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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

拾われ魔女っ娘が拾った子供

作者: chi

落書き(を見てくださった方いるかどうかは分かりませんが)とは結構雰囲気が違うかと思います。淡々とシリアス気味な話になりました、ご注意くださいませ。


 悠久の時を生きる魔女が気まぐれに拾った子供が私。

 非常食にしようと思ったけど、あまりにかわいかったからやめたの。と言ってにこやかに笑った魔女は、草木を愛し人里離れた森の中で隠居生活をおくる、私からすればただの優しい母親だった。



そしてその私が6歳の時に見つけたのが、ドミニクだった。




 彼は子供の目から見ても酷い有様だった。雨の中ずっと走っていたのか、頭からつま先まで汚い泥にまみれ服の裾は破れた跡がそのままになっている、元の色が判断つかない程薄汚れた髪も、顔を覆い隠すほどの長さの上にぼさぼさで、はっきり言って野良犬のようである。そんな子供が力なく路地裏で座り込んでいるのを発見した私は、その子を家まで連れて帰った。

 自分と同じくらいの身長だったけど、その手足は三食きちんと栄養のある食事をとっている私よりずっとずっと細く、軽くて、幼い体で運ぶことは何の苦でもなかった。手を引いて家に入れて、まずお風呂に突っ込んだ。母が自分にしてくれているように相手の身体をごしごし洗い、身綺麗になったら作り置きのスープを飲ませてやる。その日母は年に数度の魔女集会に行っていて留守だったけど、いつものように魔力がなくても触れるだけで火が付く魔力石を暖炉やかまどに用意してもらっていたから、一人でも彼の世話をすることに何の支障もなかった。そうして野良犬から人間に戻った彼の、不思議な虹彩をもつ緑色の瞳を覗き込んで私は言った。

「あなた、きょうからわたしのオトートよ」




 魔女の母に拾われたのはまだ3歳にもならない頃のことで、当然物心がつくかつかないかのそんな時期に拾われた私は産みの親の顔も何も覚えていない。けれどずっと、覚えている言葉がある。



――お姉ちゃんになるんだから、弟を守ってやってね



 恐らくは産みの母の言葉だろう。笑みを含んだ優しい若い女の人の声。両親の顔はおろか名づけてもらったはずの名も思い出せないのに、なぜかその言葉だけは覚えている。魔女の母はきっと拾われる前に弟がいたんだろうと言っていた。けれどその弟はいない。私は道の真ん中で布に包まれて泣いていたところを拾われたらしいから、もしかしなくても捨て子だったんだと思うけど、その近くにもっと小さな赤ん坊はいなかったらしい。死んでいるのか生きているのか、それさえも分からない。それでも守ってやってねと言われた言葉だけは覚えていて。

 だからか、彼を路地裏で見つけた時、その姿が想像の中の弟のイメージと重なったのだ。私が守らなくちゃいけない弟。それが今目の前にいるのだと。顔はおろか、髪の色も瞳の色も自分とは全く違うのに、なぜか私はそう思ったのだ。



 それから私はなにくれとなく彼の世話を焼いた。数日後魔女集会から帰って来た魔女の母に「この子わたしのオトートにする!」と高らかに宣言し、おっとりと微笑んだ母に「拾ったからにはしっかり面倒をみるのよ」と返事をもらったことに気を良くして、朝起きてから夜寝るまで、お昼寝の時だって手をつないで、ずっとずっと一緒にいた。私はこの子を守るのだ。


 ドミニクと名乗ったその子は、身だしなみを整えると驚くくらい綺麗な容姿をしていた。艶を取り戻した髪は輝くような金髪、整った目鼻立ちは数年後を待たずとも彼が美丈夫に育つのが良く分かる。茶の混じったくすんだ金髪と将来は随分とお化粧を施さないと群衆に紛れるだろう平凡は顔をした私とは大違いだ。野良犬のようだった時から変わらないのは瞳だけだが、紫色の虹彩の混じった不思議な緑色は変わらずに美しい、ありふれた茶色の瞳の私は、弟の美しさに嫉妬したらいいのか誇ったらいいのか分からない。




 私とドミニクは母に魔法を習っている。母は偉大な魔女であり、国に13人しかいない位もちの魔女の中でも、何百年も筆頭の位を譲らない強い魔法の技術と魔力を持っていた。いつもおっとりと微笑んで、何かあると頭を撫でて優しい言葉をかけてくれる姿しか知らない私には想像もできないが、昔はそれはそれは恐ろしい悪い魔女だったらしい。世界を滅ぼしてやろうと思ったこともあったのよ、と笑う母は、実行するかどうかはさておいてそれができるだけの力があるのだけはなんとなく分かった。ドロテアという母の名前は、国の端っこにある小さな町の住人さえ知っている、恐ろしい魔女の名前と同じだからだ。

