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flappers 0  作者: さわきゆい
hunter's eyes
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15話

「前にも国に送り返したウィンガーが行方不明になったことがあってな」

自分の席でパソコンに向かっていたアイは、驚いて顔を上げた。

今、部屋には隼也とアイの2人だけだ。普段なら、隼也の方からアイに雑談してくることはまずない。

アイの戸惑い顔を気に留めず、隼也は続けた。

「そいつも南條と同じ年頃の男の子だったけど、家族思いのしっかりした子だったよ。送り返される時も自分のことより、両親や妹がどうなるか心配してた。本人は未だに行方が分からないんだが、一緒にいた父親は1週間後に見つかった」

アイはよかったですね、と言いかけたが、隼也の表情がそれを止めた。いつになく暗い眼差しが、アイの反応を伺っている。

なにか、背筋がざわついて、アイは黙ったまま話の続きを待った。

「頭をぶち抜かれてたそうだ」

抑揚のない、だが吐き捨てるような言い方だった。

アイは体が硬直するのが自分でもわかった。一瞬、からかわれているのかとも思ったが、そんな空気ではない。

自然と唇を噛み締めていた。

「何かの組織に連れ去られたらしいが、どこの誰に拐われたんだか。本人の手がかりは未だにない。須藤さんが言うにはウィンガーの能力目当てのテロ組織ならまだしも、ただウィンガーを殺すことだけが目的の過激な思想集団なんかに捕まったら最悪だとさ」

「ウィンガーを…殺す…?」

「おかしい連中なんて、世界中にいるからな。ただ、封建的な社会制度が強い国ではウィンガーに対するアレルギーも強いらしい。ウィンガーってだけで殺されたり誘拐されたりなんてこと、世界的には珍しくない。研修では教わらなかっただろ」

アイは黙って頷いた。顔が強張っているのが自分でも分かる。ただ驚いただけではなく、海人のことが頭にあるからだ。

隼也に動揺を悟られたくはない。だが、意識しないときちんと呼吸もできなかった。

「ここに来なきゃ知らないでいたこと、多いぜ。ウィンガーに関しては。一般人には興味のないことだからかもしれねえけど、出回っている情報なんて限られてるしな」

隼也と目が合うと、なにか勘繰られそうな気がして、アイは机に置いた手に力をこめた。変な汗が出てくる。

「お前、もしかして自分のせいであの牧師、誘拐されることになったとか思ってる?」

「え、あ…それは…まあ…」

少しうわずった声がでた。

「そんなこと考えてると、ここではやっていけねえぞ、って、ワタナベさんなら怒鳴りつけてるぞ」

まだあまり話したことはないが、ワタナベが明らかにウィンガーを嫌っていることはアイも知っていた。

「あの女や、コントロールの効かないガキがそばにいたんじゃ、バレるのも時間の問題だろ。それに…日本にいたって狙われたり、拉致られる可能性はあるんだってよ」

「え…日本でも…?」

反射的に口にしていた。隼也の笑いが白々しく見える。

「そんなに平和な国でもないんだぜ、実際…」


その後、なにを聞いたか覚えていない。なんとか受け答えはしていたはずだが、自分がなにを言ったかも定かではなかった。

誘拐、拉致という言葉とともに海人の顔が浮かぶ。なぜか思い浮かぶのは満面の笑顔の兄だった。海人が笑ったのを最後に見たのはいつかも思い出せないが、無表情で、生気をなくした顔を兄だと思いたくないのかもしれない。


