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戦国異聞 池田さん  作者: べくのすけ
一時の平穏編
206/239

水車で水を汲み上げるって効率悪くね? 前編

 勘三郎の工房を出た順慶一行は木曽川沿いを上流へ歩いて行く。案内する勘三郎を先頭に後ろに順慶、その後ろに乃恵と乃々が続く。


「大型水車ってどれくらい大きいのかしら」


「楽しみだね、お姉ちゃん」


 順慶の後ろを歩く乃恵と乃々は大型水車を楽しみにしている様で、順慶は安心した。屋敷から連れ出した手前、つまらなかったら申し訳ないと思ったからだ。しかし二人はそんな事はない様だ。

 乃恵は純粋に見た事もない大きな水車に期待してワクワクしている感じだ。彼女が居た村にも水車はあった。ドングリなどの木の実を粉状に摺り潰すための水車だ。しかしあの(・・)池田恒興が造った水車だ。とても大きいのだろうと期待している。

 だが、乃々の方は違う。彼女は単純に順慶が自分達を連れ出してくれた事が嬉しい。それは順慶が自分達の事を気に掛けており、邪険にされていない証明だからだ。行く先は何処でも良いのだ。

 よって姉妹はとても笑顔である。理由は全然違うのだが。

 一行が暫く歩いていると前方に丸い車輪を備え付けた櫓の様な建造物が現れる。櫓の大きさは6m弱、順慶の身長の3倍程だ。そして側面に備え付けられた車輪は櫓のある高台から木曽川の水面まで届いており、櫓の倍の直径がある様に見える。かなりの大きさで、順慶は現代にあった遊園地の大観覧車を思い出した。まあ、それよりは小型になってしまうが。巨大建造物など城以外は無いのでなかなかに見映えしている。


「おー、アレが大型水車か。なかなか絶景かなー」


「ふあー、もの凄く大きいですね」


 何も無い台地に突如突き出した車輪付きの尖塔。順慶は額に手をかざして水車を見る。この風景も絵にしようかとも考える。乃恵はあまりにも大きな水車に驚いている。あれでどんな木の実を潰すのだろうかと、想像もつかない。因みに木の実も穀物も潰していないのだが。


「あんな大きいの、何の為に造ったの?」


「あの水車は木曽川から水を汲み上げて小牧方面に流す為に造ったんだよ」


 乃々の疑問に勘三郎が答える。あの水車は木曽川から水を汲み上げる為の物だ。木曽川の流れで水車を回しながら水を水車の桶に収納する。その桶は水車が270度回転した時に口を開き水を出す。その水が落ちる下部には櫓から水の受け止め口があり、水は受け止め口から内陸へと流れていく。そして桶は一回転してまた水を入れる仕組みとなる。これを連続して行っている様だ。


「水を汲み上げる?そのまま川から水を引けば良くね?」


「相手は木曽川ですからね。下手に口を開けると水害が発生しますよ」


「うへえ、それはヤバい」


 順慶は何でこんな面倒な事をしているのか疑問に思う。水が必要なら木曽川に支流を造れば良いのではと考える。それに対して勘三郎は危ない意見だと答える。そもそも木曽川は暴れ川だ。一度、雨が続けば大水害を引き起こす。だから不用意に取水口を開けられないのだ。順慶でも洪水の恐ろしさは知っているので自分の考えを引っ込めた。

 歩きながら話をして水車に向かう一行。するとその水車櫓の下に見物している人物が居る事に気付き、乃恵は声を挙げる。


「順慶様、櫓の所に人が居ますよ」


「あれは、お殿様と清良様と、知らない人なの」


「あのちょんまげヘアーは大谷休伯さんだな」


「大谷殿は小牧開発の責任者ですから」


 見えた人物は池田恒興と土居清良、そして知らない人だと乃々は言う。知らない人物は特徴的な髪形をしており、順慶は彼が大谷休伯だと確認した。順慶は犬山へ来た時に休伯と会っているが、乃恵や乃々は会った事は無かった様だ。名前自体は知っているが。

