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【幼馴染はおっとりしている】


「ごめんなさい、今度ジュース奢るから今までの全部無しで」そんな言葉を残して家から出て行った木下コトネ。なんだったんだあいつ……。


 あの様子だと俺が素人だというのは予想外だったみたいだな。まあ下手に関わることにならなくてよかったか。


 俺はお茶などを片付けつつそんなことを考えていた。


「ただいま帰りました」


 お、アリサが帰ってきたようだ。

 俺は台所からひょっこり顔を出して迎える。


「おかえり」

「あれ……? 兄さん誰か家に呼びました?」


 アリサはきょろきょろと辺りを見渡してそう言った。


「え? ああ、さっきまでクラスの人が来てたから。なんでわかったんだ?」

「いえ、女の人の匂いがしたので。私の知っている人ではなさそうですね」


 匂いって……ここリビングだぞ。木下コトネがいたのは俺の部屋なのによくわかったな。

 たまにアリスはこういう直感みたいなのが働くから嘘なんかつけないんだよな。


「あ、ああ。最近転校してきたやつだからな。用事があってウチ来たんだけどなんか勘違いしてたみたいですぐ帰ったよ」

「そうだったんですか。私も会ってみたかったです」

「有名だからそのうち見れると思うぞ」

「……まぁいいです。それより兄さん、ご飯にしましょうか」

「おー、そうしよう」


 その後俺はアリサと他愛ない会話をしてその日を終えた。

 そして次の日の朝、いつも通り登校しようと玄関を出ると、隣の家から幼馴染の北条ほうじょうユイがちょうど出てきた。


 あっちも俺が家から出てきたことに気づき、笑顔でこっちに近づいてくる。

 少し茶色いウェーブがかった髪に、おっとりとした目。童顔な顔に不釣り合いな巨大な胸は思わず目のやり場に困る。

 

