水車で水を汲み上げるって効率悪くね? 後編
スクリューの構造はテキトーですニャー。
筒井順慶の水車見物から数日後。
大谷休伯は勘三郎の工房に向かっていた。恒興の救龍採用から水車付近の土手を改修が一段落したからだ。順慶が設計する救龍は大きな円柱形だとは聞いている。川面から土手の上まで届く長さだという。しかし、彼に理解るのはここまでだ。
細かい形状は?備え付けるにはどうする必要があるのか?どうやって水車動力と繋げるのか?この辺がまったく理解らない。故に彼の作業は既に行き詰まってしまった。
だから休伯は勘三郎の工房に行く事にした。救龍の完成品は無くとも、試作品の一つくらいはあるのではと期待している。だが、工房の近くまで来た休伯は期待以上の状況である事に喜ぶ。直ぐに彼は駆け寄る。
「これは順慶様、調子は如何ですかな?」
「あ、休伯さん。おはよー」
「「おはようございます」」
そう、救龍を設計する張本人である筒井順慶が工房の前に居たからだ。順慶はいつも通り乃恵と乃々を連れている。いや、いつもなのかは知らないが。順慶が出掛ける時に、この二人の娘はいつも居る様に思う。
三人は水を張ったタライを囲んでいる。休伯には彼等が何をしているのか分からず聞いてみる事にした。
「タライを囲んで何をしているのですかな?」
「ああ、コレね。実はスクリューの模型を造って貰ったんだ」
「こ、コレ、凄いんですよ!水がすぅーって、すぅーって!」
「お姉ちゃん、説明になってないの」
順慶は勘三郎に知り合いの木工職人を紹介してもらい、スクリューの模型を製作して貰ったという。乃恵と乃々はその実演を見ていた様だ。そのせいか、乃恵はとても興奮していて、見た事を説明しようとするが要領を得ない。妹である乃々からも説明になってないとツッコミが入る程に。まあ、乃々も説明出来ないでいるのだが。
順慶の手元にあった木工細工は休伯が一見してもどういう物か分からない。半円の溝を彫られた木の板、その溝に合う様に螺旋状のヒレを持った木の棒が嵌め込まれている。木の板の枠はすべり台の様に斜めに、順慶の手元からタライの中に設置されている。螺旋状の棒も同じ様にタライの水の中から順慶の手元まで伸びている。そして順慶の手元側には棒を回す為の取っ手が取り付けられている。
大谷休伯はこれがどうなるのかは想像も出来ない。しかし彼は未知を知れる事にワクワクしてきた。
「おお!これが救龍ですか!わ、私にも見せて頂けませんか?」
「もちろん。ていうか、見て貰わないと工事も進まないっしょ。じゃ、いくよー」
そう言うと、順慶は棒の取っ手を回し始める。全力ではないが、割と勢いは速い。
「おおお!?」
大谷休伯は目を見開く。順慶が棒を回していると、螺旋状のヒレの中に水が入り始めたのだ。しかも水は段々と順慶の方へ向かっている。そう、低所から高所へと登っているのだ。
休伯の目の前で有り得ない現象が起こっている。水が重力に逆らうなど天変地異でしか有り得ないからだ。つまり順慶は自分の目の前で天変地異を起こしている。そして木曽川から無限の水が登って来るというビジョンを休伯は想い描く事が出来た。これが自分が木曽川の土手に築くべき形なのだと。
「ふう、疲れた」
「ああ、水が落ちて行きますな」
水がある程度まで登ってきたところで、順慶は手を止めた。どうやら疲れたらしい。すると水は引き潮の様にタライに落ちて行く。
これを目撃した休伯は回転力こそが水を登らせた原動力なのだと理解した。この回転力を得る為に恒興は水車を改造しろと言ったのだと。そして休伯は造るべき土手の形、水車をどう改造すべきかを完全に理解した。
「まあ、こんな感じ。本当は上にも蓋をしないといけないんだけどね。水が漏れていくから」
「成る程、成る程。確かに上から水が溢れていましたな。実物は蓋も作製するとしましょう」
スクリューを扱う上で重要なのは『密閉性』である。これが無いとせっかくの水が簡単に逃げてしまう。なので本来はスクリュー上部も蓋で塞いでおかねばならない。順慶の模型は中の仕組みを見せる為にワザと全開にしてあるだけだ。だからスクリュー上部から水が溢れて、順慶がかなり頑張らないと水が登らなかった。
「あ、あの、順慶様」
「どしたの、休伯さん」
