【異世界からの追放、そして帰還】
「はぁ、はぁ……てめぇジュード、こんなことして……くそっ……」
俺の腹からは血が出ていた。
それは目の前にいる俺の仲間ジュードに刺されたものだ。
ジュードは汗をかきながらも俺を見て卑しい笑みを浮かべる。
「や、やってやった。やってやったぞ!」
そして奥にいるこの国の王が俺を見て口を開いた。
「貴様は、ここで死ぬのだ。勇者イッキよ」
――俺は、14年前この異世界に転生してきた。
赤ん坊から転生した俺はすぐに頭角を現し、14年の月日をかけ、ついこの前魔王を倒した。それは全人類の望みだった筈だ。だからこそ俺は勇者ともてはやされた。
なのに、なんでだ? なぜ俺は今血を流している。
ここは、王都にある城の地下室だ。話があると王に言われついてきたらこのザマだ。ここには特殊な結界が張ってあるらしく、魔法も使えない。
武器も何も持っていない俺に、手練れの戦士であるジュードの攻撃を避け続けることはできなかった。
「王、何故ですか……俺は、俺は国のために働いてきたつもりです」
「ああ、貴様には感謝している。魔王を倒し、この世界には平和が訪れた」
「では、何故?」
「だからこそだ。貴様は危険すぎる。元から貴様は私にとって脅威の対象でしかない。強大な力を持ち、人々からの人望も厚い。国家においておくにしてはあまりにも脅威だ」
「そんな……」
「くくく、貴様を殺した後は情報操作だ。貴様は異国のものに殺されたことにすればいい。そうすれば国民は一斉に他の国へ憎悪を向ける。戦争の始まりだ。貴様のパーティメンバーの力があれば他の国を滅ぼすなど造作もない。晴れて私は巨大な権力を得る」
「そんなことのために? お、俺は殺されるのか。おいジュード、お前もか?」
俺はジュードに問いかける。
「俺はな、イッキ。前からムカついてたんだよ、お前の事が。俺は小さい頃、才能があったから勇者になれるってずっと言われつづけてたんだ。俺もそのつもりだった。だけど、魔王討伐のパーティを組んでみたらどうだ? 勇者はお前、俺は戦士。ずっと劣等感を抱いてた」
「そ、そんな。なんで言ってくれなかった」
「言えるか? 俺はお前に嫉妬してるって。言えるわけない。勇者のお前はどこの町に行っても歓迎される。勇者、勇者。俺たちも同じく戦ったってのによ」
確かに誰もが俺のことを持ち上げてはいた。だけどジュードが冷遇されてたわけじゃない。彼もいい思いはしてきたはずだ。
「パーティの他の奴らもだ。アミリアもシャーロットもお前にばかり目がいく。何故だ? 何故俺にはそれが無い。俺はアミリアもシャーロットも好きだったのに。理由はわかってる、お前が勇者だからだ」
「そんな馬鹿げた事が……」
「じゃあ俺はどうすればいい。そうさ、俺がお前を殺せば次の勇者はこの俺だ!! そうすればアミリアもシャーロットも俺を見てくれる!」
もはやジュードは俺の話を聞く様子はない。一種の洗脳に近い状態にあるようだ。
それにしてもまさか逆恨みとはな……。
ジュード、俺はお前のこと好きだったぜ……。
「俺はお前を殺す! イッキ!」
ジュードの言葉を聞いた王は邪悪な笑みを浮かべ、淡々とジュードに指示を出した。
「やれ」
「はっ」
「ごふっ」
ジュードの剣が俺に突き刺さる。口から血反吐が出た。腹が妙に暖かい。
俺はそのまま床に倒れた。
これで、これで俺は死ぬのか? 戦って戦って、異世界に来てまた死ぬのか?
他のパーティメンバーにさよならも告げず、王とジュードに裏切られて死んでいくっていうのか。
くそ、くそくそくそっ。
「じゃ、じゃあなイッキ。アミリアとシャーロットは俺が幸せにしてやるから安心しろ」
「貴様の名は我が国に残り続けるであろう。それを持って冥土の土産としろ。さらばだ」
「お、お前ら許、さ、ねぇ……」
その言葉が俺の最期の言葉となった。
次の瞬間、俺が目覚めると、そこは辺り一面白い空間だった。
ここは、覚えがある。そうだ、俺が異世界転生をする際に女神様と会った場所だ。
「イッキよ。久しぶりですね」
声がしたかと思えば目の前に羽の生えた神々しい女神が現れた。
「女神様。ということはやはり俺は、死んだんですね」
「ええ……残念ながら」
「魔王を倒す事を目標にしてたのに、倒したら殺されるって、そりゃないや」
「本当にこんな事になるとは……あなたの望みがあるなら出来るだけ叶えましょう」
「戻ってあいつらに復讐したいんだけど」
「それは……できません」
「何故です」
すると女神は一呼吸置いて答えた。
「今現在、私はあの世界にあなたを転生させる事はできません。あの管轄の女神からのお達しで、上杉イッキをあの異世界に転生させる事は出来ないんです」
「いったいどういう事ですか?」
「わかりません。ですがその女神からの通告書には上杉イッキをあの世界から“追放”すると書かれていました」
世界から追放とは……仲間からも裏切られて世界からも見放されて、散々だな。
もう、いいか。帰ろう、日本へ。
「元の世界に帰ります」
「日本、ですね。それがいいと思います。安心してください。時間はあなたが以前いた時間と同じ時にします」
「14年経った事にはならないんですか?」
「ええ、そこは私がなんとかしますので大丈夫です」
「よかった。それなら安心です」
「では早速送りますね」
女神は何かぶつぶつと呟いた後、指をくるくると回した。すると俺の体から光る粒子が現れる。
「長い間ご苦労様でした、イッキよ。次こそいい人生でありますように」
女神の全てを包むような笑顔を見た後、俺の意識は薄れていった。
そして次に目を覚ました時、俺は真っ白な天井を目にする事になる。
少し起き上がり、あたりを見渡すとどうやらここは病院のようだ。何か足のあたりに重さを感じたので見ると1人の女の子が俺の足に頭を乗せて寝ていた。どうやら看病している最中に寝てしまったようだ。
幼馴染のユイだった。
「ん? んん……あ、寝ちゃってた」
もぞもぞと俺が動いたせいか、ユイは起きた。
ユイが頭を起こすと、俺と目が合う。ユイは死人でもみたかのように口をパクパクとさせ始めた。
だから俺は笑顔で答える。
「ただいま」