「大丈夫アイちゃん、疲れてない?」

気持ちを切り替えて仕事をしなければ、とトイレで化粧を直しているとあかりに会った。

「あ、はい、なんか急に色々あったから、ちょっと頭いっぱいで…」

「無理しちゃダメよ。まだ入ったばかりで慣れないのもみんな分かってるから」

あかりの優しい笑顔はありがたかったが、ここで甘えて泣き言を言うわけにはいかない。

「ありがとうございます。大丈夫です」

取り繕った笑顔で頷いて見せる。

「室長がアイちゃんがうちの職場にどれほど必要か、これで上にも強く言えるって張り切ってたわ。半年と言わず、ここで勤務し続けて欲しいって」

そう言ってから、ふと、あかりは心配そうな顔になった。

「あ、でも東京とか大阪で働きたい?」

「え?いえいえ!」

慌ててアイは首を振る。

「実家もこっちなので、ここで仕事できた方がいいです!」

あかりはホッとした顔になった。

「そうだよね〜、うん、私も一ここにいて欲しいわ」

本心からそう言ってくれているのが分かって、アイは嬉しかった。

実家が市内なのはもちろん、今は海人のこともあるからここで落ち着いて仕事をしていきたい。そう、海人の居場所さえ分かれば、今はとても充実しているはずなのに…


「物騒ですねぇ。嫌な傾向です」

向田は報告を受けながらため息をついた。

口調は世間話をするおばさま然としているが、表情は険しい。

「今のところ犯行声明も出ていないし、手がかりはないようですね。乗員乗客全員となれば移動するのもかなり目立つはずですが」

向田と机を挟んで向かいあっているワタナベはそう言った。誰と話す時でも挑みかかるような雰囲気の男だが、向田は気にした風はない。

「南米に送致したケースでの今回のような事件は初めてです。あちらで登録されたウィンガーが姿を消したり、殺されたケースはありますが、それはどこの国でもあることですから」

向田はワタナベの言葉を机に置いた自分の指先を見ながら聞いていた。

「こちらからサントーロ氏の情報が洩れた確証はないのでしょう?」

音を立てずに机を叩く指先にワタナベは頷きかえす。

「しかし、可能性を否定できるわけでもありません。ルイス・サントーロの送致は向こうの国でも極秘扱いで進めていたそうですから。こちらから情報が洩れていたとなれば大問題です」

いつも不機嫌そうなワタナベだが、今は明らかに苛立っている。向田もそれは分かっているのだろうが、テンポよく議論を進める気はなさそうだった。

「こう言ってはなんですが…」

手元の書類をゆっくりまとめながら向田は言った。

「あちらに完全に引き渡してから行方不明、となればまずはあちらの対応に問題がなかったかどうかが一番の問題になる。余計な口出しをしなければ、それで済むはずです」

ワタナベが身を乗り出して口を開きかけたのを、向田は手を上げて制した。有無を言わせない動きだった。

「アイロウというのは、独特な組織ですねぇ。まぁ、扱っているものが独特だからでしょうが。我々のような()()()にはなかなか全ての情報を開示してくれない。外から突こうとすれば…排除されるだけです。突くなら、内側からですよ」

