魔王の甘言2
村に戻って村長に今日の成果を報告すると、とても喜ばれた。もちろん終滅の地に入ったことや魔王のことは秘密だけれど。
その後も1週間ほど滞在して同じように魔物を狩りまくったところ、私はもはや英雄を見るような目で村人に見られ、兵士達からは尊敬の眼差しを受けるほどになってしまった。
村はお祭りムードに包まれ、私の聖魔力も順調に蓄積していった。
「ふー、こうして祭り上げられるのも悪い気はしないわね」
「村の人間から溢れる幸福、本当にすごい量っキュよ!エメシーはもう立派な魔法少女っキュ!」
『魔物が減って図に乗っている人間どもを見るのは気分が悪いな……』
私とシロミンはここ最近の成果に満足しているけれど、グラトはどうにも不満があるみたい。
「グラトもいっそここで改心してしまったどうっキュ?人間を虐げるよりもきっと楽しい未来が待っているっキュ!」
『馬鹿を言うな。我々魔族は、人間の絶望から活力を得るのだ。人間を虐げずして楽しい未来など、笑わせてくれる』
性質が真逆な以上仕方がないけれど、この二人は反りが合わないわね。これからずっと一緒に行動するわけだから、仲良くしてくれないと私が嫌なのだけれど。
「シロミン、魔法少女には魔王を改心させる魔法とかはないの?折角私の聖魔力が溜まってきているのだから、そうやってドーンと使ってみたいわ」
「流石にどれだけ格を上げても、そんなピンポイントな魔法は使えないっキュよ……」
やっぱりそうよね。世の中そんなに上手くできていないわよね。
私が残念がっていると、グラトが何やらもったいぶりながら声を発した。
『……エメシー、お前は聖魔力とやらを溜めておるのだな?あの忌々しい錬金術で魔力代わりに使おうと。それで人助けなんぞに精を出しているのだな?』
「うん?まあ今更ではあるけれど、説明するとそういうことになるわね」
一体どうしたのかしら、グラトも人助けに興味を持ったのかしら?最初はそう思ったけれど、全然違う思惑があったみたい。
「実はな、我にも魔王特有の魔力、瘴魔力というものがあるのだ。聖魔力に興味があるのなら、瘴魔力にも同じく興味が持てるのではないか?」
瘴魔力……。何だか禍々しい響きだけれど、それが錬金術に使えるのなら確かに興味はあるわね。
「瘴魔力、ね。確かに興味はあるけれど、それを私に教えて一体何が狙いなのかしら?」
グラトに何か思惑があるのは見え見えなので、少し警戒する。
『何、簡単なことよ。この瘴魔力というのは、人間共の負の感情から得られる魔力なのだ。そして、その用途は人間共を絶望に追いやることのみ。その代わりに、用途が合っていれば効果は絶大だぞ』
「なっ!?そんなの論外っキュ!人間を絶望に追いやることにしか使えないなんて!エメシーもこんな話を受け入れるわけないっキュよね?」
シロミンの言う通りね。私は人が良い方ではないけれど、むやみやたらに他人を酷い目に遭わせようだなんて思うほど狂ってはいないわ。だから瘴魔力の魅力は正直微妙よね。
けれど、私が断る前にグラトは話を続ける。
「獣は黙っていろ。我はエメシーに話している。エメシーよ、お前は母国を追放されたと言っていたな。それだけでなく、それは我が瘴気に溢れる地への追放という、死刑も同然なものだったと。それならば、当然お前が恨みを抱いている相手も居るのではないか?瘴魔力はそういった相手への復讐にも使えるのだぞ」
グラトの発言に、私はハッと気付かされる。私から全てを奪った、私が復讐すべき相手、ルナ。ここ最近の魔法少女の活動で忘れかけていたことだ。
「……そうね、そうだったわね。私のすべきことは復讐……」
「エメシー!?駄目っキュよ!エメシーは人間に感謝される喜びを知ったはずっキュ!復讐なんて忘れるっキュ!」
シロミンが食って止めにかかるけれど、何故か私は自分の中に溢れる復讐心を抑えられない。
『ククク……。やはり、我が力に染まって、悪しき心を抑える理性が弱まっているようだな』
「そういうことなのね……。だから突然復讐心が抑えられなくなったと……。グラトの思惑に染まるのは癪だけれど、今はこの気持ちの方が私の本心だと思えるわ」
正直、魔王の力を侮っていたわね。完全に抑え込んでいると思ったら、まさか私の心に作用してくるだなんて。
「エメシー!お願いだからここ最近の人を助ける喜びを思い出すっキュ!」
私の様子の急変に、シロミンが必死に引き留めようとする。
けれど、その声は私の心に届かない。
「ふふ、瘴魔力、魅力的ね。あの女の絶望する顔、たっぷりと味わえるのよね?それなら、こんな村で人助けなんてしている場合ではないわ」
ルナへの復讐心と魔王の悪しき心が混ざり合い、私の感情が嵐のように渦巻く。
私の心は魔王に堕ちてしまった。
そして、どうすればこの復讐を最高の形で果たせるのかを考えていくことになる。
・・・
「世話になったわね。ここでの生活はとても快適だったわ」
「いえいえ、礼には及びません、エメラルド殿。助けられたのはこちらですから」
私は一週間滞在した村を出ることにし、村長にその旨を伝えた。
村長は残念がっていたけれど、私が旅の冒険者だと思っているので無理に引き留めようとはしないみたいね。
それと、エメラルドというのは私が正体を隠すために名乗った偽名だ。本名を名乗ると正体を明かしたことになってしまうから、それを避けるためにペンダントの緑の宝石にちなんで、エメラルドでこれからは通すことにした。
これから私は復讐の為に南東のコーライン王国へと帰る。
けれど、その前にどこかで瘴魔力を稼がないといけない。
「というわけで、次の目的地はこの先にある町よ。追放の旅の途中に通った場所だけれど、魔物が全然現れないせいかかなり平和ボケしている町だったわ。そこを荒らせば、良い感じに負の感情を生み出せるんじゃないかしら」
『なるほど、安心しきっている人間共を絶望の淵に追いやるとは、正に魔王の所業ではないか。良い案だと思うぞ!』
「でしょう?手っ取り早く瘴魔力を集めるには、平和で人が多い町は格好の的よ」
村を離れてから、私は次の作戦についてグラトと話している。こうして話してみると、悪役同士気が合う所が多いみたいだわ。
けれど、そんな私たちの会話に水を差す者が居る。
「エメシー、考え直すっキュ!僕はそんな作戦断固反対っキュー!」
このように、シロミンがとてもうるさい。私の頭にしがみついて喚いたり髪を引っ張ったりしているので余計に鬱陶しい。
専用の檻でも作って閉じ込めてやろうかしら、とも思ったけれど、ここは穏便に済ませるために一つ提案をしてみることにした。
「それではこうしましょう。まず、町を荒らして瘴魔力を得る、これは変わらないわ。でも、そうして人々の心を絶望に追いやった後、魔法少女として彼らを助けるの。そうすれば同時に人助けもできるでしょう?これで文句はないわよね?」
「確かに……。って、それって完全にマッチポンプってやつっキュよね!?そんなの反則っキュ!」
「うるさいわね。これで納得できないんだったら檻を作って、シロミンにはその中で大人しくしてもらうことにするわよ」
「そ、そんなの横暴すぎるっキュ……。こんな魔法少女、想定外っキュ……」
今更気が付いたのね。私は元々人助けなんて柄ではなかったのだから、完全に人選ミスなのよね。
嘆くシロミンを意に介さず、私は次の目的地への道を突き進んだ。




