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勇者魔王魔法少女悪役令嬢錬金術師  作者: 鎌ろん
第一章:悪役令嬢の復讐
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錬金術師の町作り2

「ぐすん……ぐす……」

 薄暗い部屋の中、幼い私が地面にへたり込み、一人で泣いている。


 この姿は6年くらい前かしら。私が昔の私を見ているって、これ、どういう状況?どうして泣いているの?

 誰か部屋に入って来たわね。あれは金髪の……男の子?


 どことなく見覚えがあるような気がするけれど、その顔には黒い靄のようなものがかかっていて顔を確認できない。

 その男の子は幼い私の目の前にまでやってきた。

 私はなんだかよく分からないこの状況をただぼんやりと眺めていたけれど、次の瞬間に響いた強烈な打音に驚いて目の前の二人を注視した。

 私の目に映ったのは、唇から赤い血を流し、頬を真っ赤に腫れ上がらせている幼い私。そして、その正面には拳を握り締めた男の子が居る。


 もしかして、この男の子が幼い私を殴ったの?


「止めて……どうしてこんなことをするのですか?」

 幼い私が今にも消え入りそうな声で男の子に問いかける。


「口答えなんて許した覚えはないぞ?お前は私の所有物だ。所有物は所有物らしく私にされるがままになっていろ!」

 思わず耳を塞ぎたくなるような、耳をつんざく金切り声が響く。

 そして、男の子は今度は幼い私の胴体や腕に強烈な蹴りを入れる。

 涙を流し蹲りながら、ただ黙ってそれに耐える幼い私。露出した腕には痣がいくつもできていて、見ていてとても痛々しい。

 あまりに見ていられない光景に、私は二人の元へ近寄ろうとする。けれど、体は見えない縄で縛られているかのように動かない。

 声すら出せず、私は目の前でひたすらに繰り返される暴力から目を逸らすことしかできなかった。

 もう止めて……。心の中でそう願い続ける。止めて、止めて……。


「止めて!!!!」

 あっ、声を出せた……。と思ったら、よく見ると私はベッドからガバリと起き上がった状態になっていた。辺りを見回しても、幼い私も金髪の男の子も居ない。


 そういえば、今は終滅の地に向かっている途中で、追放後にお世話になった最初の村に再び泊まらせてもらっているところだったわ。

 ということはさっきのは、夢……だったのね。 


「エメシー、大丈夫?急にうなされだしたからびっくりしたよ。嫌な夢でも見たの?」

 ノアが心配そうに私にそう聞いてくる。


「そうね……。嫌な夢だったし、何だかすごく重要な内容だった気がするのだけれど、もう思い出せないわ」

 何とか思い出そうと頑張って記憶を辿ったけれど、強烈だったはずの夢が今は一かけの断片すら記憶に残っていない。


「そっか。ボクは眠らないから夢のことはよく分からないや。エメシーが落ち着いて寝れるようにボクが側で見守ってあげようか?やることも無くて暇してたし」

 そう言ってノアは私が寝ているベッドの端に座って私に微笑んでくれた。


 ノアったら、暴れるのが大好きで自分勝手だったくせに、いつの間にこんな落ち着いた気遣いができるようになったのかしら。


 ノアの顔なんて見慣れているはずなのに、今は窓から差し込む仄かな月明かりに照らされて魅力的に見える。


「そ、そうね。別に私はもう大丈夫なのだけれど、ノアが暇だっていうのなら見守ってくれてもいいわよ」

 私は何だかノアに微笑まれているのが気恥ずかしくなってきて、嫌な言い方をしてしまった。

「へへっ、エメシーは素直じゃないなあ。エメシーは強い子に見えて、弱っているときは本当に脆くなるの、ボクは知ってるよ。今もそうなんでしょ?エメシーがボクを助けてくれたみたいに、ボクもエメシーの力になりたいんだから、こういう時くらい頼ってよ」

 私の言い方に怒ることも無く、全てを見透かしてノアはそう言う。


 ここまで見透かされると恥ずかしくて仕方がなくなるわ……。もう夢の事なんて頭からふっ飛んじゃいそうなくらいに。


「もう……。私の力になりたいんだったら、それ以上恥ずかしくなるようなことを言わないで。私は寝るから、ノアはそこに居てくれればいいのよ」

 私は恥ずかしさを抑えて何とかそれだけ言い、何だか熱くなった顔を隠すために頭まで布団を被った。


 シロミンから私とノアとの間の愛で魔法少女の格が上がったって言われて以来、どうも調子がおかしいわ。ノアはただの親友で、私の本当の愛はジェード様の物のはずなのに。


「うん、分かった。ボクがずっと側にいるから、安心して眠るといいよ」

 ノアはそれだけ優しい声色で囁くと、もう何も言わなくなった。


 はあ……。ノアの気遣いはありがたいけれど、ノアのことを意識すると逆に眠れなくなりそうだわ。

 私は心の動揺を何とか抑えようと苦心し、そのままいつ間にやら深い眠りへと落ちていった。


・・・


 ノアが見守っていてくれたお陰かどうかは分からないけれど、再び悪夢を見ることはなく、無事に次の朝を迎えた。そして、今は予定通り終滅の地を目指して歩いている。


「エメシーの寝顔、可愛かったなあ。これからは毎晩エメシーの寝顔を見て過ごすのもいいかも」

「ちょ、ちょっと。勝手に私の寝顔を見るのは止めてよ?昨晩は悪夢のことがあって仕方なく側にいてもらったんだから」


 上機嫌で私の横を歩きながらからかってくるノアに釘を刺す。


「僕が知らないうちに二人で愛を育んでたっキュか?それは良いことっキュ」

『うむ、昨晩のエメシーとノアはとても良い雰囲気であったぞ。我を抑えつける程に気が強いエメシーでも、あそこまで弱ることがあるのだな』

「二人まで私をからかって……。というか、グラトはあのやり取りに気付いていたの?!」

『それはそうだろう。エメシーが起きているときは我の意識も目覚めている。我も邪魔をせぬよう無心で居るのが大変だったぞ』


 魔王のくせに、なによその中途半端な気遣いは。私はあんな姿を見られたと分かっただけで悶絶しそうなのよ!

 乗っ取られるよりはマシだけれど、グラトに魂に居着かれているだけでもあまり良い気分はしないわね。どうにかグラトには私の魂から出ていってほしいのだけれど。復讐が終わったら、何か手を打つことにしようかしら。


「はあ……。まあ今回はグラトが居ることに気を回せなかった私の落ち度ってことにしとくわ。この話はもう終わり。今日は忙しいんだから、道を急ぐわよ」

 あまり長引かせたい話ではないから、そう言って私は終滅の地を目指して歩を進める足を速めたのだった。


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