 順慶一行が水車に近付くと、櫓の下に居た者達も彼等に気付く。そして恒興が真っ先に順慶に近付いて来る。


「順慶、こんな所でニャにをしてるんだ」


「水車見物だけど」


「また暇な事だニャー。て言うか、お前。護衛は何処だニャ?」


 恒興は順慶が連れている人物を確認する。鍛冶師の勘三郎、使用人の乃恵と乃々。これだけしか居ない。恒興は護衛は何処だと尋ねる。順慶の護衛は最優先にしろと、恒興は池田家親衛隊や刺青隊に通達している。


「あ、えっと、はぐれてさ!」


「嘘を吐くニャ!後ろの娘二人がはぐれてないだろうが!」


 順慶ははぐれたと言うが、屋敷から付いて来ている筈の乃恵と乃々ははぐれていない。順慶の護衛に対象とはぐれる様な愚か者が付く筈もない。ならば答えは順慶が護衛を頼まずに出て来た、一択だ。

 順慶は護衛を付けずに出掛ける常習犯だ。少し出掛けるだけ、ちょっとそこまでだから、と護衛を依頼せず出掛けるのだ。この男は自分がどんな身分で、ケガ一つすれば恒興の責任問題になる事を理解っていないし、気にもしていない。恒興にとってはかなり頭が痛い問題だ。もう護衛を順慶屋敷に住まわせようかと考える程だ。拒否され続けているが。

 まあ、来てしまったものはしょうがない。恒興は水車見物を終えた後で連れて帰ろうと考える。


「ねえ、恒興君。この水はどうなるの?」


「この水は小牧開発の為に使うんだ。水田を維持出来るくらいの水路を造って水で満たすんだニャー」


 恒興と順慶、二人は水車の桶から落ちて来る水を眺めている。桶からダバッと水が出て、櫓から延びる水受けに落ち流れて、二人の前を過ぎて行く。


「……この程度の水で?」


「言いたい事は理解るニャ。だからこの水車をあと30基は造る予定だ。ここにある水車は試作型ニャんだよ」


「それで視察してたって事かー」


 桶から落ちて来る水の量はせいぜいバケツ一杯分。しかも落ちた時の跳ね返りで割とロスが発生している。水車の水受けから流れた水は用水路に行く様だが、そんなに流れている様に見えない。水量が少なく水溜まりになっている感じがする。

 それなら桶を大型化するなり水量を上げる必要があるのだが、それだと桶の重量が増し水車が保たない。また落ちる水が大量になると水受けが破壊されかねない。つまり、この程度の水量は妥協の産物であり、水車の数を増やす事で解決するつもりだ。正に恒興流のパワープレイである。


「でもさ、この水車で水を汲み上げるって効率悪くない?」


「効率云々の話じゃニャい。他にどうしろってんだニャー。小牧の農地開拓には大量の水が必要不可欠ニャんだよ」


 バケツ一杯分程度で水田を潤すなんて、どれだけ時間が掛かるんだか、と順慶は思う。順慶は水田を知っている。前世で祖父が水田を運営していたからだ。夏休みになると祖父母の家にお泊りして遊んだり手伝ったりしたものだ、と思い出す。だから理解るのだ。「コレ、効率悪い」と。順慶は水田の全てを知っている訳ではないが、これでは無理だと理解る程度の知識はある。

 その意見に恒興は若干、苛立つ。他に方法があるのかと。何が何でも水は必要で、自分は最善を尽くしていると思っている。それに対して順慶は事も無げに返す。


「いや、だから『スクリュー』で汲み上げた方が早いって」


 全員の「???」といった表情になる。それはそうだろう、『スクリュー』とは何だ?となっているのだ。不思議に感じた休伯は順慶に聞いてみる。


「ふむ、順慶樣、『すくりゅう』とは何ですか?」


「はっ!もしかして順慶様、また大唐の秘術を思い出されましたか!?」


 清良は勘付いた様に声を弾ませる。あのろ過器の時の様に何かを思い付いたのかと。そういえば、ろ過器もこんな何気無い話から突然出て来た。清良は期待の眼差しで順慶に迫る。