大谷休伯は突然、おずおずと順慶に声を掛ける。いきなりどうしたのかと順慶は思う。
「お願いします!この救龍模型を私にお譲り下さいませんか?幾らでもお支払い致します!足りなければ借金してでも!」
休伯は順慶の模型が欲しくて、少し畏まったのだ。彼は確信している、この救龍はあらゆる場所に造られる。織田信長ならそう命じるはずだ。
農業には必ず水資源が必要だ。日の本には河川が多いので水を得るのは、そう難しくない。しかし日の本の河川は木曽川に限らず水害を起こす川が多い。休伯はそれを防ぐ堤防造りに心血を注いできた。だが農地には水が欲しい。完璧な堤防を造れば水が得難く、迂闊に堤防の隙間を開けて水を得ようとすれば水害の元になる。この二律背反をどう克服するのかは大谷休伯も頭を悩ませていた。その答えが目の前にある、彼にはそう見えたのだ。堤防に隙間を開けず、水をこちらの制御下で得る。これぞ正に日の本を救う龍ではないか、と。
この救龍の技術は広く弟子達にも伝えなければならない。織田家領内の各地に造る為にも。しかし休伯が口で言っても理解は難しいだろう。だが、実物模型が有るなら話は別だ。口頭と視覚の両方で教えれば理解も早いはずだ。だから休伯は順慶の模型を欲しがった。それこそ恒興に借金をしてでも手に入れたいと考えた。それを聞いた順慶はからからと笑い出して手を振った。
「お金なんかいいって。もう一頻り楽しんだし、休伯さんにあげるよ」
「よっ、よろしいのですか!!!?」
「いいよ。それに……」
順慶はスクリュー模型を無償譲渡すると言う。休伯はその答えに驚き、それは申し訳ないという顔をする。休伯にはこの模型は千金に値する宝物に見えていたからだ。そんな彼に順慶は犬山に来たばかりの事を思い出す。
「休伯さん、俺の為に『釜風呂』を作ってくれたじゃん。あれって一般的な物じゃないって恒興くんが言ってたし、苦労したんでしょ。そのお礼って事で」
戦国時代の一般的な風呂は『蒸し風呂』、つまりサウナの様な物で、肩までに浸かるのは温泉くらいだ。江戸時代初期は『棚風呂』という足湯の様な半身浴が主流となる。現代の様な入浴スタイルは江戸時代中期頃に発生したという。……戦国時代の大大名が甥に騙されて水風呂に叩き込まれたって?そんなバカな。
なので順慶屋敷に最初から釜風呂など有る訳がなかった。つまり順慶がゴネた結果、休伯が苦心して釜風呂を作った。休伯としては恒興から順慶に気を遣う様に言われていたからだ。
とはいえ、順慶にとって休伯は自分の願いを叶えてくれた人なので、割と好感度が高い。だからこの模型を譲っても惜しくないと思えるのだ。ていうか、順慶は指示しただけで、苦労して作ったのは100%木工職人だ。
「という訳で、どうぞ」
「ありがとうございます、順慶様!」
大谷休伯は感無量といった感じで、模型を受け取った。タライ自体は勘三郎の工房の物なのでスクリュー模型だけだ。
模型を譲り受けた休伯は勘三郎が造っている救龍を見て、寸法や形状を把握。それを本に土手の改修に掛かった。模型を見れば救龍をどう動かせばいいのか、休伯は良く理解出来た。なので動力となる水車の改修も上手く進んだ。
その後、救龍の完成と共に取り付け作業も始まった。恒興は救龍完成の報告を聞き、早速にも検分に訪れた。救龍が取り付けられる土手には50人以上の人々が作業に従事していた。大型水車の近くに螺旋状のヒレを持つ大きな鉄製の棒が鎮座している。その近くには大谷休伯、土居清良、村正の勘三郎そして筒井順慶が居た。ついでに順慶の従者である乃恵と乃々。恒興はその場所に向かい、彼らに声を掛ける。
「順慶、来たぞ。それが救龍かニャ?」
「あ、恒興君。丁度、スクリューを備え付けるところさ」
順慶の足元には彼の背丈のざっと十倍近い鉄製の棒。太さも螺旋状のヒレも入れて人の胴体くらいにある。とんでもない量の鉄を使っている代物を見て、値段は幾らするんだと恒興は少し怖くなった。
「これが救龍。かなり大きいニャー。運ぶにも一苦労だったろう」
「ええ、運ぶのに荷車3台、人員10人必要なくらいの重さがありますよ」
恒興の感想に勘三郎が答える。かなりの重量なので持ち上げるにも10人掛かり、運ぶには荷車3台で支えないといけない程だという。そして備え付けるのに、土居清良は50人を集めたという事らしい。
