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勇者魔王魔法少女悪役令嬢錬金術師  作者: 鎌ろん
第一章:悪役令嬢の復讐
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聖女の癒し3

 コーライン王国の王子ジェード・ウィン・コーラインは容姿端麗、頭脳明晰で王子として相応しい人間であった。王位継承権を争う兄弟も居たが、彼らの能力はジェードには遠く及ばず、こと人心を掴むことにおいてはジェードは数段抜きん出ていた。

 そうした理由で次の国王となることがほとんど確定している彼が一つの裏の顔を持つようになったのは、彼が6歳の時に起きた偶発的な事故がきっかけだった。

 貴族達との交流で貴族の子供達と遊んでいた時、誤ってジェードが貴族の子供を一人に大怪我をさせてしまった。

 大怪我をした子供の悲痛な呻き声を聞き、ジェードは心の奥に心地良い疼きが走るのを感じた。同時にその子に謝らなければいけないという思いも生じていたが、それは周囲の大人達の

「この国の王子たる殿下が謝る必要はございません」

という言葉により霧散してしまった。大人達はジェードの不興を買うのを恐れたのだ。

 それ以降ジェードは自分の強大な権力というものを自覚した。どれほどまでそれが通用するのか、そして、あの時に感じた心地良い疼きの正体が何だったのかということを知りたくなった。

 そうして彼は貴族や騎士など、思いつく限りの大きな力の持ち主を呼び出しては暴力を振るうという日常に明け暮れた。

 8歳になる頃には、あらゆる力ある者達が自分の権力の前では無力になされるがままになると認識した。

 そんな彼の前に現れたのが、婚約者候補の一人であるエメシーだった。公爵という王族に次ぐ地位を持つ家の令嬢、そして勇者の血を引く娘。これ以上無いほどに彼の暴虐の標的としてうってつけであった。

 それからのジェードはエメシーへの暴力に執心していた。無抵抗に自分に手籠めにされる彼女を見て、彼は公爵令嬢という地位も勇者の力も、王子の権力の前には無意味なのだと知った。そして何より、エメシーの打撲痕、鮮血、泣き声、呻き声それらから、彼の心は極上の潤いで満たされた。

 しかし、12歳になり学園に入る頃になると、ジェードもエメシーへの暴力に飽きてきていた。そんな折、彼が出向くことになった辺境の村で、ルナと出会う。最初は彼女に対して何も感じることなどなかった彼だが、夜の宴会でルナとダンスを踊った時に体の疲れが突然消えたことに驚かされる。

 それが聖女の力であると気付き、ジェードはルナを次の標的にすることに決めたのである。

 しかし、ルナを側に置くためには婚約者であるエメシーが邪魔になると彼は考えた。そこで彼が次に実行したのが、エメシー追放のシナリオである。

 度重なる暴力により、エメシーが暴力の記憶を無くして、自分への慕情のみが都合良く育っていることにジェードは気付いていた。そこで彼はルナと共に過ごす様をエメシーに見せつけて、エメシーがルナに嫉妬心を抱くように画策した。

 エメシーがルナに対して過激な行動をするようになっても、エメシーの行動に先手を打つことなど彼にとっては造作もなかった。既にエメシーの世話係や担任教師、そして父親に至るまでがジェードの思いのままに動き、情報を与えてくれたからだ。

 そして彼が思い描いたシナリオ通りに、卒業式でエメシーを断罪する流れを作り出すことに成功する。

 最後の最後でエメシーを終滅の地で死なせることに失敗したこと以外は全て彼の思惑の通りだったのだ。

 しかし、彼が最も欲していたエメシーの死が不確定となってしまったことは、彼に大きな苛立ちを与えていた。

 その苛立ちはルナへの暴力で何とか発散していたが、それだけでは収まらない胸騒ぎが彼の中で渦巻いていた。


・・・


「英雄を我が国の戦力に加えられれば、国力が増し民心も得られようぞ」

「英雄は終滅の地の瘴気を消すことすら成し遂げたらしいですな。これまでの勇者のチート能力でもあの瘴気は手が付けられなかったというのに」


 今ジェードが居る王の間にて、国王とエメシーの父親のコヤマ公爵が城に訪れている英雄エメラルドについて話をしている。

 英雄に対して楽観的な二人と違い、ジェードは懐疑心を抱いている。


「しかし、英雄はどうやって瘴気を消滅させたのでしょう?それこそ、新たなチート能力でも生まれていない限りは不可能だと思われますが」

 ジェードの脳裏に、エメシーが生き残っているかもしれないという可能性がチラつく。しかし、エメシーの錬金術の能力を使ったところで、終滅の地の瘴気の大半を消し去ることなどできるわけがないという結論に至った。

 それでも、その英雄エメラルドという人物が謎に包まれていることには変わりがない。

 出身地も分からない人間を、いきなり国の一大戦力として迎え入れようとしている国王に、息子ながらジェードは呆れずにはいられなかった。

 早い内にこんな父には国王の座を譲ってもらわなければいけない、最悪暗殺も謀反も厭わずに実行しなければいけないとすら覚悟していた。


「ジェード殿下は勇者の血が民間に流出してしまっていることを危惧なさっているのですかな?我が公爵家の長女コハルは5年前に隣国のリューキ王国へと嫁いでおりますが、まだその子がチート能力を扱える歳ではないですし、エメシーはもはやこの世におりませぬ。なので、勇者の血の流出よりも、この国に勇者の血を引く者が居なくなってしまっていることを心配すべきでしょう」

「そうだな。余もそう思うていた所だ。近いうちにリューキ王国に連絡して、勇者の血を分けてもらう都合を付けねばならんな」


 ジェードが監視の二人を殺してしまったので、コヤマ公爵も国王もエメシーが終滅の地に送られなかったことを知らない。ジェードも手の者達にエメシーの生死を探らせてはいるが、未だに何の目撃情報も得られていない。

 追放中に遭遇したというホワイトタイガーにそのまま殺されてしまったのだろうか。ジェードがそう考えようとしても、エメシーの追放と英雄エメラルドの台頭の時期が重なることが妙に引っかかる。

 しかし、ジェードの明晰な頭脳をもってしても、魔法少女の認識阻害の力の前には二つの事柄を完全に結びつけるにまでは至れなかった。

 そうして、生産性が皆無な会話を続けながら、彼らは英雄とルナの対談が終わるのを待つのだった。



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