大樹が朽ち果てる日 其の参
朝倉家の皆さんは宇佐山城に突然来て、その後は比叡山に行ってから越前国に戻り、信長さんによりナレ死の予定でした。しかし、書きたい事が出来たので急遽出演して貰いましたニャー。真柄姉妹も初となりますニャー。
今回の書きたい事は『戦争のメンタリティ』と『真実は人の数だけ在る』という事ですニャー。朝倉景隆さんの言葉に注目して下さいニャー。
改行の件は毎回改行ではなく、短めの文節で改行する事にしましたニャー。
越前国一乗谷。
朝倉家一乗谷城は谷地形を利用して造られた山城である。山の尾根に沿って城郭が築かれている連郭式山城である。一乗谷城の麓は谷地形に発展した一乗谷の城下町。三方は険しい山であり、一乗谷城の本丸はその山頂に位置している。攻め手は必ず一乗谷からの攻撃となり、城兵に高所を取られているという不利を強いられる。
南北朝時代に築かれたとされる一乗谷城は標高が400mにもなり、登りながら攻略を進めても、必ず高所に曲輪が出現する設計となっている。更に内部に湧き水も備えているので、長期の籠城戦もこなせる。これだけの城郭を備えるには多額の資金を必要とするだろう。これも敦賀の経済力を示す一端と言える。しかし、一乗谷城は完全な防御山城であり、籠城戦以外では出番が無い。
故に朝倉家は最初から麓の一乗谷に政治拠点を構えている。一乗谷は足羽川に合流する川によって削られた谷地形で山に囲まれている。この一乗谷は応仁の乱の頃から、京の都から戦乱を避けた公家や高位武家を匿ってきた。その為、都文化が根付き、敦賀の資金力も投入し、『小京都』と呼ばれる程に発展を遂げた。
その政治拠点である一乗谷館には朝倉家の重臣が集められていた。その重臣達を集めた張本人である朝倉家当主・朝倉左衛門督義景は重苦しい顔で一通の書状を眺めていた。
「織田家を攻めよ、か」
その書状は敦賀に本拠を置く近江商人・仰祇屋仁兵衛からであった。彼は書状で義景に織田家攻撃を進言してきた。さもなければ敦賀の上納金を停止するとまで通告したのだ。
「仰祇屋仁兵衛め、商人ごときが調子に乗りおって」
「しかし、敦賀の苦境は確かであろう」
「このままでは遠からず、朝倉家の財政にも響きます」
この件は既に家臣にも知られており、彼等の反応は様々だ。商人のくせに生意気だと言う者。敦賀の上納金減額を危惧する者。朝倉家の財政を危ぶむ者。それぞれが喧々諤々と意見を言い合う。
「問題は!」
一人の重臣が全員の言葉を押さえつける様に発言する。朝倉家の武断派筆頭の朝倉右兵衛尉景隆である。
「問題は織田信長が何もかもを牛耳ろうとしている事にある。この専横を許せば、足利義教の再来となろう」
「むう」
彼は織田信長が足利義教の再来になると断じる。足利義教はくじ引きで将軍に選出されたという経緯を持ち、『くじ引き将軍』と呼ばれる。しかし、彼は逆らう者は殲滅するという思考の持ち主で、本当に老若男女問わず殲滅した。第一回比叡山焼き討ちの実行者でもある。
「足利義教は個人の武力を持っていなかった。故に暗殺されたが、織田信長は強力な武力を持っている。放置すれば手に負えなくなる事は必定」
「しかし、だからといって攻め込むのは度が過ぎよう。まずは外交努力を……」
歴代の足利将軍と同じく、足利義教は固有の武力を持っていなかった。戦争は全て、他大名の力無くして出来ないものだった。しかし彼はそれを全て将軍の力だと勘違いしていた。故に、足利義教は自分の力だと思っていた赤松満祐によって殺された。赤松満祐は失態を犯せば殺されると恐れていたという。
しかし織田信長は固有の武力を持っている。池田恒興をはじめ、織田家臣を各要所に配置して盤石の態勢を築こうとしている。大名が雑居しているだけの幕府とは違うのだ。