「えっと……」


「はい!順慶、お前はちょっとこっち来いニャー!」


「あでででで!?」


 清良の迫力と鼻息の粗さに気圧される順慶。その順慶の耳を恒興は引っ張って櫓の裏に連れて行く。まずは自分が事情を聞きたいからだ。そうしないと、清良がまた変な呪文を唱えて狂いかねない。


「今度はニャんだ?何を思い付いた?」


「だからスクリューだって」


「だからそれはニャんだと聞いてるんだよ!」


 恒興は何を思い付いたのかと順慶に尋ねるが、彼の回答は先程と同じでスクリューだ。いや、だからスクリューとは何だと恒興は声を荒げる。


「えっと鉄の棒にヒレみたいのが螺旋状に付いてて回転するヤツ」


「は?」


「こう!こんな感じ!」


 順慶は言葉でスクリューを説明するが、恒興はまったく理解出来ない。まあ、順慶も言ってて理解されないだろうとは思う。という訳で、順慶はそこら辺にあった木の枝で地面に簡易的な図をガリガリと描く。

 順慶が言っている『スクリュー』とはアルキメディアン・スクリューの事。所謂、『アルキメデスの揚水機』である。文字通り、このスクリューを発明したのは紀元前3世紀頃の大天才発明家アルキメデスだ。しかもこの発明は紀元前にされたにも関わらず、現代でもそのまま使われている。応用の幅も広い。例えばファンの無い扇風機にもそのままアルキメディアン・スクリューが使われている。本体下部から空気を取り入れて、スクリューで勢いよく上に押し出しているのだ。扇風機の羽根もアルキメディアン・スクリューの派生なのだが。あとは船を前に進めるスクリューもそうだ。


「ニャる程。魚のヒレみたいのが鉄の棒に巻き付いてる感じか。で、これが何なんだニャー?」


「これを水に浸けて回すと水が昇るんだよ。スクリューポンプの仕組みなんだ。それで水車でスクリューを回そうって話」


 現代でも使われているスクリューポンプにもアルキメディアン・スクリューがポンプ内に使用されている。水の中にポンプを入れてスクリューが水を巻き上げて送り出す仕組みとなっている。

 アルキメデスが考えた技術は2000年以上経た現代においても使用されている。それも原形をほぼ保ったまま。彼の偉大さが理解る発明だ。


「……ニャんでお前はそんな物を知ってるんだニャー?」


「じいちゃんちにあったから。田んぼに水を入れてるのを夏休みに見てさ。で、じいちゃんが得意気に話してた」


 順慶がアルキメディアン・スクリューを知っている理由。それは彼は現代で祖父から話を聞いていたからだ。順慶の祖父は孫煩悩なところがあり、面倒見の良い人物だった。孫から「じいちゃん凄い」と思われたいのか、いろいろな話をしていた様だ。そして祖父の家は田舎だったが広く、自宅の他に母屋に作業場まであった。そこで日曜大工から耕作機械の整備までやっていた為、かなり知識がある人だった。その祖父が川から少し離れた水田にポンプで水を入れているのを順慶が見て、彼はポンプの仕組みを祖父から解説されたという。


「ふーむ、形や仕組みは理解しているんだニャ?」


「もちろん」


「よし、それなら戻るニャ」


 とりあえず恒興には理解が及ばないし、想像も出来ない。しかし順慶は形も仕組みも理解している。こうなると考えるのは彼を信じるかどうかだけだ。

 順慶はろ過器を作った。商品化に漕ぎ着けるにはまだまだ掛かるが、考えの正しさと実績を示した。誰もが驚く成果を出した。あとは恒興がそれに投資するかだけが問題となる。

 そして自信有り気に返事をする順慶を恒興は信じる事にした。スクリューが何れ程の水を巻き上げるのか、恒興には想像も出来ない。しかしこれから造る水車の数が減ってくれれば、それだけでも儲け物だ。恒興は順慶に全力投資を決めて皆の所に戻る。


