二つの人影 困った二人の黒と灰色の人影を発見
大和皇国、周囲を海に囲まれた島国で有り、内陸部は豊かな森林と険しい山岳地帯と言う資源の少ない平和な国家であった。
その海を挟んだ場所に位置する隣国である草原と、広野の広がる満清国を進む、二人組の乗る一台の車両の姿があった。
『ブロロロロ~~』
『島根県にて迷宮が出現しました、只今、陸軍と警察による魔物の殲滅作戦が展開されております・・』
砂漠の様な寒く乾いた荒野を砂煙を巻き上げながら走る一台のサイドカー。
それは皇国陸軍に正式採用された、九七式側車付自動二輪車、その通称は九七式と呼ばれる軽車両である。
その車上に跨がり運転を担当する軍服姿の若い男性と、軍服姿の美しい女性達。
「だってさぁ~~、太一?」
「ああ、今じゃあ何処でも魔物と匿族だらけだからな、千ゑ(ちえ)」
運転を担当する男、太一の顔には右眉から左頬へと一筋の切り傷後が有り、彼の雰囲気は若いチンピラの様であった。
彼は五分がりにした頭に、正面に黄色い五傍星の付いた濃緑色の先頭帽を被り。
服装は同じく濃緑色の軍服を着て、赤茶色のX型のサスペンダーとベルトに、同色のホルスターと二つの玉帯を備え、靴は黒い軍靴を履いていた。
背中には半自動小銃である、フカヒレ型の弾装を備えた丙型銃と、百式機関短銃を背負い、腰のベルトには日本刀を下げていた。
その隣で座席に座り、膝上にラジオを載せたまま、備え付けられた九二式重機関銃を両手で握る、千ゑと呼ばれた女性。
彼女の艶の有る黒い髪は長く、薄浅黒く健康的な黄色い肌色は美しく、丸く黒い瞳は強い意思を宿しており。
彼女の見た目麗しい容姿は正に、皇国古来の理想の女性像たる、大和撫子その物であった。
頭には皇国海軍陸戦隊の薄緑色の、後部に三枚の棒垂布の付いた正面に錨をあしらった防暑帽を被り。
服装は薄緑色の軍服を着て、茶色いX型のサスペンダーとベルトを着けて。
ベルトには革製のホルスターと、木製の拳銃の入れられたストック型のホルスターに加え。
長脇差の鞘と、太一の物より角が丸みがかった二つの弾帯を備え、足には黒い軍靴を履いていた。
二人は俗に言う満清浪人や満清ゴロと呼ばれる、傭兵の様な存在であり、魔物や盗賊の討伐等で生計を立てていた。
「・・?・・来たぞっ狼だっ!」
「アタシの出番ねっ!喰らえっ」
『ドドドドドッ』
太一が正面から迫る黒狼の群れに気がつき一言呟くと、その隣で九二式重機関銃を構えていた千ゑは発砲を開始し、黒狼の群れに無数の銃弾を浴びせていく。
七、七ミリ弾を浴びた数匹の黒狼の群れは、身体の彼方此方を吹き飛ばされて四散してしまう。
「後ろに回り込まれたぞっ!」
「大丈夫よっ、私に任せてってば」
九二式機関銃の銃弾を潜り抜けた、二匹の黒狼達を仕留める為に千ゑは下を向いた。
そして、腰からストック型ホルスターを抜き取り、銃本体を即座に組み合わせ、振り向き様にモーゼルC96ラージリングモデルの銃身を向ける千ゑ。
「これでもっ!」
『バンッバンッバンッバンッ!!』
銃身から連続で発射された幾つもの拳銃弾を浴びた二匹の黒狼は、身体を後方へと殴り飛ばされた様に、弾丸の威力に押され、ドサリと地面に落ちた。
「終わったな、面倒だが次の村で死体を売るか?」
「そうね・・死体を運びましょう、肉は私達が、毛皮は村で売りさばきましょう」
無事に黒狼の襲撃を撃退した太一と千ゑ達は、九七式測車付き自動二輪車を停車させ、黒狼の死体を集め始めた。
荒野を九七式二輪で走り抜ける太一と千ゑ達、彼等が目指すのは遠く離れた場所に存在する小さな村である。
だが彼等の前方には小高い丘が見え、その頂きにはキョンシーやグールに包囲された、黒い服装と灰色の人影が有った。
「撃て撃て、近寄らせるなっ!」
「分かってるわよ、貴方こそ撃ちまくりなさいっ」
シュマイザーMP40短機関銃を撃ちまくる黒い軍服の男、そしてシュマイザーMP44突撃銃を乱れ撃ちする女性達。
男の方は異国人らしく、黄金色の髪と薄水色の瞳の持ち主で、鷲と髑髏の描かれた黒い制帽と黒い軍服を着て。
黒いベルトに、黒いホルスターと、左右に三本ずつの機関短銃の弾帯を下げ。
背中にはG43ZFと、ツヴァイヘンダーを背負い、下には黒い軍靴を履いていた。
女性の方は栗茶色の髪を密編みポニーテールに纏め、灰色の略帽を斜めに被り、補助部隊の制服らしき軍服を着ており。
ベルトには騎兵用ゼーベルの鞘と左右に三本の弾帯を下げ、下には灰色のスカートを履き、その更に下に茶色のタイツに黒い短靴を履いていた。
「残段は?」
「残り弾装は三本だ、後は拳銃を撃つしかないな・・」
二人は丘の下から傾斜の緩やかな坂を登って来る、無数の中華服姿のアンデッドへと銃火を放つ。
だが周囲を囲む大量のアンデッドの群れは、二人を今にも食い殺さんと早歩きや小走りで我先にと迫る。
「彼奴等を救わなければっ!」
「動く死人は私に任せて」
救援に向かおうとする太一は九七式二輪の速度を急速に上げ、銃座に座る千ゑは九二式重機関銃の照準をアンデッドの群れに向ける。
『ドドドドドドドドッ』
九二式重機関銃から放たれた弾丸は、中華服姿のゾンビやキョンシー達の身体を容易く貫き、どんどん転倒させて行く。
「天の助けかっ!!」
「助かったわ・・」
アンデッド達の後方から現れたサイドカーの姿を見た、黒軍服の男と灰色軍服の女性は漸く助けが来たのかと、ホっと胸を撫で下ろす。
「よしっ今の内に戻るぞ」
「彼処まで行くわよっ!」
だが胸を撫で下ろしたばかりの彼等は、未だ丘の上を目指して此方へと這ってでも登って来る、アンデッドの群れから逃げるべく。
クルりと身を翻しアンデッド達の少ない、丘の反対側へと銃を撃ちながら駆け出した。
「彼等は何処へ?」
「行くのかしら?」
助けようとしていた二人の男女の姿が、丘の反対側へと向かい自分達から見えなくなると、太一と千ゑ等は無事に逃げ切れたのかと思ったのだが。
『ブロロロロロローー』
やがて丘の右側から二人の乗った、機関銃の備え付けられたサイドカーが土煙を猛烈な勢いで巻き上げて現れた。
「助かった、二人が来なければ、もう少しで俺達は奴等の餌にされただろう」
「貴方達が助けに来なかったら、今頃奴等の仲間に成っている所だったわ・・」
それは右側にMG34機関銃を備えた座席が付けられた灰色のサイドカー、ツェンダップKS750であった。
不定期更新に成ります。