先で、私も知らず知らずのうちに彼らに苦しめられていた。それは彼らが望んだことではなく無理矢理させられていたのかもしれないけれど、そうだからと言って許す気にはならない。

 だから、慈悲であり無慈悲でもある死を与えるのだ。

 そうやって目撃者を亡き者にしながら、目的地の王の間の前へと辿り着いた。

 私は躊躇わずに目の前にそびえる大仰な扉に手をかけた。


「誰だ!?合図もなくここへ立ち入るなど許されぬぞ!」

 私が扉を開けると、それに気付いて声を荒げる者が居た。私のお父様だ。


「嫌ですわ、お父様。あなたの大切な娘のエメシーですわ」

「エ、エメシー!?どうしてお前がここに……。それ以前になぜ生きているのだ!?まさか化けて出たのか!?」

「実の娘を幽霊扱いするだなんて、酷いですわ。私はちゃんと生きていますのよ」


 私は愛の欠片も感じられない言葉を発するお父様を冷ややかな笑みで見つめた後、静かに周囲の様子を確認する。お父様と同じく、私を見て幽霊でも見たかのような顔をしている人物が二人。この国の国王と、私の元最愛の人であるジェード様だ。


「エマ……、まさか本当に生きていたとはな。しかし、警戒させていたはずなのにどうやって城に入って来れた?」

 ジェード様は私が生きている可能性には気付いていたようだ。けれど、まさか堂々と城の中にまで入り込んでくるとは思っていなかったみたい。


「どうやってもなにも、私は国王様に招き入れられたのですよ?」

「な、何を言っている!?余は何も知らぬぞ、出鱈目を言って余を愚弄するつもりか!」


 私が端的に事実を言うと、利用されていたとも知らずに国王が責任を負わされては堪らぬとばかりに喚いた。


「いいえ、紛れもない事実ですわ。英雄エメラルド、その正体が私なのですから。国王は私が垂らした英雄という餌に面白いように食いついて下さいましたわね」

 私は無能な国王にも分かるようにはっきりと種を明かす。

 そして、私の話を一番早く理解し反応を見せたのは、やはりジェード様だった。


「何か引っかかると思っていたら、そういうことだったのか。父上に英雄の話をしたのはお前と親しかったハミング伯爵だったな。あれが既に餌だった訳か。考えれば分かることのはずなのに、どうして今まで気が付かなかったのだろうか」

「流石はジェード様、ご明察ですわ」


 私はパチパチと手を打って、冷静な分析を見せたジェード様を賞賛する。


「フン、ここまでヒントを与えられて明察も何もあったものか。しかし、今更ここに戻ったところでお前に居場所はないぞ。それなのに一体何をしに来た?」

「私も今更こんなところに居場所なんか求めていませんわ。私は復讐するためにここへ帰って来たのです。こんな風に」


 私はそう言って無造作に剣を振りかざす。すると、剣から黒い波動が放たれた。それは瞬時に国王へと到達し、先ほどの仕様人達と同じように国王を塵に変えてしまった。


「……王!?」

「はっ?父上!?」


 私の動きに気を取られていた残りの二人は、遅れてその事態に気が付いたようだ。つい今まで国王だった無残な物を見て、声を失ってしまっている。


「国王には特に恨みはないし、今回大いに助けて頂いたから優しく対応しました。けれど、お父様、ジェード様。お二人にはもっと悲惨な死を迎えてもらいますわ」

「ふ、ふざけるな……。追放されたのはお前に非があるからだろう!なのに何を被害者ぶって復讐などとほざいている!」


 国王の死と私の言葉で状況の不味さにやっと気が付いたのか、ジェード様は私への非難を繰り出す。

 けれど、余裕が無くなってきているのかあまりにも抜けた内容になっており、私の心は一握りの動揺すら感じない。


「私に非があるとすれば、復讐相手を見誤りかけたことくらいですわ。私、ルナのお陰で全てが分かりましたの。ジェード様が私に何をしたのか、もう全て正しく分かっていますのよ」

「ルナ……。そうか、癒しの力か!都合良く消されていた私の玩具としての記憶も、ルナと接触したことで戻ってしまったというわけだな」

「ええ、その通りですわ。よくもまあ、あそこまで思い出したくもなくなるような暴力を振るえましたわね。お陰で、私の復讐心は自分でも目を背けたくなるほど膨れ上がってしまっていますわ」


 嫌そうな口振りとは裏腹に、私は薄ら笑みを浮かべてしまっている。

 以前のような言いなりの私ではないと、これでジェード様も理解しただろう。


「くっ、まさか記憶が戻っているとは。殺し損ねただけでここまで厄介に拗れるものか。コヤマ公爵、お前のチート能力でどうにかしろ!こんな娘に育てたお前の責任だからな!」

