錬金術師の町作り4
私たちは魔王城への道を順調に進んだ。途中で魔物と何匹か遭遇したのだけれど、魔王の力に魔物を従える能力があったから、それで終滅の地の奥の方へと引っ込んでもらった。
ここまでは良かった。けれど、途中から道を教えてくれるグラトが戸惑いを見せ始めた。
『お、おかしいぞ。この当たりのはずなのに、なぜ辿り着かんのだ!』
「もしかして、道に迷ったの?この辺りはグラトの縄張りだった場所でしょう?まさか、自分の家の場所すら分からないなんてことは無いわよね?」
『うるさい!我もそこまで呆けてなどおらぬわ!我が言った通り、この辺りは地盤が安定しているだろう?だから、場所は合っているはずなのだ』
私が呆れたようにグラトに問うと、グラトは勢いよく反論してきた。
確かに、グラトが言っていた通りこの辺りは建物を建てやすそうな場所ではあるけれど……。魔王城なんていう目立ちそうな建物はどこにも見当たらない。
どういうことなのかと考えていると、シロミンが推測したことを話し始めた。
「もしかして、魔王城が汚染そのものだと判定されて、浄化されちゃったんじゃないっキュか?」
いやいや、さすがに城がまるまる消えることなんてないでしょう、とその説を否定しようとしたけれど、グラトには思い当たる節があったようだ。
『そんなまさか……!我が過ごしやすいようにと瘴気を練り込んで築き上げたのが仇となったか……』
魔王城、そんな作りになってたのね。それだとシロミンの説が合っているのかもしれないわね。魔王城というからにはさぞかし立派だったのだろうけれど、それが跡形もなく消えてしまっただなんて、ご愁傷様……。
「ねーねー、ボクには会話が飛び飛びで分かんないよー。グラトはなんて言ってるの?」
グラトと会話できないノアが私に聞いてくる。
「要約するとね、この辺りが魔王城の場所のはずなんだけれど、魔王城はグラトが瘴気を練り込んで作ったから、浄化魔法の力できれいさっぱり無くなってしまったみたいなのよ」
「ええー、そうなの!?魔王城ってかっこよさそうだから見てみたかったのに残念だなあ。こうなったら、魔王城を越えるかっこいい城をエメシーに作ってもらうしかないね」
「ちょっと、プレッシャーをかけるのは止めてよ。第一、城なんて大きな物は作れないわよ。錬金術で作るものはしっかりイメージしないといけないから、あまりに大きいと細部に拘れなくなるわ」
私の錬金術も万能ではないのよ。魔力があれば物質を何にでも作り変えることができると言っても、あくまでそれは私の想像力が及ぶ範囲でのこと。
「家ならそうね……。これくらいが限界かしら」
そう言って私は平地に転がる石に魔力をありったけ込めて錬金術を使った。
『錬金術:邸宅』
すると、目の前には3階建ての巨大な邸宅が出来上がった。
「おおー。城と呼ぶには程遠いけど、ボクとエメシーの二人で住むなら充分すぎる大きさだね!」
『我の城には遠く及ばないが、一瞬で作った物としてはかなりの出来だな』
「ほんと、そうっキュね……。こんな建物をポンっと作れるエメシーの力、ヤバすぎるっキュ」
はしゃぐノア、何故か上から目線なグラト、そして圧巻されているシロミン。
ノアと私の二人で住むって言い方は何だか語弊がある気がするけど、まあ人間だけをカウントすると実際そうなるわけで、それなら城なんて規模だと持て余すのよ。
「皆、大変なのはここからなのよ。何せ、これでもイメージが大変だったから内装は全然出来上がっていないの。欲しい家具とか装飾品とかを各自で考えてもらうからね。センスが良い提案をしてくれたらそれを私が作ってあげるわ」
私がそう言った途端、場は騒然とする。
「自分で家の装飾を考えられるんだね!面白そう!それならボクは廊下とか壁に血の跡を付けたいなあ」
『それは禍々しくていいな。ならば、骸骨や死霊なども配置すれば更に雰囲気が上がるな』
「二人とも何を言っているっキュか!まずは家具を考えるっキュ!というか、二人のはもはや装飾としても論外っキュよ!」
それからしばらく、グラトの言葉をシロミンが間に入ってノアに伝え、3人でガヤガヤ言い争いをしていた。
これは纏まりそうにないわね……。
「はい、そこまで。内装については今度来る時までにじっくり考えておくこと。今日は町も作らなければいけないし、魔力はそっちに使うわ」
私の静止で何とか場は落ち着いた。
さて、普通の魔力は邸宅作りにほとんど使ってしまったけれど、聖魔力はまだまだ余っているわ。復讐には瘴魔力があればいいし、聖魔力は町作りに費やしてしまってもいいわね。