「殿!それで順慶様の話はどうでしたか!?また凄い大唐の技術ですか!?」


「清良、お前はまず落ち着けニャー。ま、そうなんだが」


 まずは清良が興奮冷めやらぬ感じで駆け寄る。また変な呪文を唱えないか不安になる程だ。


「おお、順慶様の知識が披露されるのですな。ろ過器といい、素晴らしい」


「大谷さんに期待されると照れるなー」


 休伯も期待を示す。順慶が作ったろ過器の話は有名なので、彼も楽しみにしている。あの訳の分からない発言をしていた少年が、誰もを驚かす発明をする。人とは分からないものだと休伯は痛感する。そして人はよく話し、よく観察すべきと強く思う程だ。


「ニャーも全てを理解した訳ではないが、ヒレを付けた鉄の棒を回す事で水を汲み上げる物らしい」


「「「???」」」


「ま、訳が分からんだろうニャ。ニャーも言ってて半信半疑だ。しかし、これを『救龍(すくりゅう)』と呼ぶとの事だ」


 恒興は順慶から聞いたスクリューの形状をそのまま伝えるが、誰一人として理解出来る者はいない。全員の頭の上に「?」が浮かんでいる様な表情だ。まあ、そうだろうなと恒興も思う。自分も理解出来ないからだ。

 形状は順慶が知っているので良しとする。彼が指導して造ればいいのだ。恒興はスクリューに当て字をして『救龍(すくりゅう)』とした。


「救龍……。形状から龍であり、水を汲み上げる様から人々を救う龍という訳ですな。成る程成る程、龍は水の神ですからな」


 救龍と聞いた休伯は得心した。龍は雨を齎す水の神、人々に水を齎して救う。だから救龍なのだと。

 一方で水は人々を苦しめる事もある。だから日の本人が信じる神とは二面性を持っている。人を救う面と人を苦しめる面。神は神の都合で動いているだけで、人間の自由にはならないのだと。この辺も日本と欧米の考え方の差になっているのかも知れない。欧米では神とはただ人々を救ってくれる存在だからだ。悪い事は全て悪魔のせいになる。


「あとは実物さえあれば、ですね」


「勘三郎、ろ過器の試作の進捗はどうだニャ?」


「完成度は8割でしょうか。あとは材料の調整などが残ってますが」


 恒興にろ過器の事を尋ねられた勘三郎は完成度は8割だと答える。まだ紙の問題などの調整的な箇所が残っている。しかし大まかには完成したと言っても良い。


「分かったニャ。大まかに出来ているなら、他の工房に回せ。お前は順慶の指示通りに救龍を造り上げろ」


「よろしいので?」


「ああ、今年は旱魃の話を聞かないから時間は有るニャ。しかし小牧の水問題は急務だニャー」


「分かりました」


 恒興は勘三郎に救龍の製造を申し付ける。完成が近いろ過器は他の工房に回して、彼には順慶の注文通りの品物を造らせる。順慶の話だと救龍は鉄製になる。ならば犬山で一番腕が良い鍛冶師に当たらせる必要があると恒興は考える。また、順慶も勘三郎なら話しやすいと思う。順慶の意見が十全に取り入れられないのでは意味が無いという事だ。だから救龍製造には勘三郎が適任となる訳だ。


「休伯は水車を改造して救龍を回す動力として使える様にしろ。この高台を改造して救龍を備え付けれる様にするんだニャー。清良は人足を確保して休伯を手伝え」


「順慶様がどの様な物を作るのか見なければなりませんな」


「人足の方はお任せ下さい」


 大谷休伯には水車の改造と救龍の設置場所の造成だ。救龍は動力を必要とするので、水車の動力を利用する。水車の桶を外して回す為の板に変えるだけではあるが。また、救龍を木曽川に届く様に設置する土台が必要となる。このあたりは順慶と相談して造る必要がある。土居清良はそれらに掛かる人員の確保と休伯の手伝いを申し付ける。