景隆の言い分は義景にも理解る。だからといって戦争は行き過ぎだと思う。まずは使者を送って外交すべきと考えている。
織田家と朝倉家は仲が悪い、と言われている。まあ、良くはない。しかし遺恨がある訳でもないので、以前は手を結んだ事もある。織田家先代の織田信秀は朝倉家先代の朝倉孝景と共同で美濃国の斎藤道三の攻撃を行った事がある。失敗したので仲良くお互いに責任を擦り付けていたが。
昔に朝倉家は織田家を斯波家と一緒に越前国を追い出している。しかし、それは織田大和守家の事で織田信長にはあまり関係ない。そして信長は尾張国出身で越前国に何の思い入れも無い。なので、朝倉家から使者が来たら、普通に対応するだろう。
外交姿勢を出した義景に、景隆は不満を示す様に「ダンッ」と床を叩く。
「殿、織田信長は既に巨大な罪を犯しているのですぞ!」
「罪?」
景隆は信長には巨大な罪があると主張する。義景は何の事か分からない。それはそうだろう、織田信長が朝倉家に対して行った事など何もない。せいぜい、足利義昭が朝倉家から織田家に行ったとか、上洛後にウザい自慢してきた程度だ。
「そう、罪です。『救龍』の事は聞き及んでおりますかな」
「川から水を安全に巻き上げると聞いた。多少、誇張が入っているのだろうが」
「いえ、誇張などではありません。犬山にて救龍を使い巻き上げられた水は用水路を満たし、水の乏しい小牧へ大量の水を送っているそうです。その水で小牧を大開発する動きもある、と。我が間者が報せて参りました」
「そ、それ程の水が……」
「その救龍があれば越前国も大いに潤いましょう」
景隆はその罪に『救龍』を挙げた。救龍の噂は義景の耳にも届いていた。
その救龍の詳細を景隆は間者を使って調べさせていた。ただ構造情報は手に入らず、小牧に大量の水を流しているという成果は見聞していた。
越前国にも暴れ川が存在する。九頭竜川と足羽川だ。この二つの川は越前国最大の穀倉地帯を潤す重要な水源である。と、同時に越前国を最も悩ます暴れ川なのである。一度、長雨が降れば簡単に氾濫を起こす。
堰を築き、堤防を造って、何とか被害を減らそうと努力はしている。しかし、そうなると今度は水が入れられなくなって、稲作がままならない。結局はある程度の洪水を覚悟するしかないのである。
織田家は木曽川の氾濫を防ぐ為に強固な堤防を造った。水不足も懸念されたが、尾張国は中央に庄内川が流れているので、それ程の影響は無かった。しかし庄内川流域にない地域は相変わらず水不足だった。そこで池田恒興は救龍を犬山に設置して、巻き上げた水を用水路に流し、水不足な小牧に送る計画を実行した。水は小牧を南北に縦断し、庄内川方面に流れる。当初は庄内川に合流させる予定だったが、今度は庄内川氾濫に繋がりかねないという事で、合流させない案も出ているらしい。計画が纏まり次第、恒興は救龍を増設すると噂がある。
「更に『ろ過器』という物もありましてな」
「『ろ過器』?何だ、それは?」
「どうやら『泥水を清水に変える物』らしいですな。詳細までは判っていませんが」
「何と……」
景隆はまだ表には出ていない『ろ過器』の話も掴んでいた。詳細はまだ分からないが、泥水を清水に変える物という事は調べていた。
この情報には義景も驚く。水は人間に絶対必要な物だ。しかし水は人間を殺す要素にも簡単に変わる。
渇水などは典型例だろう。綺麗な水が手に入らなくて、泥水を啜り、病気になって死ぬ者の何と多い事か。それでも人は水を飲まない訳にはいかないのだ。
そこに泥水を清水に変える事が出来る物が存在したら?それが何処にでも設置出来たら?
