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勇者魔王魔法少女悪役令嬢錬金術師  作者: 鎌ろん
第一章:悪役令嬢の復讐
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悪役令嬢の追放1

 やってしまったわ―――!


 私は私の最愛の人であるこの国の王子、ジェード・ウィン・コーラインに冷たく睨まれながら、彼が発した追放という言葉を聞いて自分が取り返しのつかないことをしてしまっていたことに気が付いた。


「殿下!終滅の地への追放というのは余りに酷ではありませんか!?あの地はかつて勇者によって魔王が討たれた地で、今は人が立ち入ると狂死してしまうほどの瘴気に満たされているのはご存じのはず。そこまでする必要などないではありませんか!」


 何を抜け抜けと……!


 ジェード様の宣言に対して最初に口を開いたのは、彼の隣に立つ少女。一見私を気遣うような口ぶりに感じられる。けれど、彼女こそが私から最愛の人を奪い、私が実質の死刑宣告を受ける原因となった少女、ルナなのだ。

 ルナは平民の癖にこの由緒正しき者が通う国立コーライン学園に入学し、あろうことか私のジェード様に擦り寄り始めた。

 どうせジェード様には見向きもされないだろうと思い最初の内は見逃していたけれど、どんな手を使ったのか、ルナは見る見るうちにジェード様と親密になっていった。

 そこでようやく危機感を覚えた私は、二人の仲を裂くように様々な嫌がらせや妨害工作を行った。けれど、それらは全てが失敗に終わり、むしろ二人の仲が深まってしまうことになってしまった。

 更に悪いことに、それらの妨害工作を行ったのが私であることがジェード様に暴かれてしまったのだ。焦り焦っていた私は証拠が残ることも厭わずに二人の邪魔をすることに専念していたのだから、そうなるのも必然ではあった。

 しかし、バレてしまったとしても問題ないと私は高をくくっていた。何故なら、私は300年前に地球という異世界から女神によって転生させられ魔王を倒した勇者の末裔であり、チート能力というものを身に宿しているからだ。貴重な勇者の遺伝子を持つ私は何をしたところで見捨てられることなどないと思っていた。それに、何だかんだジェード様は私を愛してくれているのだという自信もあった。その自信は唯の自惚れだったみたいだけれど……。

 何はともあれ、ルナは私から婚約相手であったジェード様を奪った泥棒猫だ。


 私の妨害工作に気付いてジェード様に告げ口したのもこの泥棒猫だろうに、今更聖人ぶったところでその心の醜悪さは隠せないのよ!


「ルナ、この女は残虐非道な上に、これでも勇者の力を持っている。中途半端に生かしてしまうと、君の命を狙う可能性もある。君は私の新たな婚約者なんだ。私は君を守るためにはこれくらいの罰をこの女に与えなければいけないと思っているんだよ」

「そんな……。いくらなんでも、私の命まで狙うなんてことはしないはずです」


 勝ち誇ったように聖人の演技を続けるルナ。

 でも、今はそれよりもジェード様に「この女」呼ばわりされたことが私の心に刺さった。かつては「エマ」と優しく呼んで下さったのに、ジェード様はもはや私に一片の愛情も抱かれていないようだ。

 いや、ジェード様どころか、今この場に居る全ての人が私に対して敵対的らしい。

 一連のやりとりを見ていた群衆の中からはちらほらと私に対する非難と罵声が聞こえてくる。

 私にジェード様に取り入るように口うるさく言っていた私のお父様は、非難が飛び火せぬよう我関せずな様子で目を閉じている。恐らく、この騒ぎに何も口出ししなければ公爵の地位に影響が出ぬよう取り計らうとジェード様が手を回していたのだろう。

 私の取り巻きであり親友であったノアは、私の妨害工作に加担していたことを理由に退学にさせられている。

 私のことを可愛がってくれていた姉も、6年前に隣国へと嫁がされている。

 ここまで状況が悪いと、もう抵抗する気も起きない。


「お前の処遇は決まったわけだが、何か言い残したことはあるか?」

「いいえ、全てはあなたの愛を勝ち取れなかった私の不徳の致すところでございますわ。ここまで晒し者にされてしまってはもはやこの国に私の居場所はございません。私に残された道は、罰を甘んじて受け止め、せめてもの己の尊厳と共に華々しく散ることだけですわ」

「ほう、もっと醜く足掻くのかと思ったが、最後に潔くなったな。ならば、お前の最期を飾る手助けはしてやろう。この女を連れていけ!!」


 ジェード様が声を上げると、扉の外で控えていた兵士達が集会堂の中へと入ってきて、私の両腕を強く掴んだ。

 全く、最後まで乱暴ね……。これも私がしたことへの報いなのかしら。

 私は引きずられるように連行されながらも、最後にもう一度だけ私の最愛の人の顔をみようと振り返った。


「ジェード様、お慕いしておりましたわ……」

 ポロリと口から零れたそんな言葉。これが舞台演劇ならば、悪者も悪者なりに一つの心を持っているのだと、観る者の心を動かす一場面のように受け取られるだろう。もちろんそんな意図はなかったのだけれど、これで少しでもジェード様の心に私の姿が残ってくれれば……。

 さっきまでの冷たい目つきのままか、それとも私の言葉に動かされたか。そう思いながら見やったジェード様の顔は、そのどちらでもなかった。私の最後の姿を見送るジェード様は、その整った顔立ちが台無しになるほどに歪んだ笑みを浮かべていた。

 これは私の心が作り出した幻影?でも、この顔には何故か見覚えがあるような気もしてくる。そして思い出そうとすると、怪我などしていないはずの体の至る所に痛みが走って思考が途切れてしまう。

 誰もが公爵令嬢たる私の無様な姿を眺めるのに夢中で、ジェード様のその表情に気付いている者は居ない。

 凜と潔く退場するつもりだった私は、結局痛みの正体も分からないまま底知れない恐怖を身に宿して集会堂から吐き出されることになった。


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