「……何か大事になってきた。ホントに出来るかなー……」


「順慶、変に気負うニャよ。出来ないならそれでも良いんだ。そんときゃ予定通りに水車を30基造るだけだニャ」


 たくさんの人が動く事になり、順慶は少し自信無さ気になる。ろ過器はミニチュアを作った経験から出来ると自信があったが、アルキメディアン・スクリューは完全に伝聞だ。本当に出来るのか、自信が無くなってきた訳だ。

 それに対して恒興は順慶に気負うなと励ます。出来ないなら予定通りに水車を30基造るだけだと。というか、小牧の開発の為に恒興は必要水量を確保出来るまで造る覚悟だ。そこに順慶の成否は関係無いのだから。


「だよねー。よし!気が楽になったよ。勘三郎さん、よろしくね」


「順慶様、ご指導ご鞭撻をよろしくお願いします!」


 恒興の言葉で気を楽にした順慶は勘三郎に笑い掛ける。勘三郎も笑顔で応え、順慶の注文通りの救龍を造ってみせると気持ちを引き締めた。

そろそろ日常回が終わり、戦いの回に入りますので話の部品を作らないとニャーと考えております。ちょっと時間が掛かるかも。

次回は後編で養徳院さんが順慶くんの成果に慌てふためきますニャー。水が巻き上がる、戦国時代の人々には天変地異にしか見えませんからニャー。


宗珊塾の回で「弁当を使う」という表現を使いましたニャー。これには理由があり、現代は「お弁当を食べる」で問題ありませんニャー。弁当は織田信長さんが語源と言われています。「配当を弁ずる」という言葉から来た様ですニャー。平安時代以前は干し飯、鎌倉時代くらいは屯食、戦国時代は腰兵糧という名前でしたニャー。これらは『戦場飯』であり、『軍事物資』に入ります。なので「使う」と表現しましたニャー。

有名なエピソードがあります。『宰相殿の空弁当』と言いますニャー。関ヶ原の戦いの時に毛利軍を率いていたのは毛利秀元さんです。総大将の毛利輝元さんが大阪に残ったからですニャー。しかし毛利軍の実権は吉川広家さんが握っておりました。この吉川広家さんが徳川家康さんと交渉していました。何しろ、吉川広家さんは反豊臣で石田三成さんが大嫌いだからです。

まあ、だいたい豊臣秀吉さんのやらかしです。広家さんは子供の頃に小早川秀包さんと一緒に秀吉さんの人質に送られました。しかし、秀吉さんは秀包さんは毛利元就さんの息子だから人質として価値が有る。だから広家さんは要らんと実家に帰したのです。人質を求めておきながら、要らんからと帰す。これは吉川家が憤慨するくらいの屈辱でした。人質交渉に当たった黒田官兵衛さんも吉川元春さんに平謝りしたそうです。秀吉さんは「必要無いのに人質とか可哀想じゃね?」と考えたのかも知れませんが、武家にとっては「お前の家は必要無いよ」と言われているに等しい訳です。