 そんな母の子供たる私もまた彼女の跡を継ぐべく、ドミニクを見つけるずっと前から魔法を習っていた。けれどやる気とは裏腹に魔法の才能がないのか、私はずっと簡単な魔法さえうまく発動することが出来なかった。母は薬草学にも明るかったので、そちらの跡を継ぐ方が堅実かと習いながらも、魔女になる夢も諦めきれずにいたが、私の後から習い始めたドミニクはそんな努力をあざ笑うようにあっさりと魔法が使えるようになった。緑の瞳が一層輝いたかと思えば、何も入っていなかったはずの桶の底から噴水のように水が湧きだしたのは、私に大変なショックを与えた。


 ささやかにあった魔女の娘としてのプライドはその時に圧し折られ、以来私は薬草学一本に絞って母に教えを請うことにした。悔しいが才能がないのだ。



「お母さまの魔法はあなたが継ぐのよ、ドミニク」



 必死に魔法の習得に励んだ日々を涙と共に母の膝の上で流した翌日、緑の瞳を見据えてそう宣言した。昨日湧き出た水の入った桶を手にばつの悪そうな顔をしていたドミニクは、私の熱を持った目元をじっと見て、わずかに間を置いた後頷いた。もうすっかり自分のそれより大きくなった手が、水を切った布を差し出してくるのを受け取りながら、もう一つ、これだけは、と私は口を開いた。




「でも、あなたが外で魔法を使うときは、私が使ったように見せるのよ」




 私がこの弟を守るのだ。それだけは譲らない。














 やんごとない家系に生まれながらも、その存在を疎まれ外に出された子供、それが俺だった。

 本当の両親なんて知らない。物心つく前から暗い部屋に閉じ込められて、一日に二回ドアの向こうから食事を与えられ、時々大人や時には自分と同じくらいだろう子供が様子を見に来る日々だった。時々やってくる大人が親なのかと思った時もあったが、頑なに目を見ようとしない彼らが、そう問いかけた瞬間だけ酷い嫌悪と恐れを抱いた顔をしたから、違うのだろう。粗末な服一枚の自分と違い、上等な服を着た子供に向ける優し気な顔とは明らかに違ったからだ。では自分は一体誰なのだろう。その問いに答えてくれたのは、固く閉ざされていたはずのドアがなぜか開いていた日に外に出て街をさまよい、人さらいに浚われ連れていかれた小さな町で人さらいからも逃げ出し、路地裏で力尽きた時に出会った、小さな女の子の母親だった。




「あなた、きょうからわたしのオトートよ」


 ドロシーと名乗った女の子は、俺の瞳をまっすぐに見つめると、そう言ってにっこりと笑った。これまでの日々で俺は自分の目をこんなにもまっすぐに見つめられたことはなかった。あの家にいた人間は誰一人としてこの目を見ようとはしなかったし、外に出てからはお前の目は不気味だとさんざん言われた。自分が厭われる原因がこの目にあるとおのずとわかり、以来俺は自分の目を前髪で必死に隠していた。すっかり慣れてしまっていたとしても、相手からの嫌悪の視線は気持ちのいいものでは決してない。

 けれどドロシーは優しく俺の髪を梳いたかと思えば、何の恐れもなく俺の目をじっと見つめたのだ。俺はそれにとても驚いた。彼女の茶色の瞳にはこれまで向けられていたような嫌悪の感情はどこにも浮かんでいないのだ。そしてそれはドロシーだけではなかった。彼女がおかあさまと呼ぶ魔女もまた、ドロシーに腕を引かれた俺の瞳を見ると、頬に片手を当てて「あらあら」と呟いた後、安心させるように優しく微笑んだのだ。




「この子はこう言っているけれど、嫌なら無理に従う必要はないのよ?」


 ドロシーを膝にのせて優しい手つきでその頭を撫でながら、魔女はそう言った。俺はずっとドロシーに握られたままの自分の手を見つめながら俯いていた。自分には行き場所はない。ここを追い出された後は一体どうしよう。考えを巡らせる俺の頭に優しく暖かな手が乗せられて、くしゃりと撫でられた。


「でもね、あなたが此処にいたいならいてもいいのよ。そうなると…ふふ。私は二人の子供のお母さんね」


 まだお母さんになって3年目の新米なのにね。と、くすくす笑う姿はとても世間から恐れられる伝説の魔女とは思えなかったから、俺がその魔女を母さんと呼ぶのにそう時間はかからなかった。




 母とドロシーと、三人で過ごす日々は、あの暗い部屋で過ごしていた日々とは比べられない程穏やかに幸福なものだった。

 負けん気が強くて気が強いドロシーはよほど『姉』というものにこだわりがあるのか、ことあるごとに自分を姉と呼べと言ってくるが、人間らしい生活をおくれるようになった俺が順当に成長していくと、もしかしなくても彼女の方が年下なのではないかと思えてきた。俺は自分の年齢を知らないが、成長の差をみればそうとしか思えない。だが、何度それを指摘してもドロシーは譲らず、そうなれば俺だって後に引けなくなって、いつしか自分が姉だというドロシーと自分のほうが年上だという俺の言い合いが、日常のものとなった。勿論母はその横でおっとり笑っている。