向田の目に光が宿る。その光ははワタナベを納得させるのに十分な強さを秘めていた。

「まだ、時間が必要です。先に足元をすくわれないためにもね。内側の勢力を充実させないと」

まだ不承不承という様子はありつつも

「わかりました」

と、ワタナベは頭を下げた。

そのまま部屋を出ようとするワタナベを

「ああ、ちょっと…」

向田は呼び止めた。

引き出しから封筒を取り出し、ワタナベに差し出してくる。

「明日、サイトウさんの歓迎会でしょう。私、東京へ行かなきゃならなくて出席できないので。足しにしてください」

「え、ああ、すいません。お預かりします」

一瞬ためらったものの、自分が遠慮することもないと思ったのかすぐにワタナベは受け取った。

「彼女、アイロウの上層部も注目してますよ。できればこのままうちで働き続けてもらえるように仕向けたいですね」


エル・プロテクトのオフィスでは隼也が須藤とアベに歓迎会の場所を伝えていた。

「和食?落ち着いた感じの店だね」

自分の携帯端末で店のホームページを見ながら須藤はちょっと首を傾げる。主役が十代の女の子なのに、渋い選択ではないかと言いたげなのは隼也もすぐにわかった。

「刺身とか、寿司好きだって言ってたらしいんで。先週、行ってみたんですけど料理うまかったですよ」

すかさずそう言ったのに、アベが横から口を挟む。

「あ、いや、言ってたって言っても食べたいもの聞いたわけじゃないっスよ。雑談で喋っただけで」

「え?桜木くん、自分で確認したんじゃないの?せっかくコミュニケーションとってもらおうと思って幹事任せたのに」

須藤がわざとらしく口を尖らせる。隼也はため息をついた。

「仕事に必要なやり取りはしてますよ。好きな食べ物なんて雑談で聞き出すのが一番じゃないですか」

須藤の目が細まる。

「アベ君はともかく、君が女の子から色々聞き出すの苦手とか言わないよねえ?」

「あの、アベ君はともかくってサラッと言われるの、結構傷つくんですが…」

アベの遠慮がちな抗議には耳を貸さず、須藤は続けた。

「お店も彼女に教えてもらって、お手軽に決めちゃったんでしょ?せっかくだから絵州市のお店あちこちリサーチするチャンスになると思ったのにさ」

「このところの忙しさでそんなヒマありませんよ」

「先週、行ってみたのって彼女とでしょ」

「やっと!一ヶ月ぶりのデートだったんですよ!」

最近は、須藤のからかいや真顔でのイジリにも慣れてきて、隼也も結構言い返すようになっている。

須藤の方もそれを面白がっている様子だ。

「ああ、いいですね、彼女のいる方たちは」

アベが聞こえよがしに言うが、またも2人にスルーされるのもお約束になりつつある。

「彼女、なかなか渋いお店知ってたね」

「彼女のルームメイトがバイトしてるんですよ」

「え!ていうことは」

不意にアベが顔を輝かせて乗り出してきた。

「モデル級にカワイイ彼女の友達ですか!」

須藤は吹き出した。

「そうくるか〜、まあね、いい出会いのチャンスではある」

正直、隼也としてはヒヤヒヤする。

この仕事の関係上、彼女にも職場で使っている名前しか教えていない。仕事も警備関係と言ってある。あまり密度の濃い交友関係は、須藤だって望んでいないだろう。

「桜木さん!紹介してくださいよ!」

「いや、そのバイトしてる子の方は全然タイプが違って…」

隼也のいうことなど、アベの耳には入ってなさそうだ。


ちょうどその時、ドアが開いてワタナベが戻ってきた。3人ともなんとなく不自然な動きで自分の席に戻る。

「ああ、須藤さん、室長から預かってきたんですがね、これ、歓迎会の足しにしろと。桜木に渡しておいていいですか」

手にした封筒を軽く振って見せたワタナベに須藤が頷く。

封筒を受け取りながら歓迎会の場所を伝えると一言

「若者向きじゃないな」

と返された。

「桜木さんの彼女の紹介ですよ」

アベが頼まれもしないのにフォローを入れる。

ジロっと睨むような視線に

「あ、いや、紹介というか…」

隼也も思わず口ごもりそうになる。別に非難されることはないはずだが…

「彼女の友達がバイトしてるんですよ。ちょっとは安くしてくれるみたいなんで」

なんで言い訳してるみたいな話し方になるんだ、と自分にツッコミを入れたくなった。

「交友関係は浅い方が後々楽だぞ」

とでもクギを刺されるのかと思いきや、

「なんだ、自慢の彼女も来るのか?」

思いがけない切り返しに

「まさか!職場の飲み会に呼びませんよ!」

隼也の声は少しうわずった。

「ふうん。そりゃ、残念だな」

いつものぶっきらぼうな一本調子でそう言ったきり、ワタナベは自分のデスクの上の書類を整理し始める。

冗談のつもりなのか、なんなのか分からず、隼也とアベが困惑の視線を交わしていると、またドアが開いて、歓迎会の主役が入ってきた。

「…なかなか、個性の強いメンバーだよね」

肘をついて、4人を見回しながら言った須藤の言葉は、アベが書類の山を落とした音にかき消された。

「大丈夫ですか?」

アイが拾うのを手伝おうとかけよる。

「なんでもかんでも印刷するからだ。データで保存しときゃいいだろ」

ワタナベはアベの方は見もせずに吐き捨てる。

「あ、そこ…」

隼也の注意は間に合わず、アベの肘が新たな書類の山を突き崩した。

「マジかよ〜」

アベの嘆きをよそに、須藤は目を細めてその光景を見ている。

「いいハンターがそろったよ」

満足気な須藤の言葉は、一斉に喋る4人の声にかき消された。


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