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戦国異聞 池田さん  作者: べくのすけ
一時の平穏編
210/239

順慶の嫁 其の後の壱

 筒井順慶に嫁が決まる。この事は即日のうちに乃恵や乃々にも報される。池田邸から帰って来た順慶が話したからだ。順慶としては池田恒興が帰って来たら、何とかして貰うつもりらしい。そんな考えをしている順慶は今回の件を気楽に捉えている。なので彼は笑い話の様に乃恵や乃々に話していた。

 話を聞いた乃恵は気が気ではない。乃々の計画が崩壊しようとしているのだから。乃恵は部屋の掃除を終わらせると、庭を掃除している乃々の所に急いだ。


「乃々、どうしよう。順慶様、結婚しちゃうんだけど」


「そうだね」


 一方で乃々の方はいつもと変わらない。焦る乃恵に淡々としている乃々。計画を諦めてしまったのだろうか、と不安になる程だ。だが、無理もないと感じる。農民出身である彼女らに出来る事は殆ど無い。


「これじゃあ乃々の計画が……」


「何を言ってるの、お姉ちゃん?状況は寧ろ、私達に有利になったんだよ」


「え?何で?」


 青ざめた表情の姉を見て、乃々は溜め息をつく。何を言っているのだろうか、言いた気な表情だ。乃恵は何も理解していない様なので、乃々は姉に向き直って説明を始める。


「私達は順慶様の正室にはなれないの。だからご正室様はいずれ決まる。時間の問題なの」


「え?私達は結婚出来ないって事?」


「そうじゃなくて。順慶様はお大名様だから正室と側室を娶る事が可能で、私達が狙えるのは側室の端にある『家女房』っていう立場なの。正室は別の方になる訳」


「えーと?」


 一般的に武家の嫁には武士の娘が相応しいとされる。武家にもランクがある訳で、下級なら制限も緩いが武士の娘が望ましいという程度だ。だが、大名になると確実に武家以上の身分が必要となる。特に正室となると武家以上でないと不可能である。大名本人より周りの家臣達が認めない。

 乃恵と乃々は農民出身である為、筒井順慶の正室は最初から不可能。武家の養女になったとしても生まれは変わらないので完全に不可能である。その為、乃恵や乃々が目指すべきは側室の端にあるという家女房という立場だ。一応、側室になるので正室が居ないと置かれない。側室は正室に子供が授からないから置かれる建前だからだ。あくまで建前である。


「だから秀子様で良かったって言ってるの。秀子様は今は赤ん坊な訳で、この屋敷に通い始めるのは早くても3、4歳でしょ」


「そ、そうだね」


「いくら高貴な姫君でも3、4歳で何でも出来る訳ない。そこで私達が秀子様を何かとお支えするの。そうすれば秀子様と仲良くなれる筈だよ」


 乃々が冷静な理由がコレだ。正室は必ず別の人物になる。その人物が自我を確立している様な年齢なら、乃恵や乃々を一瞥しただけで嫌う可能性もある。だが、秀子は赤ん坊で自我はまだ確立出来ていない。物心がつく3、4歳で順慶の屋敷に通い始めると予想される。それから仲良くなれば良いと乃々は考えている。

 自我とは何が好きか、何が嫌いか理解する事。3、4歳でもハッキリしてくる頃だ。仲良くなれるかは少し賭けになる。しかし乃恵や乃々は池田邸に勤めている訳ではないので待つ以外に手が無い。乃恵や乃々は以前に居た村でも幼い子供の世話をしていた。大人は男女共に畑仕事をするので、赤ん坊や幼い子供は集めて6〜12歳くらいの少女が世話を担当する。少年なら親の手伝いか家畜の世話となる。その為、乃恵と乃々は幼児の扱いに自信がある。


「で、でも!秀子様は織田家の姫様だよ。私達なんて見下されるだけなんじゃ……」


 だが相手は織田家の姫君である。自分達とは身分が違い過ぎる。おそらくは近付く事も出来ないかも知れない。3、4歳でも秀子は拒絶する可能性があるし、周りの人間が許さないかも知れない。自分達には機会すら無い事も有り得るのだ。


「お姉ちゃんは池田邸で見下された事があるの?」


「いや、無いけど」


「私も無い。養徳院様をはじめとして、そういう態度の人って一人も居ないの。他家から来たお慶様もお勝様も私達を見下さない。それって養徳院様のご教育だと思う。だから秀子様も大丈夫じゃないかな」


 乃恵や乃々は池田邸に行く事がある。順慶宛に届く荷物を取りに行くのだ。その時に彼女らは誰からも見下された事は無い。主に対応するのは恒興の側室である藤だったり、女中さんだったりするが、その対応は丁寧なものだ。前田慶や森勝、恒興の養女達とも会う時はあるが、見下した様な態度は取らない。もちろん、乃恵や乃々も深々と礼をして無礼は働いていない。