「いっくーん。おはよぉう」

「ユイ、お前もう体は大丈夫なのか?」

「うんー。もう元気いっぱいだよぉ」

「そかそか。よかった。俺の看病で体調崩したみたいだからな。心配したよ」


 俺が看病しにユイの家に行こうとしても、風邪かなにかを移したら悪いからって家に入れてもらえなかったからなぁ。心配だったぜ。


「えへへ、これでまたいっくんと一緒に登校できるねぇ」

「私もいますよ、ユイさん」


 俺の後ろからひょっこりとアリサが顔を出してそう言った。当たり前だが昔からアリサとユイも知り合いだ。


「あぁっ! あーちゃん」


 アリサを見たユイはぱぁっと顔を明るくしてアリサに近づくとそのままぎゅうっと抱きしめた。

 ユイの豊満な胸にアリサの顔が埋もれる。


「ちょ、ユイさん、やめ」

「可愛いぃ〜あーちゃん可愛いぃ。私の妹になってよぉ」

「む、無理ですっ。ちょ、暑いし敗北感味わうんで離れてくださいっ」

「えぇ、しょうがないなぁ」


 ぐいぐいと押しのけようとするアリサを名残惜しそうにユイは離した。


「そういえばユイ。お前新しいクラスについて聞いたか?」

「うん。めーちゃんに名簿見せてもらったぁ」


 めーちゃんとはユイの仲のいい女友達の事だ。俺はそこまで親しいわけじゃないが高校に入ってから仲良くしているようだ。


「また同じクラスだな」

「こーくんとも同じだもんねぇ、凄いよねぇ」

「ま、今年もよろしく頼むぜ」

「任せといてよぉ」


 そんなこんなで俺たちは学校に到着した。クラスに入ると、ユイを心配していたらしい女子たちがユイに駆け寄って何やらきゃあきゃあ話してる。

 俺はその女子特有の空間から逃げるようにして自分の席に着いた。すると既に来ていたコウジが俺に話しかけてくる。


「よぉイッキ。復帰早々夫婦で登校か?」

「うるせぇ、アリサもいたわ」

「ま、あの様子ならユイももう平気そうだな。それよりも、だ……まだ1限までは時間あるな?」

「あ?」


 何か含蓄のある言い方でコウジはそういうと、おもむろに指をパチンと鳴らした。

 するとクラスの10人ほどの男子が急に立ち上がり、俺の方に何か怨念めいた視線を向ける。


「連行しろ」

「サー! イエッサ!」


 コウジの一声で彼らは軍隊のように動き出し、俺の事を四方から囲むと体を拘束し始めた。


「え? 何すんだよおい!」


 俺はじたばたとするが流石に多勢に無勢。俺はあっさりと彼らに連行された。


 俺が連れて行かれたのは基本的に使われる事のない多目的教室だった。何故か俺は腕を縛られて椅子に座らせられる。


「おい、なんの真似だよこれ」

「では今から上杉イッキの尋問を始める」

「話聞けよ! てか尋問って何!?」

「被告人の上杉イッキは、木下コトネと親しい関係にある容疑がかけられている。これは事実か?」


「「「事実か?」」」


 コウジの質問を追いかけるように他の男子たちが復唱してきた。

 なんだよこれこえーよ。でも意味がわかってきたぞ。こいつら俺と木下コトネの関係について聞きたいのか。何にもないってのに暇な奴らだな。


「俺と木下は全く親しくなんかない」

「では昨日上杉イッキが木下コトネを連れてどこかへ行ったのは?」

「あれはあっちから呼び出されてたからそれに従っただけだ。お前らが見てるとこで話したくもないしな」

「ほう。ではいったい彼女の用事はなんだったのかね?」

「俺を違う奴と勘違いしてたらしい。つまり人違いだ。ドゥーユーアンダスタン?」


 俺がそう言うと、コウジたちは互いに視線を交わし合い、そして頷くと急に興味なさそうにし始めた。


「なーんだ人違いかよ」

「まっ、イッキのような奴を木下さんが興味持つなんてありえないと俺は思ってたぜ」

「よかったなイッキ、これでお前を粛清せずに済んだ」

「俺は最初からイッキのこと信じてたぜ」


 次々とそんな事を言い始めるクラスメイトたち。

 よくもまぁここまでやっといてそんなこと言えるなこいつら。


「いいからさっさとこの縄を解け」

「おぉ、すまんすまん。今ほどく」


 こうして俺は無事に解放された。

 朝っぱらから俺は訳のわからん尋問をされ疲れ果てたために1限は盛大に寝た。


 それ以降はいつも通りの授業風景が続くと思っていたのだが、そうはいかなかったらしい。

 “それ”は昼休みに起きた。


「うっ……」

「ユイっ!?」


 俺が教室で弁当を食べていると、教室の別の場所で友達とご飯を食べていたユイが突然椅子から転げて倒れたのだ。

 それを見た俺とコウジはすぐさまユイに駆け寄る。


「おいっ、ユイ!?」

「い、いっくん。ご、ごめん大丈夫だよ。ちょっと目眩がしちゃって……」


 ユイは少し笑いながらそう言った。

 確かに大丈夫そうに見えるが……。

 俺はコウジと目を合わせる。何も言わずにコウジは頷いた。


「えっ? いっくん?」


 俺はユイの手を掴むとそのまま立ち上がらさせ、引っ張って廊下に連れていく。


「保健室行くぞ」

「ちょ、大げさだよぉ。大丈夫だってぇ」

「うるせぇ行くぞ」

「……わかったぁ。えへへ」

「何笑ってんだよ」

「いっくんと手繋ぐの久しぶりだなぁって思ってぇ」

「……うっせ」


 こいつはなんでそんな恥ずかしい事を急に言い始めるんだ。意識したらだんだん恥ずかしくなってきたじゃないか。

 やべぇ、手汗かきそう。かいてないよね? これで汗ベタベタとか凄い格好悪いぞ。


 どうやら手汗のことは杞憂だったようで俺たちは保健室にたどり着いた。保健室に入るとそこには男子の中で異様に人気が高い保健室の先生、浅野先生がいた。


 茶色の長い髪におっとりとした目。それに目の下には黒子があってそれも色気を出している。

 白衣を少しはだけさせているせいで豊満な胸が強調されていて目のやり場に困る。


「あら、上杉くんに、北条さん。どうしたの? ベッド使うなら静かにね」

「違いますよ。ユイが急に倒れちゃって、診てもらっていいですか」

「それは大変ね、ちょっとこっちいらっしゃい」


 そう言うと浅野先生はユイの目を見たり質問をしたりし始めた。それらが終わると先生はこう言った。


「たぶん今まで寝込んでたのに急に学校に来て動いたから体調をまた崩したんだと思うわ。とりあえずはここで寝てなさい」

「はぁい」


 ユイは言われるがままもそもそとベッドに入っていった。どうやら大丈夫なようだ。


「じゃあユイ、安静にしてろよ」

「うん、ありがとぉいっくん」

「あなたも一緒に寝たら? いっくん」

「先生が不純でどうするんです。それにさり気なくいっくん呼びしないでください」

「はいはい。じゃあ私がちゃんと診ててあげるからあなたは授業に行きなさい」

「わかりました、お願いします」


 そう言って俺は保健室から出た。そのまま教室の方へ向かおうとしたが、行く手を阻むように壁にもたれかかっている木下コトネの姿を見て俺は驚いた。


「うわっ、木下コトネ! 何してんだお前」

「フルネーム呼びとは随分よそよそしいのね」


 そりゃそうだろ得体の知れない奴なんだから。

 そうは思ったが口には出さなかった。


「んで? 何してんだよ」

「単刀直入に言うわ。あなたの幼馴染の北条さん、彼女の体調不良は異能のせいよ」

「なんだと?」


 普通に戻ったはずの俺の日常に異変が起きていた。

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