そう考えて私は、今まで見てきた町を思い出しながら、家を並べ建てていく。
家には最低限台所と寝る場所が必要よね。
インフラとかも大切だけれど、私にはよく分からないからその辺りはやってくる住民達に任せることにするわ。
それよりも重要なのが食料よね。錬金術で作ろうにも、錬金術は個からは個しか生み出せないから、1つのパンに錬金術を使っても100個のパンにすることはできないのよね。
「食料、本当にどうするべきかしら。牛とかの動物なら一頭でもかなりの食料源になるけれど、浄化したばかりの終滅の地跡には草一つ生えていないし、エサの確保ができないわね」
「それなら問題ないっキュよ。浄化魔法で浄化された地には、そのうち草木が芽生えるっキュ。一週間もすれば牛が食べる分くらいの草は確保できると思うっキュよ」
私がどうしようかと考え込んでいると、シロミンが良い情報をくれた。
「あら、そうなの?それなら、最初一週間は様子見で、本格的に町を展開させるのはその後ってことにすればいいわね」
最初は技術者を優先的に呼んで、食料も少数のみ用意。現地での食料確保ができるようになったらその規模に合わせて人を呼ぶことにしましょうか。
「方向性は大分固まって一安心ね。けれど、ここまでの作業に時間をかけすぎて、日も落ちかけてるわ。今日は村に帰るのは止めた方が良さそうね」
「じゃあ今日はこっちの家に泊まるんだね!エメシーとボクの隠れ家を早速使えるなんて嬉しいなあ」
「隠れ家なのは今だけだけれどね。それより、ノアにはお願いがあるのだけれど。食料を作るために、森まで行って木を取ってきて欲しいのよ」
「オッケー、分かった。夜になればボクの力も全開になるし、森までひとっ飛びだからね」
今日はできたてホヤホヤの新居に泊まることになり、ノアが楽しそうだ。
ここから終滅の地の外の森までは急ぎ足でも3時間はかかったのだけれど、私がお使いを頼んだ後ノアは1時間もしないうちに戻ってきた。小柄な体に似合わない太い木を両脇にまるまる一本ずつ抱えた状態で飛んでいる。
ほんと、吸血鬼の力は馬鹿げているわね。この力があるのなら、ノアに運んでもらえば村まで帰るのも簡単だったかもと思ったけれど、私も新居の住み心地は気になっていたし気にする必要はないわね。
「すごいわ、ノア。これだけ葉がついていればそれなりに食料を作れるわ」
「えへへー、やっぱりすごいよねー!でも、流石にボクも疲れてお腹が空いちゃったから、ボクのご飯も欲しいなあ」
ノアを褒めると、ノアは獲物を狙う猛禽類のような目つきで私の首筋をジッとみつめた。
そうね、働いてもらった分のお返しをするのは当然のことだから、この要求は聞き入れてあげないとね。
「はいはい、分かったわよ。どうぞ」
私はそう言ってノアに首筋……ではなく、血の入った小瓶を差し出した。
「ええー!?なんでエメシーから直接吸わせてくれないの?ボクはエメシーの反応も合わせて血を吸うのを楽しみたいのに!」
不平を言い募るノア。けれど、私がこういう形にしたのも理由がある。
「だって、人の目があるところで血を吸われるのって、すごく恥ずかしいんだもの!」
人というか、シロミンとグラトだけれど!シロミンは遠ざけられても、グラトには私の魂に居る限り確実に血を吸う所を見られるわけで……。
「そんなあ……。そういえば、今までも人前でははしたないからって言って吸わせてくれなかったもんね。あれって血を吸うこと自体がはしたないのかと思ってたけど、もしかして血を吸われるエメシーの姿がはしたないってことだったの?」
「そ、そうよ!だって、血を吸われると変な声とか出てしまうし、公爵令嬢として色々アウトだもの!」
こんな時だけやたらと冴えているノアに私は開き直って言い返す。
「それじゃあさ、グラトがしばらく意識を閉ざしてくれればいいんじゃないの?」
『それは無理だな。我の視覚や聴覚はエメシーのものと連結しているようであるし』
「無理みたいよ。だから今日はそれで我慢して。私が錬金術で複製した私の血だから、鮮度はいつもよりも高いはずよ」
「そうなの?じゃあ試しに飲んでみるね。……うーん、確かにいつもよりものど越しがいいような」
の、のど越しって……。複製とはいえ私の血を飲んだ感想がこれって、複雑な気分……。
まあ、これはある意味私のわがままでもあるから文句を言うのは止めておきましょう。
……ノアの為に、もう少し血が美味しくできる方法を探ってみようかしら。
ブックマーク、評価等ありがとうございます。
かなりのハイペースで物語を進めていますが、読み心地等はいかがでしょうか。