「結局、全て鉄製になったのか。疲れたみたいだニャー、勘三郎」
「順慶様の期待に応えようと頑張りました。眠いです」
「寝てもいいぞ。お前に倒れられたら敵わんニャー」
「いえいえ、私の渾身の作品ですから見届けます!」
救龍の作製はかなり困難な作業だった様で、勘三郎は少しゲッソリとなり目の下にはクマまであった。恒興は少し休んで欲しいが、勘三郎は救龍の稼働を見届けるまでは頑張るつもりの様だ。
「しかし水車から離れてるニャー。これでどうやって救龍を回すんだニャ?」
「そこはアレ。清良さんが作ってくれたんだ」
「これは『くらんく』か!考えたニャ!」
「回転式扱き箸にも応用しましたから。」
救龍を使うには動力が必要となる。その動力を大型水車から得るのだが、救龍の備え付け台と大型水車は少し離れている。そこで土居清良はクランクの機構を応用して、動力を救龍に伝える事にしたのだ。以前に清良は回転式扱き箸にクランク機構を応用したので思い付いた訳だ。
救龍の備え付け作業が開始された頃に、いろいろな人々が物珍しそうに見物していた。何をしているんだろうという野次馬である。作業をしている犬山側は池田家の家臣達ばかりで、木曽川の対岸側は地元の農民達という感じだ。池田家の家臣達は手が足りなかったら手伝うという補充人員も兼ねているが。
「これが救龍という物ですか。本当に水が巻き上がるのでしょうか?」
「私も見た事はありませんよ、お義母様」
「何や、けったいな形やな。半信半疑やわぁ」
その家臣達の最前列には順慶が見覚えのある三人が居る。尼装束の人物と横に二人の女性。池田恒興の母親である養徳院桂昌と正室の美代、側室の藤である。
「あの、恒興くん、ご家族の方々が来てますが……」
「うん、救龍の話をしたら見たいってニャー」
「き、緊張ががが」
「気にすんなっての。見てるだけだニャー」
彼女ら三人は恒興から救龍の話を聞いて、興味本位で見に来た様だ。順慶にとっては見知った三人なので少し緊張してきた。順慶は少々上がり性の気がある。
そして対岸側には農民の野次馬達がかなり集まっていた。
「何じゃ何じゃ?何が始まるんじゃ」「よう分からんが、筒井順慶様が何か作ったって」「あの筒井順慶様が!?」「何だろな。でも凄いんだろなー」「そりゃあ、あの筒井順慶様だもんな」
農民達は口々に順慶の名前を挙げている。その事で順慶は益々、緊張してきた。
「あの、恒興くん、対岸に観客の方々が」
「ただの野次馬だニャー。気にすんなって」
まあ、今更緊張したところで何もない。救龍は完成して取り付けられた。既に救龍に蓋も被せられた。あとは動かして結果を見るだけなのだから。
作業の終了を見届けた恒興は大きな声で宣言する。
「よし、始めるニャー!動力を繋げ!」
「はっ!」
恒興の号令で水車から救龍へ動力が繋がれる。その瞬間、救龍は最初にギャリギャリギャリと激しい音を出した。おそらく救龍と木枠が擦れ合っていると思われる。流石に救龍と木枠が完全に合う様には造れなかった訳だ。ここらは次の改善点になる。
幾らか激しい音を立てていたが、次第にゴゴゴと鈍い音に変わる。木枠の合わない部分が削れた様だ。しかし、救龍からは未だに何も出て来ない。その状況に順慶は合掌して祈る。
「水は来るか?来てくれー!」
その様子に恒興は救龍の開口部を覗き込む。流石に救龍の動力部分に巻き込まれない様に気をつけてはいる。
「ホントに水が出るのかニャー?やっぱり失敗か?」
「殿、あまり近付くと危ないですよ」
恒興が覗き込んでいると、突然ドバっと冷たい何かがぶつかって来た。何かが出て来るなど予想していなかった恒興はまともに当たってしまった。
「ぶはっ!?ニャんだ、コレーっ!?水が、水が噴き出して来たーっ!!?」
水にぶつかって尻もちをついた恒興を他所に水は柱となり噴き上がった。恒興はびっくり仰天、目の前の水柱は次第に重力に負けて、凄い勢いで水路に流れて行く。それを見て順慶は握り拳を上げて喜んだ。
「やった!ぃよっしゃー!」
「これが救龍!素晴らしい!」
「流石は順慶様です!これは凄い!用水路にどんどん水が入ってますよ!これなら、この水量なら!」
