1話
最初に『ウィンガー』と呼ばれる翼を保有する人間が確認されたのは、50年ほど前になる。
今でも有名な映像が残っている。ラスベガスのカジノの監視カメラ映像。
人ゴミの中で知人と言い争っていた若い黒人男性が頭を抱えて仰け反ると、その背中周辺にキラキラした結晶のようなものが集まり、1秒とたたずに白い綿状に変化していく。
周囲が何が起こっているのか把握できず、呆然と取り囲むなか、綿は白い羽へと変わり、背中から生える翼となった。
この『最初の天使』出現以降、世界中で突然翼を発現する人間の報告が上がるようになっていく。
人間の進化の過程、新しい人類の誕生などと世間は盛り上がるが、この翼がどこから現れ、身体にどのような影響を与えているのか、どのような人間に発現するのかなど、名だたる研究者たちがこぞって取り組んでも、何一つ解明されなかった。
翼が現れている間、彼らは飛躍的に身体能力が向上する反面、非常に攻撃的な人格になり、時に周囲に危害を及ぼすことも人々に不安を与えた。
適切な肉体的、心理的処置を受け、トレーニングを受けることによって、翼の発現をコントロールし、翼発現時の暴走も抑えられることが明らかになってきても、ウィンガーに対する恐怖感は根強い。
翼を最初に発現するのは10歳から18歳ころのいわゆる思春期に集中しており、不安定な精神状態が発現に関わっていることは、今では周知の事実となっている。
やがて、ヨーロッパで翼保有者同士が結託して300人以上の犠牲者を出した爆弾テロが、ターニングポイントになって、国際翼保有者登録機関(IROW:アイロウ)が設立された。
「翼を保有する人々とその周囲の安全を確保するため」というのが表向きの設立理由だが、登録により、ウィンガーの動向を管理することが一番の目的である。
そして、アイロウ設立から25年が過ぎようとしている現在。絵州市では数年前から年に複数人のウィンガーが保護されている。
翼が発現するのは100万人に1人程度と言われている中でこれは異常な数字であった。
絵州市に設立された『未登録翼保有者対策室』ではウィンガーで、チームリーダーの須藤誠次のもと、元自衛隊員の桜木隼也達がアイロウ未登録のウィンガー、通称隠れ天使の保護に奔走していた。