 魔法を習いだしたが、別に俺は母の跡を継ぐ気は無かった。魔女の跡継ぎならドロシーがいるのだ、それを目指してずっと努力している彼女が後を継ぐのは当然で、自分は魔女の息子として最低限の魔法さえ使えればいいと思っていた。そもそも魔法が使える存在は女の方が圧倒的に多く、男で魔法が使えるものはほとんどいないのだ。苦戦しているドロシーを見ているだけに、男である自分に魔法が使えるとはどうしても思えなかった。


 けれど、いざ実際に教えられたとおりに魔法を使ってみると、両目がわずかに熱を持ったことに驚いて瞑った一瞬の後に、手に持っていた桶の底から水が勢いよく湧き出してきて、ただただ呆けるしかなかった。近くで見守っていたドロシーが泣き出す一歩手前のような顔をしているのを見て、酷い罪悪感に襲われた。魔法を習うんじゃなかった。日々口喧嘩が絶えなくても、傷つけたいと思ったことは一度もない。彼女は俺にとって大切な女の子なのだ。




 心の奥底に沈ませていた長年の疑問の答えを母がくれたのは、その日の夜だった。

 膝の上で泣き疲れて眠った娘をベッドに寝かせた後、母はぽつりぽつりと語った。俺の瞳には、呪いがかかっているのだと。

「もう10年くらい前の事だったかしら。この国に生まれた王子様の誕生パーティーに行ったのよ」



 英雄色を好むとはよく言ったもの。広大な国を治める偉大な王は、たぐいまれな政治手腕と同時に大変な女好きでも有名だった。隣国から王妃を娶った後も後宮にはたくさんの女を寵妃として囲い通う日々。忠臣にいさめられながらも後宮通いは続き、そしてとうとう王妃より先に寵妃の一人に子供が生まれた。それが俺らしい。世継ぎの誕生に喜んだ王は、怒り狂う王妃を宥めすかして第一王子の生誕を祝う、盛大なパーティーを開いた。パーティーには各国の要人は勿論、国を守護する位もちの魔女も呼ばれたが、そこで問題が起こった。位を持つ魔女は13人いたが、客に出す皿が一枚足りなかったという理由で、魔女も12人しか呼ばなかった。この国では魔女は重用されつつも、その強靭な力と残虐な性格をしているとして畏怖と嫌悪の対象であるらしい。魔女は恐ろしいが、恐ろしいからこそそう何人もの魔女を国のトップが集まる公のパーティーには呼びたくなかったらしい。しかし当然これに怒ったのはひとりだけ呼ばれなかった13人目の魔女だ。彼女は自身が呼ばれなかった盛大なパーティーに乗り込むと、自分からの祝いだと言って生まれたばかりの俺に、寿命を削り取る禁忌の呪いをかけた。



「でもね、12人目の魔女が自分の命と引き換えにあなたを助けたの」



 呪いの結果俺は20歳を迎える前に死ぬと宣告されたが、まだ若い魔女だった12人目が、自分の魔力を全て王子に渡すという方法で俺を救った。魔女にとって魔力は寿命だ。魔力が高い者は高ければ高いほど長くの時を老いもせずに生きる。現に最も多くの魔力を持つ1人目の魔女たる母は、30代にしか見えない今の見た目で何百年も生きているらしい。寿命を削り取る呪いは、寿命を延ばすことで回避された。12人目の魔女――第一王子を生んだ寵妃は、魔力を失った自分は死ぬことになると知りながら、お腹を痛めて生んだ子供を助けたのだ。




「ドロシーを拾ったのはね、12人目がどうしてそこまで子供を助けたかったのか、その気持ちがとっても不思議だったからなのよ。でも今なら、彼女の気持ちが分かる気がするわ」





 今の俺には12人目からもらった高い魔力がある。男でありながら溢れるほどの水を出せたのも、そのせいだ。そして紫の虹彩を持つ俺の緑の瞳は、魔女の血と王族の血が混じった結果であるらしい。輝かしい血筋に混じった畏怖の血は、理由を知るものは勿論知らぬ者にも胸をざわめかせる不気味さがある。ドロシーがこの瞳を綺麗だと言ってくれるのは、魔力に溢れた母の緑の瞳を見慣れていたからだろう。彼女にとって魔力は恐れるものではないからだ。




 自分の出自を知ったから――いや、知らされなかったとしても、俺はもう魔法を使うのは止めようと思っていた。あの泣きそうな顔を思い出せば、少しくらいなら使えるかもと少なからず期待していたそれまでの気持ちは急速にしぼむ。けれども朝食の席に起き出してきたドロシーは、赤くなった目を隠しもせず、意志の強い瞳のままで言った。



