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勇者魔王魔法少女悪役令嬢錬金術師  作者: 鎌ろん
第一章:悪役令嬢の復讐
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聖女の癒し2

 テーブルを挟んで向かい合って座る私とルナ。

 ルナは腰まで伸びた胡桃色の髪を三つ編みにして肩の前へと流している。その髪の艶やかさと月のように煌めく肌は、貴族出身だと言われたら信じてしまいそうだ。これで田舎生まれだというのだから気に食わない。

 侍女がお茶を淹れて部屋から立ち去ると、この部屋には私とルナの二人きりになった。


「ようこそおいで下さりました。英雄エメラルド殿の噂は私の耳にも届いていまして、こうしてお会いできたことが光栄です」

「私の方こそ、申し出を受け入れて下さってとても感謝しておりますわ」


 私たちは簡単な挨拶を交わす。


「エメラルド殿は私に何か話があると伺っています。しかし、私達は一度も会ったことも話したこともないと思うのですが。私のような至らぬ者に、一体どのようなご用件なのでしょう?」

「そんなに謙遜される必要はございませんわ。ルナ様は王子の婚約者になられたご立派な方なのです。本日お伺いしたのもそれに関係しておりまして。私はただ、次期国王の王妃となられるお方とお近づきになりたいと思っただけですのよ。婚約者となられて以降、ジェード王子とはさぞ仲睦まじくお過ごしになられているのでしょうね」


 ルナがこの城で軽視されているのではないかという私の推察の正否を確かめるべく、まずは探りを入れてみた。


 庶民の出ということで周囲には疎まれながらも、上手くジェード様に取り入って庇ってもらっているのではないかしら。そういう予想を私は立てていたけれど、私の言葉を聞いたルナの顔色を窺うと、何故なのかとても困っているようだった。

 もしかして、ジェード様とも上手くいっていないのかしら?だとしたらいい気味ね。


「仲睦まじく……。それならどれだけ良かったことでしょうか。しかし現実は八方塞がりで、もはや私にはどうすることも……。こうして巡り合ったあなたが最後の望みなのかもしれません。エメラルド殿、私を助けてくれませんか?」

 ルナは机の上に置いていた手にギュッと力を込めて、言いにくいことをなんとか振り絞ったかのようだった。


 想像よりも彼女は思い詰めていたみたいね。

 まさか私に助けを求めてくるだなんて。私から全てを奪っておいて、それ以上私に何を求めるというの?

 けれど、助けると見せかけて希望を持たせて、それから裏切るというのも悪くないわね。話を聞いてみましょうか。


「何の事かは分かりませんけれど、話してみて下さいな。お力になれるかもしれませんわ」

「そう言って頂けて、とてもありがたいです。今まで誰にも相談することもできなかったことなので……。私が助けてほしいことは、まさにそのジェード王子についてなのです」

 ルナは神妙な顔つきになってそんなことを言い出した。


 よりにもよって、私にジェード様のことで助けてほしいだなんて、よく言えたものね。元々ジェード様とルナは不釣り合いなのだから、それは悩み事もあるでしょうね。けれど、話を聞く気は完全に失せたわ。自分のことを棚にあげて、ジェード様や私の悪口なんかを聞かされでもしたら不快なことこの上無いもの。


「ジェード様について、ですのね。彼を巡って私にあんな仕打ちをしておいて、今度は助けてくれだなんて虫が良すぎるのではありませんこと?」

「あんな仕打ち?私とエメラルド殿は今が初対面なのですよね?一体何のことを言っているのか分かりません……」

「分からないのも無理はないですわ。本当は私達は初対面ではございませんが、今の私の姿はその時とは全く違いますから」


 それだけ言って、私はティーカップを手に取り紅茶を一口すする。作法に疎いルナにも分かるような洗練された動作で。


「紅茶を飲む動作、とても流麗ですね。もしかしてエメラルド殿は高貴な家の出のお方なのですか?」

「よくお気付きになられましたわね。実は、私はこの国の公爵令嬢だった者なのです」

「えっ……。この国の公爵令嬢って……。公爵家は今はコヤマ家しかないはず……。それで私と接点があるのはエメシー様だけですが、終滅の地に送られたはずで……」


 私の言葉の意味を必死に理解しようと思考を巡らせている様子のルナ。しかし、そこから導き出されたありえない結論に、ルナは顔を蒼白させた。


 認識阻害の力があっても、さすがにここまで言えば気付いたかしら。それなら私がわざわざあなたと二人きりになれる状況を作った意味、分かるわよね?


