【やっぱり黒ずくめの男たちなんかについて行くもんじゃないね(眼鏡の少年談)】
お久しぶりです。
というわけで新作です。
シリアスばっか書いて心が疲れたのでコメディ多めの学園モノを書きたいと思います。
最初はちょいシリアスですが基本ギャグテイストで進めて行きたいです。
どんぐらい続くとかは未定です。案外あっさり終わるかも。
シリアスにしたがり症候群を治すんだ、絶対治すんだ……!
春という奴が来たらしい。なんだかそこら中で桜が咲いているのがその証拠だろう。
俺は上杉イッキ。16の高校2年だ。これといった特技も無かったし、普通の高校生だった筈だ、ちょっと前までは。
しかし春休みの間、俺は異世界に行ってた。信じられないかもしれないが本当だ。しかもこっちでは2週間程度しか経っていないが、俺はあっちで14年も過ごしてたのだ。
何があったかは膨大すぎて言い切れないので端的に言うと、『異世界で魔王倒してこっちに戻ってきた』。そんなとこだ。ちなみに中二病では無い。
あっちの年数も合計すると俺は30年生きてることになる。とはいえ実際はどちらも10代な訳で、精神がオッサンな訳では断じてない。
ちなみに、あっちの世界ではバリバリ魔法とか使ってたけど、こっちに戻ってきた途端その能力は消えた。まぁ肉体ごと元に戻ったからしょうがないけど、俺TUEEできないじゃないか馬鹿野郎この野郎。
しかしながら遂に明日からは新学期が始まり、またもやめんどくさい勉強とやらをしなきゃいけないわけだ。勉強なんて久しぶりすぎて殆ど忘れたぞ。
そんな事を考えていると、目的地のスーパーが近くなってきた。今俺は可愛い妹から頼まれたお使いに出かけているわけだ。言い方を変えればパシリ。
と、そんな事を考えながら歩いていると、こんな昼中に真っ黒いスーツを着た男が2人、サングラスをしながら歩いているのを見つけた。
「絵に描いたような怪しさじゃねえか!」
「ん?」
思わずそこそこ大きい声でそうツッコンでしまった。すると男の1人がこちらを振り返る。俺は素知らぬ顔をして隠れた。
めちゃくちゃ怪しい! サングラスとかかけて変装してるのかもしれないけど際立ちすぎてめちゃくちゃ怪しい!
案の定他の人達もちらほらその男達を見ている。
うーむ、こういうところで異世界で冒険者をやってた血が疼くな。絶対これに関わるとめんどくさい事になるのは目に見えてるんだがどうしても見たくなってしまうな。
すまん、妹よ。買い物は少し遅れるぞ。
俺はお使いよりも好奇心が勝ち、彼らを尾行する事にした。するとどうだろう、彼らはそのまま町の外れにある使われなくなった巨大倉庫に入っていった。
「あ、怪しすぎる……」
俺は出来るだけ静かにその倉庫に近づき、チラチラと中の様子を伺った。倉庫の中にはさっきのスーツの男が2人と、タンクトップで筋肉質な男が1人いた。
「追ってきてはいないようです」
タンクトップの男に向かってそう言うスーツの男。
追ってきて? な、なんか話が物騒だな。やっぱり俺帰ろうかな。
「そうか。じゃあさっさと話して貰わねえとな、このお嬢ちゃんに!」
「んーっ!」
タンクトップの男は、口や手足をガムテープで縛った女の子を段ボールの中から取り出した。少女の年齢は俺と同じくらいだろうか。
はいアウト。これもうアウトですね。完全に誘拐です。
というわけで俺はポケットからスマホを取り出しすぐさま警察に電話した。
「もしもし、はい誘拐です。すぐ来てください、住所は――」
そしてこの場所を伝えて彼ら警察が来るのを待つ。
俺が電話し終えると突然タンクトップの男は、少女の口からガムテープを外した。
「おい、お前。なんで俺らを追ってた?」
だが女の子は黙って男を睨んだままだ。
「なんか言えよ、おいっ」
「きゃっ」
あろうことか、タンクトップは女の子の頬を叩いた。だがそれでも女の子は黙っている。
ちっ、どうする。助けに出るか? けどもう俺には魔法なんかは使えない。あいつらが銃なんか持ってて撃たれて死んだら終わりだ。
悔しいがもう少し耐えて、警察が来るのを待つしか無い。