だんだんと義景は夢想を見ている気分になる。氾濫しない川から自由に水を取り出し、民が綺麗な水を飲み健康な暮らしを過ごす。きっと越前国は豊穣の未来が約束されるのではないか、と。
「これらを発明したのは大和国大名の筒井順慶殿です。この様な民を大勢救う物は本来、幕府の管轄に置いて、広く利用されなければなりません。しかし!」
この『救龍』『ろ過器』を造ったのは筒井順慶である。そこまで景隆は調べ上げていた。正確には発案のみだが。
彼はこれらの技術は幕府が管理して、広く日の本に普及させるべきだと強く主張する。今の幕府にそんな力は無いが、彼はお構いなしである。そもそも、その力に朝倉家がなる為に出陣するというのが、彼の考えだからだ。そして朝倉家と筒井順慶に何の関係も無いので、幕府管轄にすべしと言っている。順慶の意思など、景隆には一考の余地も無い。
「しかし、織田信長はあろう事か、救龍とろ過器を独占し、あまつさえ筒井順慶殿に嫁を出す体で、彼を犬山に監禁しているのです!これ程の大罪がありましょうや!」
景隆は更に声を荒げる。彼は織田信長が筒井順慶に嫁を出して、犬山に監禁していると主張する。『救龍』や『ろ過器』の情報、及び、筒井順慶の身柄を幕府に差し出さない。これが織田信長の大罪であると断じる。
言っている事は『真実』だ。朝倉景隆が信じる『真実』なのだ。
実際に筒井順慶は実家である大和国を出て、犬山に滞在している。端から見れば人質監禁にしか見えていない。順慶本人が犬山行きを望んだ事は、織田信長、池田恒興、筒井順政をはじめ、織田重臣や筒井重臣でないと知らない事だ。あと監禁もされていない。まあ、大名が護衛も付けずに、犬山を歩き回っているなど、誰も信じられないだろうが。
そして最近に信長が娘を順慶の嫁にすると決めたのも事実だ。それをどう受け取るのかは、人によって違うという事だ。織田家臣なら筒井家に不遜な態度を取るのは控えようとなるし、筒井家臣は織田家から重要視されていると感じるだろう。朝倉景隆は順慶を犬山に置く為の体裁だと思っている。幕府に順慶を差し出さない為の理由付けなのだと。
「それはそうかも知れぬが。ならば如何するのか?」
「まずは幕府から織田信長を排除する事が第一です。ある程度、叩きのめして、織田家の勢力を弱める事が肝要」
朝倉義景の問いに景隆は本題を切り出す。まずは織田家の勢力を減退させる事が必要である。方法は戦争一択だ。交渉で織田信長が現状を放棄するなど有り得ない。
仰祇屋仁兵衛は書状で多方面攻撃を計画している事を書いていた。この波に乗れば、織田家を戦場で叩く事も現実的となる。
「第二に、京の都から織田信長を排除する事。都は幕府の御座所であり、何処ぞの田舎大名が支配しているのは不遜でありましょう」
そして京の都から織田信長を撤退させる事。都は幕府が治めるべき場所である為、一大名に過ぎない織田信長が支配しているなど、不遜であると景隆は言う。
彼は暗に、信長を近江国からも追い出して美濃国か尾張国まで帰れと言っている。朝倉家は南近江まで進出して、幕府の要職を得るべきだと考えている。北近江の浅井家とはそれなりに良好な関係なので、今回の件は協力出来る見込みがある。彼等も織田信長に辛酸を嘗めさせられたのだから。
「第三に、筒井順慶殿の身柄の返還と幕府への出仕。織田信長の娘とは離縁し、新たに幕府から推薦された娘と結婚する。救龍とろ過器については、全てを幕府に提出する。この辺りが目標となりましょうな」
更に筒井順慶を筒井家に返還させる。その上で順慶は幕臣として出仕させるという事。救龍とろ過器は幕府に提出し、織田信長の娘とは離縁する。これが勝利条件になると景隆は主張する。
この男は清々しいまでに順慶の事情など考慮しない。実家に帰りたくないのは順慶の方だし、彼は幕府に出仕など登校拒否ばりに嫌がるだろう。許嫁の秀子に関しても、順慶は成長してから本人の意思を聞く事に決めている。
この辺りに関して、景隆としては「武力で脅せばいいだろ」としか考えてない。彼は武断派の戦国武将なのだから。
「では、作戦目標は」
「織田家に打撃を与え、京の都まで到る。上洛行と変わりません。以前に作製した上洛計画がそのまま使えます。如何ですか、殿?」
「ううむ……」
朝倉景隆は織田家を潰そうとまでは思っていない。南近江以上に戦線を伸ばすのは危険だ。加賀国の動きは仰祇屋仁兵衛が抑えていると言うが、何処まで信用していいやら。美濃国や尾張国まで行って、越前国が襲われました、では目も当てられない。
