吸血鬼の娘4
「えー!魔法少女ってのもすごそうだし、魔王の力っていうのはもっとすごいじゃん!そのお陰で血が美味しくなったんなら、追放にも感謝しないとね!」
私の話を聞いて、追放されたと知った時にはすごく怒っていたけれど、最終的には手のひらを反すように感謝をしだしたノア。現金というか、なんというか……。
「感謝って……。追放された時はもう全て終わってしまったと思ったのよ?」
「でも、エメシーの能力ってヤバいじゃん。たとえ終滅の地に送られていても、何とかできたんじゃない?」
「全く、ノアは能天気ね。終滅の地への追放っていうのは、外側の瘴気が薄いところじゃなくて、中央の瘴気が濃いところまでトンネルで送られるってことなのよ?そうなったら手を打つ前に気がおかしくなるわよ」
いまいち事の重大さが伝わって無さそうなノアを見て、私は呆れながらそう言う。
「そっかー。それなら邪魔をしてくれたパパには感謝しないとね。ボクを閉じ込めたことはそれでチャラにしてあげよう。それよりもさー、その魔法少女の姿って奴をボクにも見せてよ」
やっぱりあまり大事だと感じていないようで、ノアの興味はすぐに魔法少女へと移ってしまった。
「はあ……。別に見せてもいいけれど、絶対に笑わないでね?今までは誰にも突っ込まれなかったから何とか耐えることができてていたけれど、本当に恥ずかしいんだから……」
「そういうことを言うから余計に恥ずかしくなるんだよ。いつもの堂々としたエメシーの態度で居れば大丈夫だって!」
「またそんな調子の良いこと言って。これで笑ったりしたらしばらく吸血は無しにするからね」
そうやって軽く脅し、私はさっさと変身してしまうことを決意した。
『変身』
そう唱えると、私は再び魔法少女の姿となった。
特に異常はないわね。後はノアの反応だけれど……。
そう思ってノアの反応を待っていたら、その前にずっと黙っていたシロミンが突然大声を上げた。
「……!魔法少女の格が上がってるっキュ!」
「わわっ、何この白い生き物!?いつからここに居たの?」
魔法少女の格が上がってるですって?一体どうして……。
というか、今までノアにはシロミンの姿が見えていなかったのね。それがどうして急に見えるようになったかも気になるし、一度に色々起こりすぎよ。
けれど、見えるようになったのならノアにシロミンのことを紹介するのが先かしら。
「ノア、この白ウサギはシロミンといって、私に魔法少女の力をくれた精霊獣なのよ。ずっとここに居たのだけれど、どうして今ノアにも見えるようになったのかは私にも分からないわ。シロミン説明してくれる?」
「えっとっキュね……。僕は基本エメシーにしか見えないっキュが、エメシーが正体を明かした相手にも姿が見えるようになるっキュ。正体を明かすというのは、魔法少女の正体がエメシーであると知っている相手の目の前で変身をするかまたは解除する、ということが必要なんっキュが、二人の間にちょうどその条件が満たされたんっキュね」
へえー、そうなんだ。てっきり周りの人は、私の魔法少女の格好と同じで認識阻害が働いてシロミンのことも普通だと思っているんだと勝手に考えていたわ。まさか、そもそも見えていなかったなんてね。精霊獣って本当に謎な生き物ね。魔法少女のことも含めて、まだまだ私が知らない事も多そうだわ。
そんな風に私がシロミンに関する新しい情報を噛み砕いていると、シロミンに興味を持ったらしいノアがとんでもないことを言い出した。
「ふーん、君がエメシーに魔法少女に力を渡したんだ。それなら、血の味の変化の原因が魔法少女の力によるものかどうかは、君の血を吸えば分かるのかな?」
「や、止めるっキュ!小動物はちょっと血を失っただけで死ぬんっキュよ!?もしエメシーの時みたいにゴクゴク吸われたら絶対死んじゃうっキュ!」
シロミンは舌なめずりするノアを前に縮こまって泣きそうになっている。
「あはは、冗談だよ。流石にボクも獣の血なんか吸おうとは思わないって」
まあ、吸血鬼が人間以外から血を吸うなんて聞いたことがないし、それはそうよね。
「ノアのからかい癖には困らされたものだけれど、シロミンは何でも本気にしすぎよ。それよりも、さっき言ってた魔法少女の格が上がったとかいうことについても説明してよ」
「そ、そうだったっキュね。前に、魔法少女の格は、他者との間に愛が確認されると上がるって言ったっキュよね。でも、条件はそれだけじゃなくて、その相手に正体を明かしている必要もあるっキュ。だから、エメシーとノアの間でその二つの条件が満たされたと考えられるっキュね」
なるほど、前に言ってた条件の他にも条件があったのね……。って重要なのはそこではないわ!