「お母さまの魔法はあなたが継ぐのよ、ドミニク。――でも、あなたが外で魔法を使うときは、私が使ったように見せるのよ」



 どうして彼女がそう続けたのかは分からなかったが、ドロシーがそう望むならと、俺は頷いた。

 その理由を問いただすべきだったのだと俺が後悔するのは、この日から何年も経ってからだ。















 たとえ本人には私の見栄だと思われてもいい。ドミニクが魔法を使えることは誰にも知られてはならないのだ。あの日母の膝の上で泣いた私は一晩考えてそう結論付けた。



 この国では魔女は恐れられている。強い力があるから誰も手を出してこないだけで、人々は嫌悪し、それでいて魔女の大いなる力の恩恵を求めている。ドミニクを見つける前、母が出かけている間にいつものように町に遊びに行った幼い私は、けして話してはならないと言われていたのを忘れて、自慢げに自分が魔女の娘であると仲良くなった子供たちに話した。ゆくゆくは自分が母の跡を継ぐのだと。友達はみんなすごいすごいと囃し立てすっかりいい気分になれたけれど、近くにいた大人たちの反応は大きく違っていた。まさか、とざわめいた大人たちは、ある人は恐れと嫌悪を滲ませる顔をして、またある人はにこやかに、または憤怒の顔で近づいてきて、私を浚おうとした。みんな相手が力の弱そうな子供だったからだろう。魔法を使えと迫られてすっかり恐怖におびえた。傷を癒せ、あいつを殺せ、願いを叶えろ。持たされていた連絡用の魔道具で危機を知って帰って来た母に助け出されて事なきを得たこの日の出来事は、私の心の奥底に沈みこませて忘れようとしていた。それをこの日思い出した。あんな恐怖を、ドミニクには経験させたくない。




 母がいるうちは安全だった。けれど、母はもうすでに伝説になる程何百年も生きた魔女だった。彼女達は決して不死ではなく、寿命はある。ドミニクが家族になって10年ほど経ったその日、私達の大好きな母は寿命を迎えた。最期まで容姿は若々しいままだった母は、ベッドに横になったまま私達を抱きしめて微笑んだ。



「可愛い可愛い私の子供たち。あなたたちのお母さんになれたことが、私の長い人生の中で一番の幸福よ」

「母さん…」

「お母様。私も、私達も、お母様の子供になれたことが一番の幸福よ」



 魔女が残虐非道だなんて、一体誰が言ったのだろう。自分の子供を捨てた実の親よりもずっと深く愛された。私は母の腕の中でぼろぼろ泣いた。ドミニクも泣いていた。私達が泣けば母はいつもその膝に迎え入れて慰めてくれたけれど、これからはもうそうされることはないのだ。



「あなた達が優しく素敵に育ってくれて、何も心残りは…いえ、孫の顔が見られなかったのはちょっと残念ね」

「…母さん!」

「あなた達の赤ちゃんなら、とっても可愛かったでしょうに…」

「そうね。でもドミニクも私も、彼女も彼氏もいないんだから仕方ないわ、お母様」



 死の床にあってもいつも通りな母の言葉に思わず小さく笑った。私もドミニクも、母の子供になったときは幼くとも赤ん坊ではなかった。生まれたばかりの赤ん坊を抱いてみたいと母が言うのはいつものことで、それにドミニクがなぜか怒るのも、相手がいないわと私が笑うのもいつもの事だった。でも私も、母に孫を抱かせてあげられなかったのは確かに心残りだ。

 いつか、パートナーが出来て、その人の子供を産むことがあったら、絶対にその赤ん坊を連れてお墓参りに行こう。そう心にそっと誓う。




「私達は何の心配もいらないからね。ドミニクは私が守るわ。だってお姉ちゃんだもの」

「だから、俺の方が年上だって言ってんだろうが、ドロシー」

「なによ! ちゃんとお姉ちゃんと呼びなさい!」

「誰が呼ぶか。このちんちくりん!」

「ふふ。あなた達は本当に仲良しね」




 私達はいつも通りの会話で、母を見送った。それが私達に出来る最後の親孝行だと思った。顔はお互い涙に濡れたままだったけれど。

 そして次の日から、母のいないいつも通りではない日々を、私はドミニクと二人で過ごした。




 私もドミニクも、もう子供ではなくなっていた。お互い手足は伸びて、ドミニクは筋肉のついたしなやかでありながら逞しい男の人になって、私は身長は伸び悩みつつも出る所だけは平均並みに育った丸みのある女性らしい体になった。予想通りの美丈夫に成長した彼を、弟だと思うのに苦労するようになったのはいつからだろう。手近なところで済ませようと思ったのかしらと随分真剣に悩んだ。この気持ちが恋だったらいいと思うこともあるけれど、家族として過ごした時間が長すぎてまだよく分からない。少なくとも母がいない今、世界で一番大切なのはドミニクだった。