つまり、京の都まで到達して、幕府の復権を為し、権利だけ貰って帰るが一番美味しい訳だ。彼に織田信長や池田恒興の様な戦乱を終わらせる意志は無い。あくまで朝倉家の利益を損なう者と戦い、利益を得たならさっさと帰る。そういう考えしか持っていない。
だから戦う場所も南近江と京の都くらいだろうと予想している。このくらいなら大した損害にならないと義景を説得している訳だ。
義景や各重臣達が景隆の意見を熟考していると、奥の末席の方から呆れた様な声が挙がる。
「……下らね」
「真柄十、殿の御前だぞ。無礼であろう」
発言したのは席に並ばず、広間の壁に気怠そうにもたれていた大柄な女性。近くに居た家臣は彼女の態度を窘める。その女性、真柄十郎左衛門直隆、通称・真柄十は尚も悪びれない。年齢は18歳。身の丈6尺弱(180cm弱)にもなる彼女は膝に手を掛けて立ち上がる。ざんばらの黒い癖髪のショートヘアで、面倒と言わんばかりに後ろで髪を纏めて結んでいる。目つきは鋭く、不機嫌を隠そうともしない。
十は腰の刀にすら手を掛けており、周りは警戒態勢になってしまう。それくらいの殺気を振り撒いていた。
その刀は『次郎太刀』という大太刀で長さは5尺3寸(160cm)にもなる。これを彼女は軽々と振り回す強者でもある。更に彼女は足利義昭が一乗谷に来た際に、九尺五寸(約288cm)にもなる『太郎太刀』で演武を披露したという。
「んなこたあ、どうでもいい。アタシが知りたいのはな『やるのか、やらんのか』、これだけなんだよ」
十は既に飽きていた。織田信長がどうだの、筒井順慶がどうだのは彼女には本気でどうでもいい話だ。要は戦うのか戦わないのかだけが聞きたいのだ。
「真柄よ。ワシはやろうと思う。出陣の支度をせよ」
「そうかい。じゃ、帰るわ」
朝倉義景は十の質問に「戦う」と答える。彼は夢想を見てしまった。越前国に救龍が有れば、ろ過器が有れば、という夢想を。
答えを聞いた真柄十は返事だけ返し、踵を返して広間を出て行った。これ以上の問答は御免だと言わんばかりに。
真柄十は一乗谷にある真柄屋敷に帰って来る。ここで待っている者と一緒に真柄領に帰って、戦の支度をする為だ。
「おう、戻ったぞ、七」
「おっかえり〜、アネキ。やっぱ、つまんなかったみたいだし」
中に居るであろう者に呼び掛ける真柄十。軽そうな返事をしたのは彼女の妹である真柄七郎左衛門直澄で通称は真柄七、17歳。身の丈は姉の十よりは低い5尺5寸(170cm)程。姉と同じ黒の癖髪でツインテールにしている。十が後ろで纏めているので、個性を出す為に横にしたらしい。
彼女の愛刀は『千代鶴国安』作の6尺(180cm)の大太刀で、自分の身長より大きい刀を振り回す。姉の十に対抗心を燃やして大太刀を求めた結果、この6尺の大太刀になったらしい。
「おお、くっだらねえ話し合いだったわ。景隆の奴、御託ばかり並べやがって。やるなら『殺る』でいいだろが、ったく」
「アイツで大丈夫なんかな〜。宗滴様は有無も言わせない即決即断だったし。御託並べないと出陣出来ないとか、先が思いやられるし」
つまらないと予想していた七に、十はその通りだったと不満をぶちまけた。彼女はつらつらと弁舌を披露する朝倉景隆にイライラしていたのだ。
朝倉家武断派筆頭は朝倉宗滴であった。彼はやると決めたら意見など許さないし、説得する様な事もしない。それでいて加賀一向一揆10万をたったの1万という軍勢で散々に打ち破ってみせた。だから真柄姉妹も何も考えずに示された敵と戦えば良かった。
朝倉宗滴没後、武断派筆頭となったのは朝倉景隆だ。しかし彼が筆頭になってから加賀戦線は苦戦するようになっていた。越前国まで押し込まれた事もある。真柄姉妹が敵を倒し進んでも、他の場所では一向一揆が突破していたりもした。つまり景隆の采配は宗滴に遠く及ばない事を示していた。
それが真柄姉妹には不満なのだ。とはいえ、朝倉宗滴程の人物がその辺にいる訳がない事も分かっている。だが、愚痴らずには居れない。
「ま、アタシら真柄衆に必要なのは『敵が居る』『殺す』で十分だがな」
「違いねえし!……で、敵は?アタイ、加賀の雑兵共、相手にすんの、もう嫌なんだけど。竹槍一本で鎧も無し、手柄にすらならん。死にに来てるとしか思えんし。どうせなら後ろに居る武家坊主共を強襲しようよ。絶対愉しいって♡」