「お前みたいな女をよ、口きかす方法なんて幾らでもあるんだぜ?」
そう言ってタンクトップの男は下卑た笑みを浮かべて少女の服を掴み、破こうとし始める。
少女は、もぞもぞと動いて抵抗する。
「触る、なぁっ! 汚い手で私にぃ!」
「ちぃっ、めんどくせえ。おい、お前ら手伝え」
「へいっ」
男は黒スーツ2人にも指示して少女を抑えて服を破ろうとし始めた。
駄目だな、うん。これはもう駄目だ。元勇者として、これはもう我慢できん。
俺はそう決心すると勢いよく奴らの元へ走り出した。
「ん? な、なんだおま――」
「おらぁ! 無慈悲のドロップキーック!」
「がはぁっ」
俺は1番楽に倒せそうな黒スーツの1人に思い切りドロップキックをかました。奴は突然の事に驚いたのか、そのままの勢いで壁に頭を激突させ気絶して倒れた。
よし、とりあえず1人。
「な、なんだっ? なんだお前っ」
スーツの1人が目に見えて焦り始める。タンクトップの男もそこまででは無いにせよ驚きは見て取れる。少女はポカンとしていた。
俺はその隙を利用し、慌てている黒スーツの脇腹に蹴りをかました。
「ぐぁっ」
倒れたそいつの顎に間髪入れずに蹴りを叩き込む。するとそいつは白目を向いて意識を失った。
よ、よし。異世界帰ってきて初めての喧嘩だけどこっちでも上手くできたぞ。
たしかに俺は魔法の類は使えなくなったが、あっちの実戦で鍛えた経験は戻っても残っていた。戻ってきてから筋トレめっちゃしたし正直今なら全国の高校生に喧嘩で負ける気はせん。
「一瞬で2人を戦闘不能にするとは……ガキィ、お前どこかの回しもんか? 何者だ、お前」
タンクトップの男が聞いてきたから答えようかと思ったけどどうしよう。名前を普通に言うのは駄目だよな。
かと言ってだんまりも格好悪いし。
「そうだな……通りすがりの“勇者”って奴かな」
これは、決まったか?
「なんだお前痛い奴だな」
「うるせえ!」
一瞬で否定された俺は恥ずかしさを隠すためにも奴に蹴りを入れた。
だが奴はそれを腕でガードする。
「くっ、重い蹴りだな……軍人か?」
「くそ、見せかけのガタイじゃあないか!」
「気をつけて! そいつは【異能】使いよ!」
突如あの少女が俺にそう叫んだ。
なんて? イノーツカイヨ? いのうつかいよ? 異能? 何言ってんだあの子。
「ちっ、あの小娘ペラペラと! バレたら仕方ねぇ、死ね」
男は急に俺に向けて右手の手のひらを広げた。やべっ、魔法か!
異世界の癖で敵の手のひらをみたら避ける癖が出来ていた俺は転がってその場から離れる。だがその後に後悔した。
あ、馬鹿俺。ここは異世界じゃねえんだから魔法なんてねぇよ!
と、思っていたら男の手のひらからコップ一杯分程度の液体が射出された。紫色の粘性の液体だ。それは俺がさっきまでいた場所の地面を煙を上げながら溶かしていた。
「な、なんじゃありゃ」
「よ、避けやがった! マジで何者だガキ!」
「いや、いやいやいやお前の方が何者だよ」
あれは毒魔法?
なんで魔法使える奴がいんの? もしかして俺も使えるの? あ、やっぱ駄目だ。まず、魔力を感じない。
「私を解放して! 異能には異能を使わないと不利だわ!」
「さっきからわけわからん! 何言ってんの君!」
「いいから早く!」
意味がわからなかったが、少女には何か鬼気迫るものがあったので指示に従い、俺は少女の元へと走った。
「させるかっ」
男は俺に向かってまた液体を放つ。どうやらあの液体は連続発射はできないらしい。恐らくインターバルが5秒は必要だ。
俺はそれを利用して少女のガムテープを剥がした。
「ぬぅっ」
男が再び液体を放つ。そのままだと少女に当たる危険があった為、俺は少女の手を掴み、引っ張って避けさせた。
その時だった。
「あ? 魔力?」
思わず俺はそう呟いてしまう。
そう、俺の中に確かに魔力が宿るのを感じたのだ。少女の手を握った途端にだ。そう、まるで彼女から“受け渡された”かのように。
少女の方はまるでそんな事を考えている様子はない。意図してやったものじゃないのか?