 母亡き後変わったことは、私達は各地を転々とする暮らしをするようになったことだった。今まで同じ家にずっといたのは、私達が幼かったことと、偉大な母の庇護があったからだ。伝説の魔女からの報復を受けたいと思う者などいるはずがない、けれど母の死が瞬く間に広まった今、その子供にして魔法を受け継いだ弟子の存在だけは周知されている為、同じところにいるのはとても危険だった。まだ若い私達は、高い魔力はあってもいくらでも御せるだろうと思った大人たちに狙われた。懐柔しようとするならまだいいが、中には味方に出来ないならいっそと命を狙ってくるものもいた。ある時、住み慣れた家に刺客が送り込まれ、ドミニクが返り討ちにしたことがあった。咄嗟に加減できず、思い出深い家に血だまりを作ってしまったその日、私達は住み慣れたその場所を離れる決心をした。




 各地を転々とする間、私達は旅の薬師だと名乗ることにした。私は薬草学を母から習っていたから嘘でもない。ドミニクは極力魔法を使わないようにして、道々で採取した薬草で薬を作り、それを売って旅をする。それはそれで楽しい日々だった。母がいない寂しさは各地の目新しさで誤魔化して、私達はずっと二人でいた。そんな二人だけの日々が崩れたのはある日突然だった。



 比較的大きなその街で、私と一緒にいたドミニクは若い男性に話しかけられた。

 その人はドミニクを「王子」と呼んだ。















 俺の気持ちは母にはとっくにバレていた。

 自分を姉だと頑なに主張するあいつを、いつの間にか――いや、もしかしたら最初にあいつに見つけられた時かもしれない、特別に思うようになっていたことを。

 ドミニクは本当にドロシーが好きね、とある日言われたときは、すさまじく動揺した。近くにドロシーがいないことを確認した俺を、生前の母はにこにこ笑っていた。



「二人の赤ちゃんなら絶対可愛いわね。早く孫の顔を見せてね」



 ちなみに母がこれを言ったのは、まだドロシーが15歳になろうかという時期だ。早すぎる! と顔を赤くして怒った俺は相当動転していただろう。そもそも両思いでもないと、後でぼそりと呟いた。




 あいつは俺を弟としか見ていない、どうしようもなく鈍感なちんちくりんだ。それを好きになった俺も相当だが、その鈍さにこの数年どれだけ苦労したか。案の定、母を看取るときになっても俺たちはきょうだいのままだった。



 でもそれも悪くはないと思うこともある。ずっと二人でいられるのなら、どんな名前の関係でも構わない。伊達にずっと家族だったわけじゃない。ドロシーが家族としてだったとしても俺を一番大事に思っているだろうことを知っていたからというのもあった。最初のあの時に引いてくれたこの小さな手とずっとつないでいられるなら、それでいい。





 けれど平和な日々は母が死んだ後脆くも崩れ去った。母の庇護を失った俺たちを、魔女の力を望む大人たちは放っておいてくれなかった。

 家に刺客が送り込まれ、その時俺は初めて人を殺した。明確に殺そうと思ったわけではなかったが、斬りつけられたドロシーの腕を見て、魔法が暴走した。そんなことは初めてだ。だが、思えば三人で過ごした平和な日々で、口喧嘩することがあってもこんなにも激しい殺意を抱いたことなんて当然なかったのだ。一瞬本気で、相手に向かって死んでしまえと思った。どうして放っておいてくれない。俺達はただ、静かに平和に、暮らしているだけなのに。



 ドロシーが名前を呼んでくれなければ、家ごと破壊していたかもしれない。俺の頬を両手で掴んで無理矢理自分の方を向かせたあいつは涙を滲ませていた。



 癒しの魔法がとうに効かないほど切り刻まれた刺客を前にして、俺達は家を出る決心をした。





 薬師として旅をするある日、立ち寄った街で原因不明の伝染病が蔓延した。ドロシーは薬師として持てる知識の全てをもって伝染病の治療に当たった。偉大な母から授けられた知識は街にいた医者をはるかにしのぎ、なんとか伝染病の正体と特効薬を突き止めたが、運悪く特効薬の原料となる薬草は一年前に起こった戦争で焼き払われた森にしか自生していない、とても珍しいものだった。一年経って新たな芽は出ているが、その薬草は何年もかけて成長した葉にしか薬効が現れない。他から手に入れようにも、珍しい薬草はとても高価なうえ、他の場所から持ってくるには時間がかかる。代金を用意してさらに運んでいる間に、一体どれくらいの犠牲が出るだろうか。