大谷休伯も土居清良も救龍から出て来る水量に感動している。以前は用水路に水溜まりしか作れなかったが、救龍からの水量はかなり多くて用水路を満たし奥へと流れ出している。
「えええー!?コレ、どうなってるのー、お姉ちゃん!?」
「そんなの私に聞かれてもー!?」
順慶の傍に居た乃恵と乃々も驚愕のあまり、二人で騒いでいる。まあ、こちらが正常な反応かも知れない。それを証明する様に、対岸に居る野次馬農民達も騒ぎ始めた。
「何じゃあれ……」「間欠泉ってヤツか?」「いやいや、木曽川に間欠泉なんかあるかい」「どうなってんだ……」「筒井順慶様は天変地異でも起こせるんか?」「ひいぃぃ、恐ろしや恐ろしや」「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!」
土手から噴き上がる水柱に、対岸から見ていた野次馬農民達も大騒ぎだ。大声で騒ぎ出す者、呆然と見ている者、何故か両手を合わせて拝み出す者など、反応は様々だ。
遠くから眺めていた養徳院桂昌、美代、藤も噴き上がる水柱に唖然としていた。
「う、嘘やろ……。こんな事がある訳あらへん。水が昇るなんて……」
「で、でも、実際に水が……」
「何と言う事でしょう。言葉が見つかりません」
噴き上がる水柱を見て、養徳院と美代と藤は戦慄している。目の前で有り得ない事が起こって、大した感想も出て来ない。
「物凄い事ですから仕方がありませんよ、お義母様」
「目の前で起こっている事は私では理解が及びません」
「うちも何も分からへんです。どう感想を言うていいのか」
「順慶殿の噂は聞いていましたが、これ程とは。それなのに恒興は何故、この場を人払いしていないのですか、もう!」
養徳院は珍しくも非常に焦った表情を見せる。いつも落ち着いた様子しか見せていない為、彼女の豹変に美代も藤も驚く。
(お義母様が焦ってるー!?あ、でもちょっと可愛い)
(暢気な事言うとる場合か!)
養徳院が焦る様子を驚きつつ、美代は可愛いとも思って小声で溢してしまう。真横に居た藤は即座にツッコミを入れた。彼女が焦るなど非常事態が起こっているという意味なのだから。
「凄い偉業だと思いますけど」
「そうですね。私もそう思います。この場に居る全員がそう思っているでしょう。そして他国の大名達も話を聞けばそう思うはずです。理解りますか?これは戦争が起きます。順慶殿一人を巡って」
「えっ!?」
養徳院は厳しい表情で戦争が起こると話す。筒井順慶一人を巡って。
水資源の奪い合いは人類の戦争の中でも上位に来る理由となる。農耕民は農作物から糧を得ている。農業には土地と水が必要となる。故に土地と水は争いの種になり続けている。土地は農地として作り続ければ、ある程度は御しやすいだろう。しかし水はなかなか制御し難い。その為、農業に使い易い水場は流血沙汰も珍しくない。そして日の本の川は暴れ川も多く、水を取り出すのも一苦労どころではない。
しかし順慶が目の前でやった事は日の本屈指の暴れ川『木曽川』から安全に大量の水を取り出して見せたのだ。全国の暴れ川を領地に持つ大名は皆、順慶の技術が欲しいだろう。織田家と交渉して、この技術を得られる大名は別に良い。問題は織田家と交渉していない大名の方だ。
「順慶殿は筒井家当主です。筒井家が順慶殿を返せと言えば、信長様は拒否が出来ません」
「え?でも順慶はんは保護大名の保証やし……」
「保護大名の保証に大名家当主が来ている事自体が既に異例の事態です。保証など当主の一族の誰かで本来は十分なのです。だから筒井家が是正を求めれば、順慶殿を帰さねばなりません」
「……」
問題の一つは順慶の処遇。保護大名の保証として大名家当主がなるというのは例が無い訳ではない。しかし、その場合は当主が幼年で政治能力が皆無とか、家臣の謀反で命の危険があるとか、特殊な事情がある。しかし順慶は当て嵌まらないので、筒井家が代わりの保証を用意したら、織田家は彼を帰さねばならない。
「そうなれば筒井家はもう手綱の外れた馬。他の大名も順慶殿と関係を持とうとするでしょう。そして織田家による筒井家保護は不当と言い出し、戦争の口実となります。織田家に代わり筒井家を保護し順慶殿を利用したいという欲望ですが。下手を打てば、織田家は周りの大名全てから一斉攻撃を受けます。救いは順慶殿が帰りたがらない事だけですね」