 乃々はそれが養徳院桂昌の方針なのだと思っている。そうであるならば、池田邸で育つ秀子も養徳院からそう教育されるだろうと予想している。希望的観測ではある。


「ねえ、乃々。あなた、何でそんなに詳しいの?」


「池田のお殿様に聞いたから」


「よ、よく聞けたわね……。お殿様って怖くない?」


 何故、同じ村の出身である乃々がここまで詳しいのか。村では得られない知識である筈だ。その答えは乃々が池田恒興に直接聞いたからだ。時期的には順慶がろ過器を作った後で、恒興が順慶屋敷に数日来ていた時だ。

 乃恵は明らかに恒興を怖がっていた。何故なら、恒興が順慶を直接叱った場面に遭遇しているからだ。もの凄い表情で順慶に「命を救った責任を取れっ!」と激昂したのが忘れられない。乃恵は救われる側だったのに、恒興には怖い人物と感じていた訳だ。あとは恒興の評判だ。犬山に居れば聞こえてくる噂話は恐ろしい戦果と業績が語られている。優しい人物などとは全く聞こえて来ない。やれ、30人程(人買い商人)を磔刑に処したとか、甲賀住民を全員、餓死させようとしたとか(未遂)。


「あの方はそんなに怖い人じゃないよ。噂が先行してみんなが怖がってるだけだと思うの。聞いたら家女房の事も教えてくれたよ。これ以外になると気苦労が絶えなくなるって」


 しかし、乃々はその場所に居なかったし、噂話にはより面白く尾ヒレが付くものとして当てにはしない。そして順慶の屋敷に来た恒興に質問してみれば、自分達の為になる回答を得られた。乃々は恒興が噂通りの怖い人物ではないと感じている。此方が控えて無礼を働かなければ大丈夫だと。


「気苦労って……」


「正室や側室は家柄が必要なんだって。それが無いと、家臣の人達から苛められるから。でも家女房だけは家柄の制限が無いの。だから家女房が良いって、お殿様が言ってたの」


 正室はその武家におけるNo.2の立場があり、全ての家臣より上である。だから家臣は正室に(かしず)かなければならない。しかし側室は居ても居なくても良い為、家中での扱いは低い。下手を打つと家臣や女中から苛められる事もあるという。身分不相応が理由にある。だから家柄が必要ではない家女房が良いだろうと恒興は答えた。


「乃々、貴女の計画ってまさか……」


「そうだよ。犬山のお殿様から聞いて考えたの。お大名様の事はお大名様に聞くのが一番でしょ」


「実はとんでもない勇者よね、貴女」


 乃々は大名事情は大名に聞けば良いという、普通ならとんでもない考えで恒興に聞いた。大名当主への直訴は死罪。という考え方は一応有る。ハッキリと法整備されたのは江戸時代となるが。戦国時代では人によるとしか言えない。織田信長とて村の祭りに参加する事があるし、恒興だって犬山の祭りに参加して民と接している。足利御連枝大名くらいになると許さない人物がいるかも、という感じだろう。しかし今川義元は上洛の折りに立ち寄る村の歓待を受けたというのであまり当てにはならない。まあ、大した用事も無いのに大名に質問は勇気ある者と言える。そこは乃々が恒興は無体な人物ではないと見たからなのだろう。

 こうして乃々は恒興から得た情報で計画を練った。そして順慶の風呂に突入し姉妹喧嘩に発展した訳だ。


「ま、その話は置いといて。池田邸に行こ」


「え?何で?」


「忘れたの?今日は順慶様の絵の具が届く日なの。取りに行かないと」


「あ、そっか!急がないと」


 今日は池田邸に順慶の荷物が届く日だ。主に順慶が襖絵で使用する絵の具である。これを取りに行く為に乃恵と乃々は池田邸に向かった。

べくのすけは話の全体像をザックリ作ってから肉付けしていくのですが、何か長くなりそうで時間が掛かる予感ががが。そこで場面的に切れる所で分け、1週間くらいで投稿出来ないかニャー、という試みです。この後で養徳院さんが登場して家女房について詳しく説明となりますので、長くなりそうかニャー、と。あまり読者様を待たせたくはないと願っておりますが、寄り道わき見が多いですからニャー、べくのすけはw

ロマサガ2リメイクも無事にやらかし、3周目まで行かないとコンプ不可、高難易度は4周目になるという状態ですニャー。現在2周目。サラマンダーと陰陽師が二者択一なんて OTL。1周目でサラマンダーのアビリティ極意化を忘れていなければ……。高難易度ボスは陰陽師というか冥術必須だし……。という訳で離脱。ゆっくりやりますニャーw

ウイニングポスト10 2025が発売予定!……2024、ぜんぜん終わってないニャー……。

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― 新着の感想 ―
この子、養徳院様に教育されたら滅茶苦茶育ってた可能性あるなぁ_(┐「ε:)_
にゃーと、語尾に付ける人が、恐いわけがない 猫は正義
戦国大名は民を大切にする。というか大切にしないと自分の死につながるから、そういう人達が大きくなったんでしょうね
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