「ここは、任せて逃げて!」
少女は体勢を立て直し俺にそう言うと、そのまま手のひらをタンクトップの男に向け、なんと手のひらから大量の桜の花びらを放った。
えぇ!? 何が起きてんの?
「やはり貴様も“異能使い”か!」
「こんな所で掴まる訳には、いかないのよ!」
花びらは高速で射出される事で切れ味が増しているらしく、男の皮膚を少しずつ切り裂いていた。だが男の放つ溶解液も、少女を追い詰めていく。
2人は俺を置いてけぼりにして戦いを始めてしまった。放てる花びらにも制限があるようだ。体格差もあってか、徐々に男が優勢に見える。
うーむ。置いてけぼりにされたけど……これ魔力が宿ったって事は、俺魔法使えるんかな?
体内に微量の魔力を感じる。これなら弱い魔法なら放てる筈だ。
俺はそう思い、手を伸ばし手のひらの照準をタンクトップの男に合わせる。
「フレイム!」
俺がそう言うと、手のひらからは人の頭ほどの炎の玉が射出された。
あ、マジで魔法出た。
炎はそのままタンクトップの男の頭に直撃した。
「あっちィっ!? ぐあああああっ!」
「な、何が!?」
タンクトップも少女もかなり動揺していた。というか男に至っては頭が燃えてるので一大事だ。男はたまらずその場に倒れこむ。
俺はそのまま男の元へと走ると奴の頭を蹴った。
「がっ!?」
蹴りに蹴った。奴の頭をこれでもかと蹴って気絶したのを確認すると、燃えている頭を服で消化してやった。
「これでよし」
「あ、あなたはいったい……?」
少女は俺をみて驚いていた。
いや俺からしたら君達もだいぶおかしいけどね?
「警察だっ!」
そうこうしていると倉庫の中に警察が入ってきた。
よしよし、これで一件落着だな。
と思ったら、少女が俺の手を掴んで走り出した。
「こっちよ! 付いてきて!」
「えっ? なんで警察から逃げんの!」
「いいから!」
少女は倉庫の裏口から逃げ出すと、そのまま雑木林に入り、しばらくすると身を落ち着けさせた。
「はぁはぁ、ふぅ。ここまでくれば、安心かな」
「な、何がなんだか……お前いったい何者だ?」
「それは私も同じ台詞が言いたいんだけど……まずはお礼ね! 助けてくれてありがとう! それで教えてあげる、私の名前は、木下コトネ。私は何を隠そう、【異能探偵】なのよ!」
たいしてありもしない胸を張り、ふふんと鼻を鳴らし自慢げにそう話す木下とかいう少女。
彼女はそこそこ長い黒髪をポニーテールでまとめていて、顔は少し強気そうだが綺麗だ。
だが、俺はこの時悟った。
これ……関わっちゃダメな奴だ。可愛いからっていって関わると絶対めんどくさい事になる。俺の勘が言ってる。
よし、帰ろう。家に帰ろう。
「あぁ、そうですか。探偵さんでしたか、では頑張ってください。では俺はこれで」
そう言って回れ右をして帰ろうとしたところ、少女が俺の腕を掴む。
「待ちなさいっ。あなた、見たところ見込みがあるわ! どう? 異能探偵やってみない!? いや是非やりましょう! いやていうかやりなさいっ!」
「いや、めんどくさいんでいいです」
「え?」
俺は少女が気が緩んだ隙に拘束から抜け出し、ダッシュで走って逃げた。
「ちょ、待ちなさーい! 私はしつこいわよーっ!」
しつこいって自分で言う事じゃないだろ。
途中で振り返るも、追ってくる気配はない。撒いたか。
悪いが手から花だの毒だの出す連中と関わりたくない。そんなのは異世界で懲り懲りだ。
そうして家に帰る頃には夕暮れになっていた。
「ただいまー」
「お帰りなさい、兄さん。あら? 頼んだおかずが見当たりませんが」
出迎えてくれた妹がポカンとして俺を見る。
「あ! 買うの忘れてた!」
くそ、あいつらのせいじゃないか。
もう絶対あいつら許さん! とは言ってももう二度と会わないか。
……そんな事を思っていた俺だったが、やはりというかこの時既に俺はめんどくさい事に関わってしまっていたのだった。