「そ、そんなぁ。どうしましょう……」
筒井順慶が戻ったなら周りの大名が放ってはおかない。一番簡単な方法は嫁を出して親族になる事だ。そうすれば親族となった大名は織田家による筒井家の保護大名化は不当と主張し解放の為の行動をするだろう。その中には戦争という手段も含まれる。そして他の大名家とも同盟しながら織田家の領地の切り取り談合しながら一斉攻撃も有り得る。最悪の場合ではあるが、可能性が出て来た訳だ。
これが養徳院が考える最悪のシナリオだ。唯一の救いは順慶自身がまったく帰りたがらない、という一点のみとなる。
「政治に関わらないなどと、眠たい事は言って居られません。手遅れになれば、織田家の存亡に関わります。私が上洛して信長様とお会いし、即座に対策を打って貰います」
養徳院は覚悟を決めた。彼女自身が織田信長と会い、即座に対策を打って貰うと言う。何処に隙が有るのか、彼女にはハッキリと理解っている。それをチマチマと手紙で伝えている暇は無い。政治には関わる気が無い彼女だったが、流石に織田家存亡が掛かっているとなれば、我儘を言っている場合ではないと判断したのだ。
「お義母様が!?」
「我が子の不始末です。親である私にも責任が有りますから。申し訳ありませんが、美代と藤は池田邸をお願いしますね」
「「は、はい」」
水が噴き上がって喜ぶ恒興達を他所に、養徳院は静かに戻って行った。養徳院は武家の女性で幼い恒興の代わりに池田家を率いていた事もある。戦場に出る事は無かったが、馬術は一通り修めている。久し振りに馬で京の都まで駆け通すかと考えている。それくらい直ぐに織田信長に会わなければと。
美代と藤は返事をして養徳院を見送った。
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次の日。
恒興は池田家政務所に顔を出した。そこには難しい顔をした土居清良が何かを考え込んでいた。救龍が完成して懸案だった小牧の開発が進む。その事でやる事が多くなって悩んでいるのかと、恒興は思い清良に話し掛ける。
「どうしたニャー、清良?悩みか?」
「あ、殿。実はですね……」
「ニャんだ?」
「救龍が壊れました。原因は『くらんく』が木製で耐えられなかった様です」
「えぇ……、マジかニャー……」
ようやく完成した救龍は一晩で停止した。原因は救龍に動力を伝えるクランクが木製だった為に破損した事だ。救龍とクランクを繋いでいる場所は水が噴き出す場所でもある。その為、水がぶつかる力と水車の力でクランクは一晩しか耐えられなかった様だ。なので清良はクランクも鉄製にしようと考えていた。あと、水の出口を別方向に作る事も考えている。
救龍もろ過器も素晴らしい物だが、実用には改良が必要なんだなと恒興は溜め息をついた。
次回は恒興くん、信長さんに怒られる。そして順慶くんにロリ嫁が!?ですニャー。
恒「順慶のヤツ、知識無双し過ぎニャー」
べ「うん、べくのすけも食傷気味だからスクリューの話は出すか迷ってた。書いててつまんないなーとか思ってた」
恒「ならニャんで出したのか」
べ「順慶くんをもう一回、突き落とすか考えたけど、それより限界突破させる事にしたよ」
恒「何故ニャ?」
べ「順慶くんには評価を爆上げして諸大名の戦争の理由にする。つまり彼にはスーパーマ◯オのビ◯チ姫になって貰うw諸大名がク◯パだね」
恒「ニャーがマ◯オか?」
べ「マ◯オは信長さんじゃない?恒興くんは姫を毎回守れないキ◯ピオ?」
恒「うおい」
べ「そろそろ上杉家や北条家を織田家にけしかけたいんだよね。で、戦争の理由に順慶くん確保を加えようと考えた訳」
恒「ただの人攫いじゃねーギャ!」
べ「上杉家や北条家をけしかけるにしてもラスボスさんに唆されたじゃ理由が弱いからね。領地を大発展させられる順慶くんが欲しい、は理由の補強になるかなと。ついでに噂話程度に犬山を大都市に育ったのは順慶くんのおかげ、くらいの認識が諸大名に広まるとか。「何故、犬山は発展したのか?そうか!筒井順慶が居るからか!」てな感じで」
恒「本人にチート武力が無いからそうなるのか。景品扱いとは不憫だニャー」
べ「戦国時代だからね、ここは」