「そ、そうは言われましても、私の能力は私の周囲の重力を操作するものでして……。この状況では王子も城も巻き込んでしまいますぞ!」

「何だと!?勇者の血引く一族の当主などという大層な身分のくせに、とんだ役立たずではないか!」


 ジェード様は顔を真っ赤にして怒りを露にした。私がこうなったのにはお父様よりもジェード様の方が要因として大きいと思うのだけれど、責任逃れをする様は父親の国王そっくりね。

 それでもまあ、お父様にも恨みはあるのだから、この流れには乗らせてもらいましょうか。


「私には力を扱えるように厳しく躾けたくせに、お父様は碌にご自分の力を制御できないのですわね。そうやって自分にばかり甘くて、私のこともお姉様のこともお母様のことも、誰一人として大切にしなかったことがお父様の過ちですわ。その罪、簡単には償えないと思っておいてくださいな」

「そ、そう言うな、エメシー。私にはこの国の公爵という重責があるのだから、お前に構ってやる余裕が無かったのだ。それくらい理解してくれ、家族だろう?」

 国王の惨状から私が本気であることはお父様にもきちんと伝わっているのだろう。

 私は恐怖で顔をぐしゃぐしゃにしながら戯言を宣うお父様を見て、その無様さに本当にこれが自分の親なのかと疑いたくなる。

 都合の悪い時に限って家族などという耳障りの良い言葉で逃げようとするのが心底呆れてしょうがない。

 今の私は肉親であろうと手にかけることを全く厭わない。ただ冷ややかにその滑稽な男を見つめ、その足元に魔剣を放り投げた。そして、


『錬金術:魔界の門』


と唱えると、錬金術に反応して魔剣は禍々しい門へと変化した

 魔剣を捨てた時は私が心を変えたと思ったのかお父様は一瞬顔をニヤリとさせた。けれど、魔剣が変化し現れた門の異様さにそれは勘違いだったと気付いたらしく、再び無様な顔になり尻もちをついてしまった。


「これは魔界へと通じる門ですわ。家族を大切にしないお父様には、魔物がひしめくだけの魔界で孤独に死んでいってもらいますわ」

「や、止めてくれ、エメシー……。私が悪かったから、どうかそれだけは……」


 腰を抜かして嘆願するお父様を前にしても、私の心は変わらない。それに、既に門は開き、中からお父様を引きずり込もうと蠢き回る無数の手が伸びてきている。


「人の心が無いお父様なら案外、魔物たちとも気が合うかもしれませんわよ?それではお達者で」

「アァァァァァァァ!アヒャヒャヒャキャハッ、キャハハハハ!!!」


 おぞましい光景と私の無慈悲な一言によって心が壊れたのか、お父様は狂ったような笑い声を上げ、そのまま門の中へと引きずり込まれていった。

 やがてお父様の声は聞こえなくなり、役目を終えて満足したかのように門はバタンと閉じる。


「こんなことあるわけがない……。お前の力はこんな理不尽な物を作れるようなものではないはずだ……」

 一人生き残っているジェード様は、あんな光景を見てもまだ考える余力は残っているようだ。

 彼が言ったことは正しい。魔剣や魔界の門は生来の私の力ではなく、瘴魔力を使うことによって生み出せるようになったものなのだから。


「そうですわね。ジェード様が私を終滅の地なんかにお送りにならなければ、私もこんな恐ろしい力を得ることはなかったのですけれど……。結果、ジェード様は手の込んだ自殺をすることになるのかもしれませんわね」