「何を言っているの?そのエメシーはここにいるわよ」

 私はそう言ってから変身を解き、正体を明かした。


「エメシー様……!?こんなこと、あるはずが……!」

「ふふ、あるはずがないと思うわよね?けれど、これは現実よ。私はあなたに復讐をするためにここまで来たの」

 私はゆっくりと立ち上がり、ルナを見下して恐怖心を煽る。


「復讐なんて……。そんなこと止めてください!エメシー様は、あの下劣な男に心を蝕まれているだけなのです!」

「下劣な男?それはもしかして、ジェード様のことを言っているの?自分がジェード様に愛されないからって、そんな言い方をするのは許さないわよ!」


 ルナの言葉に刺激され、私はルナに近付き、その胸倉を掴み上げた。


 聖人面の化けの皮が剥がれたわね。しかも、よりによってジェード様を侮辱するだなんて、どこまでも私の神経を逆撫でするのがお上手なこと。

 本当はすぐには殺さずにこの女の故郷を目の前で焼き払って、綺麗な顔を引き裂いて、絶望と苦痛をこれでもかと浴びせた後に殺して、その後もこの女の人形を作って城で様々な奇行を行わせて尊厳すら奪った後に狂死させようと思っていたのだけれど、今すぐこの手で殺してしまいたくなってきたわ。


 そう思って、私はルナの胸倉を掴む手に込める力を更に強める。


「エメシー様……。どうか目を覚ましてください……」

 ルナは最後の抵抗か、私に宙に浮かされながらも胸倉を掴む私の腕に手を伸ばす。

 けれど、ルナの力では私の腕はビクともしない。


 もう終わりね。恨むなら自らの非力さと不相応にもジェード様の隣を狙った強欲さを恨みなさい。


 そう考えながら、私は魔王の炎でルナを燃やそうとする。けれど、何故かこの時になってから私は復讐心に綻びを感じ始める。


 一体どうして……?私はずっとルナへの復讐を考えてここまでやってきたというのに、今になって躊躇してしまうだなんて……。


 そして私は気付いた。私の腕を掴むルナの手が、私から逃れようと力を込めているのではなく、優しく包み込むようにしていること、そして、何か奇妙な力がルナから私へと流れ込んできていることに。


「あなた、一体何をしたの……?」

 私は突如ルナへの復讐心を失ってしまい、ルナを持ち上げていた手も放してしまった。

 解放されたルナは咳込みながらも、安堵した表情を見せた。


「ケホッ、ケホッ……、良かったです。私の聖女の力が効いたということは、やはりエメシー様は本当は心のお優しい方なのですね」

「聖女?女神の言葉を聞ける聖女と呼ばれる人間が居るのは知っているけれど、それがあなただと言うの?」

「はい、そうです。私も自分が聖女だということを知ったのはエメシー様の追放後、ジェード王子に教えられてからなのですが。王子は私の村を訪れて私とダンスを踊った時に、この聖女の力に気が付いたそうです」


 聖女の力、そういえば聞いたことがあるわね。何でも、手で触れた相手の体と心の疲れを癒す力があるとか。それで私の復讐心も癒されてしまったということかしら。


「なるほど……。私も今まさにその力の影響を受けてしまったのだし、その話は信じるしかなさそうね。それで、ジェード様はあなたの聖女の力を求めてあなたを王都にまで連れてきたということかしら?」

 行き場を失った私の思考は、ジェード様の思惑がどのようなものであったのかに興味を移した。


「それは合っているようで少し違います。ジェード王子は私の聖女の力ではなく、聖女の力を持つ私を求めていたのです。それが私が王子を下劣だと言い表したことに繋がります。本当に恐ろしい話なのですが……。ジェード王子は、王子の地位という最高の権力でもって、強い力を持つ者に一方的に暴力を振るうことが好きなのです。私も既に何度も殴られたり蹴られたりしていますし、エメシー様もその暴力を受けたのではありませんか?」


 ルナはそう言って腕を見せてきた。痛々しい痣がいくつか見受けられる。何かしらの虐待を受けたことは間違いがないようだけれど、それが本当にジェード様からのものなのかは分からない。


「そ、そんなことは……」

 そんなことはない、と言おうとした。けれど、私はジェード様との暮らしを思い返して、なにか重要な記憶が欠落しているような気がしてしまっている。


「思い当たる節があるのですね。恐らく、エメシー様は度重なる暴力による恐怖とストレスで、最悪な記憶を忘れてしまっているのだと思います。私の癒しの力を更に注ぎ込めば、それらも癒されて記憶が戻るかもしれませんが……。エメシー様は現実を見ることを望みますか?」

 真剣な目つきでルナが私に問いかける。その目の力強さに、私には彼女が私を陥れようと虚言を吐いているとは思えなかった。


 ルナの話が本当なら、私はジェード様にずっと心を縛られてしまっていることになるわ。私は私の心に従って行動したいのに、誰かに心を縛られていました、ではお笑いにもならないわね。


 だから、私の心はすぐに決まった。


「お願い、ルナ。私に真実を見せて。死ぬ寸前まで行った私が今更嫌な記憶程度に怯えたりしないわ」

「はい、エメシー様ならそう言うと信じていました。エメシー様は誰よりも芯の通ったお方ですから。きっと過去の悪い記憶にも打ち勝てるはずです」


 ルナはそう言って微笑みながら、私に両手を差し出す。

 それに応えて私はルナに右手を差し出し、ルナは両手で私の手を柔らかく包んだ。そして、私は暖かな力が私の心と体に染みわたっていくのを感じた。

 癒しの力が私の心の鎖をも消し去り、無意識の底に閉じ込めていた過去を私の脳内に再び解き放った。


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