 選択の余地はなかった。俺はドロシーの肩に手を置いて、その茶色の瞳を覗き込んだ。



「ドロシー。俺ならやれる」

「…でも、」

「でも放っておけないんだろう?」




 ドロシーは頑なに俺が魔法を使うことをよしとしなかったが、出るだろう多くの犠牲を思い描いて悩んでいた。親しくない街の住人なんて放っておけばいいのに、優しいドロシーは諦められないと言って泣くのだ。でも、こいつはこれでいい。ドロシーが優しいから、一緒にいる俺も、優しい選択肢を選べるのだ。俺は優しくない。ドロシーがいなければ、きっとどんな非道な選択をしようと、仕方なかったと自分を納得させることが出来るだろう。初めて人を殺したとき、欠片も罪悪感を抱かなかったように。



 薬草が成長するまで時がかかるなら、成長させてやればいいのだ。一人目の魔女の子供にして弟子として授けられた術は伊達ではない。俺は文字通り何でもできた。薬草が根を張る一帯だけを選んで時を進めさせるなど造作もない。両手を前に出し、まるで自分が魔法を使うかのごとく立つドロシーの肩に手を置いて、俺は魔法を使った。これだけはドロシーは譲らなかった。この光景を見る者がいれば、そいつは魔法を使えるのは俺ではなくドロシーだと思うだろう。昔から、ドロシーのこの行動は理解できなかった。魔女になりたかったという夢を間接的に叶えたかったのかとも思ったが、薬によって病が治った人々からの感謝もそこそこに逃げ出すように街を離れようとする姿に、違うのかもしれないと思ったが、やはりよく分からなかった。



 ドミニクは私が守るから――そう言うこいつの口癖を、姉ぶるのと同じように流すようになっていた俺には、理解できなくて当然だったのだ。





 逃げ出すように向かった次の街はそこそこ大きく、その分人も多い。俺はそこでその男に呼び止められた。

 王子と俺を呼んだその男に見覚えはない。はずだった。けれども俺の素性を確かに知る男の話を聞くと、ジュリアンと名乗った男はあの暗い部屋に時々やって来た子供だったことが分かった。曰く、ある日突然消えた俺を、ずっと探していたのだと。俺のこの普通と違う目は目立つ。旅に出てからずっとフードのある服で隠していたが、人の目を全て遮断できたわけではない。紫の虹彩を持つ緑の瞳の男の噂がここ数年で密かに広まり、やっと見つけられたのだと、涙ながらにジュリアンは言った。胡散臭い。今から思えばあの日なぜか開いていたドアも、妙に手際のよかった人さらいも、こいつ、もしくはその両親が絡んでいたのだろうと推測を立てていた。王妃の魔女嫌いは有名だ。王妃に疎まれた魔女の血を引く第一王子。各所にとって邪魔でしかないだろうと容易に想像できる。けれどそれを想像できなかったのは、事情を知らないドロシーだった。よかったね、とドロシーは晴れやかな笑顔で言ったのだ。



「よかったね、ドミニク! 帰る場所があったのよ、これで本当のお父様に会えるのね!」

「……は?」



 唸るような俺の声なんて意に介さず、あいつは目の前にいるジュリアンにぺこりと頭を下げた。



「ドミニクをよろしくお願いします。この子、口は悪くなっちゃったけど、とってもいい子なんです」

「はい、かしこまりました」



 ジュリアンの表情が一瞬嫌悪を示すように歪められたのを俺は見逃さなかったが、それよりも今はドロシーを問い詰めることを優先した。


「ふざけるな! 何勝手なこと言って…!」

「私ずっと考えてたのよ」

 言葉を遮ったドロシーの笑顔は、もういない母にそっくりだった。



「私達ずっと根無し草の旅を続けていたけれど、こんなことこれから先もずっとなんて続けられないでしょう。だからどこかに腰を押し付けようって。そうなると問題はあなたよドミニク。私は可愛いからすぐに貰い手が見つかるでしょうけど、あなたは悪いけど、お嫁さんを見つけて旦那さんになるなんて甲斐性、なさそうだもの。弟がずっと一人なんて、お姉ちゃんとして安心できないわ。でも、帰る場所があるなら、別よね」


「……ああ、そうかよ。お前の気持ちは良く分かった」




 ふつふつと怒りがわいて、魔力の暴走を抑えるのに苦労した。馬鹿野郎。大馬鹿だ、このちんちくりん。ドロシーはずっと母に守られていた。捨てられた子でありながら永遠に失ったはずの無償の愛を受けて育ったこいつは、自分の子を捨てる親がいることを知っているはずなのに、反面子を愛さない親なんていないとどこかで信じている。家族はともにいるのが幸せなのだと。



 なあ、俺が気付かないとでも思ったのか? そんなに強張った、無理に作った笑顔を張り付けて。昨日今日会った人間ならともかく、何年一緒にいたと思ってる。どれだけ長い間、家族だったと思ってるんだ。無理して笑うくらいなら、いっそ泣けばいいんだ。けれども、この願いだけは叶えてやれないけれど。