「な、何を言っている?私は何も悪くない!私はまだ死にたくないんだ!おい、誰かいないのか!どうしてこんなに騒ぎが起きているの兵士達は異変に気が付かない!?」

「分かりませんの?私がここに入ってきている時点で、既にこの城にあなた以外の生き残りはおりませんのよ」


 いよいよ醜く取り乱し始めたジェード様に、私は残酷な通告をする。

 実際はここに来るまでの間に出会った兵士しか殺していないけれど、絶望を煽るために嘘を吐いた。


「そんな、ありえない……。一人くらい異常を知らせに来れるはずなのに、それすらさせずに殺したというのか?」

 通告の効果は絶大で、ジェード様の絶望の色がみるみるうちに濃くなっているのが感じ取れる。


「嫌ですわ、ジェード様。せっかく二人きりになれたのですから、そんなに怯えないで欲しいですわ」

「クソがっ、私を蔑む目で見るな!お前は私の玩具なんだ!武器も無くしてもう魔力も使い切った頃だろう、強がるんじゃない!」

「強がる?言ったではありませんか。私は力を得たと。私はもうあなたが知っているエメシーではありませんのよ」


 私はジェード様に向かってゆっくりと近づく。私が虚勢を張っているのではないと分かったのか、ジェード様はさっきまでの口の威勢にそぐわず恐怖で足が震えてしまっている。

 そこにさらに魔王の威圧を加えて、ジェード様の体の自由を完全に奪った。


「……!?なぜだ、なぜ体が動かない……!」

「これも、あなたのお陰で手に入れた力ですわ。抵抗できない状態で自分を害する者を前にする恐怖、これで少しはお分かりになられましたか?私は8年間、これまでの人生の半分をそうして奪われましたのよ」


 権力などという虚構の力ではない、本当の力。それを手にした私の前ではジェード様は無力な赤子も同然だった。


「や、止めろぉ!私はこの世の頂点に君臨する選ばれし者なんだ!こんなことをして許されると思うなよ!」

 被害者側の気持ちを知ってジェード様も少しは反省の色を見せるかと思ったけれど、期待外れだった。まあ、そのお陰で躊躇いなく刑を続行できる。傲慢なことを喚くジェード様を無視して、私はそっと彼の左腕に手を当てた。


『暗黒魔法:破滅の業火』


 暗黒魔法は魔王のみが使える滅びの魔法。漆黒の炎は私の腕から蛇のようにスルリと伸びていき、ジェード様の腕にまとわりついて焼き尽くそうとする。


「ウャア゛ァァァ、熱っ……くはないのか?おい、この気味の悪い炎をすぐに消せ!」

 炎が熱くないことに気付き少し冷静さを取り戻した様子のジェード様。自分の立場が分かっていないし、何も起きていないと思っているのも滑稽すぎるけれど。


「あら、何か勘違いなされているようですわね。ご自分の腕をよくご覧になってくださいな」

「な、何を……。ギャアァァァァ、私の腕が、ほ、骨になっている!?」

「やっとお気付きになられましたわね。破滅の業火は普通の炎ではなく、燃やしたものを瘴気へと変える魔法ですのよ。熱くはないけれど、普通の炎では燃えないようなものも等しく瘴気に変えてくれるので、ゴミの処分にはうってつけですわね」


 全てを焼き尽くすその炎は、すぐに骨すらも燃やし、ジェード様の左腕のあった部分を濃密な瘴気が漂う空間へと変えた。

 あまりのおぞましさにとうとう心が完全に折れたのか、ジェード様は泣きじゃくり、嗚咽を繰り返すようになった。


「これで抵抗できずに為すがままにされる恐怖を味わえましたわね。この炎がジェード様の体全体を包んだのなら、一体どれほど恐ろしい光景が見られるのでしょうか」

「ウヴォエ……。や、止めで……。今度はぢゃんと愛するがら……。お前のごどを妻にしで……可愛がっでやるがら……」


 この状況で尚も傲慢な態度を崩さないことは、呆れを通り越して尊敬に値する。今のジェード様の言葉から、本当に微塵も私のことを愛してくれていなかったことを察し、8年間私が焦がれた愛の無意味さに心が溢れそうになった。


「最初から私のことを愛してくださっていたのなら……。本当に……。私達はお互いに何も奪い合わずに済んでいましたのに。全ては手遅れなのですわ。私達のこのどうしようもない物語を、今、私のこの手で終わらせましょう」

 もう引き返せない。

 顔から噴き出すあらゆる液体でぐちゃぐちゃになったジェード様の頬に私は両手を添える。そして再度、破滅の業火を生じさせる。


「イヤアァァァァァ、ヒァ、ヒァ、ヒッ……」

 短い断末魔を上げた後、すぐに発声機能が奪われてただ地獄の苦しみの中で発狂するジェード様。

 体表から身を削られ、瘴気へと変えられる恐怖。それが、傲慢に染まり己の欲望の限りを尽くしてきた男の最期だった。

 やがて全身が瘴気となったジェード様は、意思を無くしても尚私を害そうと私の身に絡みついてくる。けれど、魔王の力を持つ私にとっては、生じたばかりの瘴気は心地良い新鮮な空気と同じだった。


「ああ、とても良いですわ、ジェード様。この心地良さは、あなたの最初で最後の愛だと受け取っておきますわ、ジェード様」


間違えて過去作で更新してしまっていました。

17時台の更新を楽しみにして頂いていた方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。

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