アメリカ認知症介護の実態
急速に少子高齢化が進む日本同様、ここアメリカでも認知症高齢者の増加は
深刻な問題になっている。日米比較しながら認知症介護の実態を調べていく
と、介護保険制度の確立している日本と比べこの国が遥かに後進国である
ことを実感させられる。
アメリカの認知症高齢者の7割が家族やボランティアによる『在宅介護』を
受けている。この数字だけを見ると、在宅ケアに対して国から手厚い援助が
あると思われるかもしれないが、そうではなく『施設介護』があまりにも
高額過ぎて他に選択肢がないというのが現状。
母が加入している公的老人医療保険メディケアは、介護保険が導入される
以前の日本の国民健康保険に相当し(入院を含む医療費の二割が自己負担)
基本的に介護に関する費用への給付(車椅子やベッドなどの介護用品を除く)
は一切ない。民間の介護保険もあるにはあるが月額が半端ない。住宅ローン
や子供の教育費に追われる40代50代で、生命保険の掛け金の3倍以上も
かかる保険に加入できる余裕のある世帯は皆無に等しいと思う。
現在、母が支払っているメディケアの月額は532ドル、2割の自己負担分
を補う民間の保険料が120ドルと、保険料だけで月に※①6万5千円も
かかる。その上、デイサービスやホームへルパーなどの利用は全額自己負担
で料金も日本に比べてかなり高い。
※②デイプログラム(デイサービス)1日$60~$150
ホームヘルパー(家政婦・介護士)1時間$18~$20
グループホーム(高齢者5~6人の一軒家)月額$4500~
ナーシングホーム(特別養護老人ホーム)月額$6500~
*期間・条件下ではメディケアの給付あり)
終身介護ホーム(有料老人ホーム)$$$$$
という具合に特養でもホテル並み、有料老人ホームに至っては入居費5千万
月額30万円以上、もしくは入居費0円月額100万円以上が必要で、庶民
にとっては高嶺の花。しかも超豪華というわけではなくパンフで見る限り
日本の温泉付き有料老人ホームとさして変わりはない。
因みに、各州政府の管轄下にある低所得者のためのメディケイドと呼ばれる
老人医療保険は、保険料もなく上記のサービスをほとんど無料で受けること
ができる。要するに富裕層と貧困層に挟まれた中間層が最も苦労を強いられ
るシステムで、我々ミドルクラスは『在宅介護』に頼らざるを得ないのが
実情である。
個人主義のアメリカでは例え長男であっても親と同居することはほとんど
ない。私が結婚した当時、日本の友人たちから嫁姑の苦労がなくていいね、
とよく言われたものだ。だが最近は周りを見渡すと高齢になった親を看る
娘や息子が増えてきたように思う。日本と違うところは、お嫁さんが舅姑
を看るケースは稀で息子が両親の世話をしているのが目立つ。その辺りは
実にアメリカ人らしいw
幸い専業主婦の私には時間はたっぷりある。
夫は三男坊で実家はイーストコーストにある。義姉夫婦と暮らす92歳の
義父はインターネットも操る元気なスーパー老人で、今のところ認知症の
兆候は全くない。義母はすでに他界している。その所為もあって夫は母の
状態に理解を示し私よりもずっと優しく接してくれる。
離れて暮らしている二人の子供も精神面で何かと支えになってくれている。
長女は彼女自身二人の子供の子育て真っ最中ということもあり、メールや
電話で毎日のように話しお互いのストレスを発散している。息子や夫には
話したくないような愚痴を辛抱強く聞いてくれる、私のカウンセラー的な
存在でもある。
こうして家族の理解と協力のもと比較的恵まれた環境の中で『在宅介護』
を続けているが、限界は必ず来ることも覚悟している。
ファイナルステージに入り家族の手に負えなくなると日本と同様、ここ
でも『施設介護』のお世話になるしかない。ただ、上にも書いたように
高額過ぎて、本人・家族に強いられる経済的負担は相当なものになる。
とにかく一日でも長く『在宅介護』の状態を維持し、最後はPPKで
天寿を全うしてくれることを願うしかない!
※①$1=¥100
※②2009Alzheimer's Desease Fact and figures参照