「……俺を連れていけ。俺の父とやらの所へ」




 今は行ってやるが、向こうの真意がどうだろうと俺はドロシーの傍から離れるつもりはない。あの日俺を見つけて拾ってきたのはお前だ。最後まで責任は持て。偉大な母もそう言っていただろう。















 うまく笑えていただろうか。ドミニクの反応からして無理をしていたことを気づかれていそうだけれど、それでも彼は行ってくれた。私の言葉通りに。



「………っ」



 言うことを聞いてくれて嬉しいはずなのに、安心したはずなのに、涙があふれてきて止まらなかった。私は話を聞いていた宿のベッドで一人泣き崩れた。幼いころはよくこうして泣いていた。私は気が強いわりに涙脆くてすぐにぼろぼろと涙を流していた。それをドミニクによく揶揄われたけれど、彼だって存外涙脆い。母の膝という泣き場所があった私達は、いつでも安心して泣くことが出来たのだ。



 でも、これからはひとりだ。

 ひとりになってしまった。愛してくれた母はもうおらず、つないでいたドミニクの手も自ら離してしまった。でもこれでいいのだ。ドミニクはもう私と一緒にいない方がいい。帰る場所があるのならなおさら。



 一晩中泣き続けて、重い頭を抱えて起き上がった私は、階下からのざわめきによって最悪の予想が外れなかったことを知った。逃げる時間はなく、乱暴に開かれたドアの向こうに並ぶ人々の表情はみな畏怖と嫌悪に歪められていた。恐怖はあったけれど、偉大な魔女の娘として無様な姿はさらせないと、私は精いっぱい彼らを睨みつけた。




 相手の目的は分かっている。

 彼らはまだ年若い魔女を狩りに来たのだ。





 彼らは私に自分の願いを叶える意思がないことが分かると――そもそも魔法そのものが使えないのだが、そこはばれないように苦心した――私を広場に連れて行き十字に立てた丸太にはりつけにした。火あぶりにでもするつもりだろう。どうやら、あの伝染病を広めたのはそもそも私だということになっているらしい。自分で広めた病を自分で治し、富と名声を得ようとしたのだと。なんて馬鹿馬鹿しいのだろうと思った。そもそも人の目から隠れ住む魔女はそんなものいらないし、魔女になれなかった私もそんなものに価値なんて見いだせないのに。でもよかった。魔女が私だと思われているということは、ドミニクが魔法が使えるのはばれていないということだ。今はりつけにされて殺されようとしているのがドミニクでなくて、本当に良かった。私はあの子を守れたのだ。



 弟だから守りたいのか、恋をしていたから守りたいのか最後まで分からなかった。でももう、どちらでもいい。こんなにも誰かを大切に思う気持ちが恋でないのなら、恋なんてできなくていい。たとえ他の誰かを好きになっても、今の彼への気持ち以上に想うなんて、きっと無理だ。




 ああ、心残りがひとつあるとすれば、墓の下の母に孫を見せてやれなかったことだ。そこはドミニクに期待してもらおう。彼の子供ならとてもとても可愛いだろう。――ドミニクが誰かと結婚する未来を想像すると、胸が痛いけれど。




「ねえドミニク。私はあなたが大好きよ」



 お姉ちゃんとしてじゃなくて、きっと、ひとりの女として。





 足元の木々に火が放たれた。肌を焦がす痛みを覚悟して、ぎゅっと目を瞑った。けれど、痛みはいつまでたっても来なかった。

 響き渡った悲鳴に驚いて目を開くと、見覚えのある水の竜が広場を駆け巡っていて。



「お前ら全員、死んじまえ」



 底冷えするような低い声で言い放つドミニクが、目の前にいた。















 俺の父だという王の話は予想以上にくだらないものだった。

 多くの女を囲っていながら王は子宝には恵まれず、必然的に俺は唯一の王位継承者であるらしい。お前を王太子とする故城に上がって教育を受けるように、見つかって本当に良かったと、捨てるように伯爵家――ジュリアンの家だ――に置いたまま、行方不明になっても捜索さえしなかった子供に向かって言った。どの口が言うのかと、呆れを通り越して心は凪いだ。王の隣に座す王妃は、憎々し気な顔を隠そうともせず俺を見る。よほど魔女が嫌いなのか、それとも夫の愛を独占した女の息子が憎いのか、おそらくは両方だろう。俺を人さらいに浚わせる指示を出したのはこちらかもしれない。逃げ出さなければ殺されていたのだろうか。やはりここにいて幸せになれるとは露ほども思えない。