「ちょ、ちょっと。私とノアの間に愛って、私たちは女同士なのよ!?そういう関係なのはおかしいでしょう!」
「まあ、愛っていうのは恋愛だけじゃないっキュからね。友愛とか家族愛とか色々あるっキュ。でも、恋愛についても別に性別の壁を越えたって不思議じゃないっキュけどね」
さっきまでノアに怯えていたくせに、シロミンは一変して私をニヤニヤとした顔つきで見てくる。
「そ、そうなのね。まあ、私にとってノアは大切な友人だし、友愛に当てはまるのでしょうね」
まるで私たちの間にあるのが恋愛の関係だと思われているようで、私はそうやって話を逸らそうとした。けれど、ノアに血を吸われているときの感情がチラついて、何故か私は顔が熱くなるのを感じた。
「えぇー。ボクはエメシーのこと、友達よりも上の感覚で好きなのになあ。ボクは別に婚約相手がエメシーだったとしても喜んで受け入れるよ」
私の発言を聞いて不服そうにおかしなことを言うノア。
もう!どうしてこの子はそんなことを平気で言ってしまうのかしら!お陰で私は心の動揺を抑えられなくて、元公爵令嬢としての矜持が丸潰れよ!
「ノア、そんな冗談は止めて!あなたと私は大切な親友同士、それでいいでしょう!それよりもシロミン、魔法少女としての格が上がったのなら、新しい魔法も使えるようになるのよね?それをさっさと教えなさい!」
私は強引に話を切り替える。
ノアがまだ不機嫌そうにしているけれど、一旦この話は終わらせないと私の心が持たないわ。
「自分の気持ちには正直になった方が良いっキュよ?まあ新たな魔法は教えるっキュ。それはズバリ、浄化魔法っキュ!」
「浄化魔法?それは一体どういった効果なの?」
「名前そのままの効果っキュよ。汚染された物や空間を浄化して、綺麗にできるっキュ」
なるほど、汚染を綺麗にできる魔法ね。
「汚染って言われると、まず思い浮かぶのは瘴気よね。その浄化魔法で瘴気は浄化できるのかしら?」
「きっとできるっキュよ!浄化魔法でこの世界の全ての瘴気を浄化してしまえば、全ての人間が幸福を溢れさせて、聖魔力をガッツリ稼げるっキュ!」
瘴気の全除去を勧めるシロミン。けれど、私はその案を否定する。
「そんなことしないわよ。人間はね、安定した幸福を得てしまうとそれが普通になって、今度はより大きな幸福を求めるようになってしまうの。そうなってしまったら新たに聖魔力を得るのが難しくなってしまうわ。だから、人間と魔物の対立構造は維持するべきなのよ」
民衆の愚かさを知らないであろうシロミンにそう諭した。
シロミンは恐らく、ただひたすらに人間の為になることをすれば人間が幸福になると考えているわ。
けれど、そのやり方ではいずれ限界が来るはずよ。人間は適度な苦痛を味わわなければ幸福の味も分からなくなるものだから。
だから、人間の幸福をエネルギーとする精霊からしても、人間が安定した幸福を持つことは望むことではないはずよ。
「そんな……。じゃあ、僕は人間が幸福になることを望みながら、人間が傷つくのを容認しなくちゃいけないっキュか……?」
そう言ってシロミンは絶句してしまった。
シロミンは私と違って優しすぎるのよね。それに、人間への誤解も大きい気がするわ。
「ま、その辺は自分で考えなさい。私は私がやりたいようにやるだけだし、魔法少女の使命なんてどうでもいいわ。浄化の魔法は面白そうだから、使い道を早速考えてみるわね」
思い悩むシロミンは放っておいて、私は新たな魔法の使い道に思いを巡らせることにした。