そして決定的なのが『蔚山城の戦い』ですニャー。この時、明・朝鮮連合軍に包囲された加藤清正さんを救う為に吉川広家さんと小早川秀秋さんが突撃し、敵を撃退した事です。味方を救い敵を撃退する。普通に考えても英雄的大戦果ですニャー。しかし、この頃の秀吉さんは愛息子の秀頼さんの対抗馬になりそうな人物を排除する動きをしていました。この大戦果を石田三成さんの妹婿で軍目付の福原長堯さんから報告された時、秀吉さんは「大将が敵陣に突撃するとか阿呆の極み!即刻、呼び戻して罰してやる!」と怒り、帰国させて移減封に処しました。これには居並ぶ諸大名は「???」でしたし、遠征組の武将達は狐につままれ様に面食らいましたニャー。特に命を救われた加藤清正さんは激怒しました。しかし誰も秀吉さんを批判出来ない世の中でしたし、清正さんは秀吉さんを敬愛しています。だからその怒りは「石田三成の謀略に違いない!」となりました。報告したのが石田三成さんの妹婿で軍目付の福原長堯さんだったからという理由みたいです。そして小早川秀秋さんと突撃して大戦果を挙げた吉川広家さんの武功は……無かった事になりました。秀秋さんを罰して広家さんを褒める訳には行かないからですニャー。こんな理不尽な目に遭わされた二人を慰めたのが徳川家康さんや加藤清正さん、黒田長政さんなどの豊臣武断派だったそうです。二人もまた、石田三成さんの謀略を信じる様になっていきます。

そして吉川広家さんには更に決定的な事件が起こります。豊臣秀吉さんの死去です。この時、養子の人には秀吉さんの遺品を受け取る『形見分け』の権利が有ります。しかし吉川広家さんには形見分けが無かったのです。一時的とはいえ、彼も秀吉さんの養子でした。広家さんは即座に抗議、形見分けを担当していた石田三成さんは謝罪し彼に形見分けを行いました。しかし、これで広家さんは確信しました。「コイツは私の事を舐めている!これまでの理不尽は全てコイツの仕業だったんだ!」こうして広家さんは徳川家康さんに急接近していきます。武士の武功を無視するとこういう事が起こるという例ですニャー。

そして関ヶ原の戦いで吉川広家さんと小早川秀秋さんは徳川軍有利の行動を『最初』からしています。まず小早川軍が陣取った松尾山は石田三成さんの本拠地である佐和山城を狙える位置に在り、戦線が大垣から関ヶ原に後退したのはこのせいですニャー。西軍は大垣城主を追い出してまで迎撃準備していたのに、何も準備してない関ヶ原までの後退を余儀なくされたのです。そして広家さんは毛利軍が先鋒という約束を西軍で取り付けた上で動きませんでした。長宗我部さんや長束さんから早く攻撃する様に言われても「まだ機じゃない」と言い、毛利軍を無視して攻撃を始めると言われれば「毛利軍は西軍先鋒だ。それを無視するなら後ろから攻撃してやるからな!」と怒りました。

吉川広家さんでは話にならないので、諸将は毛利軍大将である毛利秀元さんの所に押しかけました。毛利秀元さんは毛利輝元さんの養子で嫡子。官位は『参議』、唐名は宰相と呼ばれます。板挟みの状況になった秀元さんは苦し紛れに「今、兵士達に弁当を使わせているから!もう少し待ってくれ!」と言いました。この言い訳に諸将は呆れ毛利軍後方に居た長宗我部家、長束家、鍋島家などの軍団は戦場から離脱してしまいました。これが『宰相殿の空弁当』です。この話からこの小説では「弁当を使う」という表現を採用してますニャー。

うーん、三成さんは悪い人ではないと思いますが、間が悪いと言うか、何と言いますかニャー。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うちの実家が農業をやってた頃、納屋の壁際に使われなくなった唐蓑が放置されていて、それを子供の頃にハンドルをぐるぐる回して遊んだ記憶がある。順慶くんの祖父の家にも使われなくなった唐蓑が置…
[良い点] 大唐の秘術(ガチ)な今回の技術。火薬しかり活版印刷技術しかり羅針盤しかり明には届いてるけど日本には届いていない。やはり、辺境の島国には技術持った技士は流れ着くか奪わないと来ないんだなあ(涙…
[一言] 順慶君 この揚水機ってもう少し理屈を何で?って掘り下げて自分の知識って所まで持っていけていれば日本では難しいけど干拓とかのレベル迄持っていける技術なんだぞ むしろ完全に理解した誰かが治水技術…
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