 話がそれだけならと、俺は見た目だけはキラキラしい玉座の間をそうそうに立ち去ろうとした。王位なんていらない。そう低い声で告げて立ち去る俺は、王を前にしてなんて礼儀知らずかと叫ばれたが、そんなもの知るか。俺は権力を必要としない偉大な魔女の息子だ。こんな奴らに払う礼儀など持ち合わせていない。俺はドロシーの所に帰る。あいつの傍以外に帰る場所なんていらない。けれど俺の歩みを、ジュリアンの叫びが止めた。



「待て! 出ていくなら、あの魔女がどうなっても知らないぞ!」

「――なんだと?」



 魔女だと称されたのはドロシーのことか。俺はそいつに詰め寄った。胸倉をつかまれ、不気味な瞳に睨みつけられたジュリアンは、怯みながらも街の者たちにドロシーの居場所を教えてやったのだと言った。

 必死に手を尽くして救おうとしたドロシーが、あの伝染病を引き起こした張本人だという噂が流れていることを、俺はこの時初めて知った。あの日、俺が薬草に魔法を使ったところを見ていた者がいたのだ。そいつから話を聞いた街の者達は当然のようにドロシーこそが魔法を使える魔女だと思い、また、まだ年若いドロシーならば少し脅せば言うことを聞かせるのは簡単だと思ったらしい。


 俺はジュリアンを殴りつけた。こいつだけじゃない、この場にいる全員、魔女を忌み嫌いその力を狙うやつ全員を、痛めつけてやりたかったが、今は時間がなかった。決して人前で使うなと言っていたドロシーの言いつけはもう頭になかった。俺は初めてひとりで魔法を使った。ドロシーの気配をたどり、風を起こし光と時間を編み込んでいく。距離を超える魔法を使う瞬間、周りにいたやつらの顔を見て、やっと俺はドロシーの言葉の意味を理解した。俺は守られていたのだ。魔法を狙う大人たちの目を自分に向けることで、その魔の手が向かないようにしてくれていた。





 たくさんの人がひしめく広場の中央、殺されそうになっている彼女の姿を見た途端、俺は自ら魔法を暴走させた。

 みんなみんな、死んでしまえばいい。恩知らずな街のやつら、自らの欲望のことしか考えていない汚い奴ら、みんな消えてしまえばいい。心のままに、魔力から生まれた水の竜が暴れまわる。



「ドミニク、もうやめて!」



 水の竜によって解放されたドロシーが俺に縋りついた。その温かな体を抱きしめて、ようやく俺はほっと息をついた。生きてる。ドロシーが生きてる。俺は涙をにじませた自分の目を乱暴に拭って、彼女の身体を確認した。服にはわずかな乱れと泥がこびりついているけれど、外傷はそれほどないようだ。それにまた安堵して、彼女に癒しの魔法をかけた。擦り傷が消えて、ついでに目元の腫れも引いていく。ドロシーはもう一度「もうやめて」と言った。




「もういいわ。これ以上やると死人が出るわ」

「みんな死んじまえばいい。こんな恩をあだで返すような、欲にまみれた奴らみんな」

「駄目よ」




 まっすぐ澄んだ茶色の瞳に見つめられて、俺は唸った。このお人好し。お前にそう言われれば、ドロシーに嫌われるのが何より怖い俺は、もう何も出来ないじゃないか。ドロシーを抱え上げ、でもせめてこれだけはと、死ぬほどではないながらも大なり小なり傷を負った奴らの頭上に、ただの水に変えた元竜を浴びせかけた。




「もう二度と魔女の力を自分のものにしようなんて思うな。再び俺達に手を出すなら、今度は絶対に容赦しない」




 再びドロシーを傷つけようとするなら、次はどんなに泣かれようと絶対に止めたりしないだろう。だからもう、俺達のことは放っておいてくれ。








 俺達は長い距離を超えた。ずっとずっと遠くへ、俺の魔法でならどこへでも行ける。山を越えて、国を超えて、海を越えて、世界さえ超えてしまおうか。それは駄目だとドロシーが言った。


「あんまり遠くへ行くと、お母様のお墓参りが出来なくなるわ」

「…そうだな。ならとりあえず二つ向こうの国に行くか。二百年前に母さんが住んでいたって言ってた国だ」

「そうね。お母様おすすめの魚料理が食べてみたいわ。それから、甘いものもたくさん種類があるって」

「あんまり食べ過ぎるなよ。また太るぞ」

「ちょっと、またってなによ! 失礼ね!」




 いつも通りの会話。それがとても嬉しい。

 丘の上に降り立つと、俺達はお互い見つめ合って、笑いあった。



「ずっと一緒にいよう。魔女に拾われたお前と、お前に見つけられて拾われた俺で、ずっとずっと。ドロシーの傍以外に俺は帰る場所なんていらないんだ」

「うん。うん、私も」





「私も、ドミニクの傍以外に居場所なんていらない。――ずっとずっと、大好きよ」








――大好きな母の墓前に、可愛らしい赤ん坊を連れて行けるのは、きっとそう、遠くない未来だろう。




お読みいただきありがとうございました。

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