「武家坊主共は自分達は安全、みたいに思ってるところあるからな。それが安全じゃなくなった時のアイツらの顔、あれ程『ザマァ♡』が似合うヤツラはいないな。ハハハ」
「だろー。殺ろうぜ、ギャハハ」
加賀一向一揆の前線はガリガリで死にかけみたいな農民が竹槍一本だけで突撃を繰り返す集団だ。もちろん鎧など付けていない。ほぼ餓鬼の群れと化していて、農村などに辿り着くと全てを貪り尽くす。なので迎撃はしなければならないが、精強で鳴る真柄衆の敵ではない。しかし、そんな餓鬼の群れに手柄頸など居る筈もなく、真柄七は心底嫌そうな顔をした。
それよりは後方で指揮者を気取っている武家坊主を襲った方が愉しいと七は言う。十もその意見には賛成だ。特に、他人には死を強いるくせに、自分は死ぬ覚悟すらしていない武家坊主を殺す時が最高だと嗤う。
「残念だが、今回の相手は織田家だ」
「織田家?西に居るアレ?」
「違う違う。関係者だが、アレじゃない。昔に斯波家と一緒に追い出した織田家だ」
越前国に織田姓の者は残っている。地名からして『織田』なので当たり前なのだが。地名を名字にしている人は多い。現代でも地域全員山本さんとかある訳で。
応仁の乱で朝倉家が追い出した織田家というのは、あくまで斯波家臣の織田家というだけだ。
「その織田家が尾張国で強くなって、上洛までしたんだってよ」
「へえ、逞しいじゃん」
「だからだろうな。景隆のヤツ、織田家に対してコンプレックスを抱えてやがる。昔、追い出した織田家が朝倉家より目立つなど許されない、みたいな」
「くっだらな。テメエがやった訳じゃねえし」
朝倉景隆の心の奥底にあったものを、十は見透かしていた。
彼は織田信長に対抗心を燃やしているのだと。かつて朝倉家が越前国から追い出した織田家が、今は朝倉家より上位になろうというのが気に入らないのだ。織田家は未来永劫、朝倉家の下を這いずるべきなのだと。
あまりの下らなさに七ですら辟易してしまう。だいたい、織田家を追い出したのは応仁の乱の頃で、朝倉景隆には何も関係ない筈だ。勝手にコンプレックスを抱えるとか手に負えん、と。
「ま、それもアタシら真柄衆には関係ねえわ。問題は『相手に骨が有るのか?』くらいだ」
「違いねえし、ギャハハ!」
まあ、その全てがこの真柄姉妹にはどうでもいい。彼女らが気にするのは「果たして織田家は強いのか?」という一点のみだ。あとはなるべく手柄頸が居ますようにと願掛けする程度である。
真柄十郎左衛門直隆さんと真柄十郎左衛門直澄さん。どちらも十郎左衛門なので直澄さんには七郎左衛門になって頂きますニャー。そして何気に戦争の原因となりつつある順慶くん。
どうでしょうか、皆様。朝倉景隆さんは嘘を言っているでしょうかニャ?これが『戦争のメンタリティ』です。
今現在、東欧で戦争が続いています。侵攻側の偉い人が言っている事を皆さんはどう思いますかニャー?「嘘ばかり」「自分に都合の良い事ばかり」と思っていませんか?べくのすけは思いますニャ。でも、彼等は『嘘』など言っていません。『真実』を話しています、『彼等の真実』をね。これが『真実は人の数だけ在る』という意味です。彼等は世界の人々に向けて喋っている訳ではありません、自国民に対して言っています。他国の記者が勝手にリークしているだけで、他国の人々にどう思われても、どうでもいいと考えているでしょう。自国ファーストは世界のグローバルスタンダードですからニャー。『国』とは自国ファーストの為に出来上がった物なので、出来ないなら消滅の運命が待っています、とだけ言っておきますニャ。
宗教が分かり易いかも知れませんニャー。宗教を盲信する人って他人を話を聞きませんよね。特に勧誘の人。彼等は何故、他人の話を聞かないのか、聞き入れないのか?それはその宗教こそが彼等の『真実』だからです。『真実』なのだから他を聞く必要を感じないでしょう。
つまり戦争をしようとする人は『自分の真実』に浸っている、という事です。それを否定する考えは『売国行為』『フェイクニュース』と糾弾する様になる訳です。情報の真偽などどうでもいいのです、だって自分が『真実』を言っている『正義』なのですから。そして『真実』を言葉にし、支持者を拡大して、『真実』は民意となっていく。そうやって出来上がったのが『ナチスドイツ(国民社会主義ドイツ労働者党)』と言います。この政党は『民意』で出来たのです。これが『戦争のメンタリティ』の例となりますニャー。




