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診断

年が明け一段落した後、母を連れ主治医を訪ねた。

2011年の新春———


移住以来ずっとお世話になっているK先生は日本の医大を卒業、40代で

渡米し開業された糖尿病の専門医。この温厚な先生、母をして『若い頃は

相当女性にモテたでしょうねぇ』と言わしめるだけあって、すでに70代

後半ながらなかなかのイケメン。そこはかとなく気品が漂い白衣の似合う、

いかにも昔の日本のお医者さんという感じがする。


いくつかの検査の結果、アルツハイマー型認知症と診断が下った。

覚悟はしていたものの医師からはっきり"病名" を告げられると、やはり

ショックなものだ。アルツハイマーという言葉の響きに昭和脳の私は、即

排泄物を壁に塗りたくる "恍惚の人" を思い浮かべてしまい、絶望的な

気持ちになった。

私の顔色を見て取ったのか、80歳以上の高齢で発症した場合、癌と同様

進行が遅くファイナルステージに到着するのは寿命との競争みたいなもの

というようなことを先生は仰った。要するに完全にボケるのが早いか天寿

を全うするのが早いか、ということか・・・


昔から呼び名は違えど認知症は存在した。

ただ、単なる耄碌もうろくからファイナルステージを迎えるまで長生きする老人は

今と比べると格段に少なかったように思う。

私の父方・母方の祖父母は皆60代後半から70代前半で亡くなっている。

とにかく今のお年寄りは元気だ。実年齢より10才は若く見える。これは

どの世代にも共通して言えることではあるけれど・・・


確かに医学の進歩は人類に多大な恩恵をもたらしてくれた。が、その反面、

自然界の摂理として淘汰されるべき命までも悪戯に長らえさせた。

結果、『認知症800万人時代』といわれる現実がある。

心身ともに健康であってこそ長寿はメデタイのであって、自分や家族が

誰なのか判からなくなった老人に胃瘻いろうやチューブに繋げてまで生かして

おくことに意味があるのだろうか? 

認知症の親を看る娘や息子、老老介護で疲れ果てた妻や夫の無理心中の

ような痛ましいニュースを目にする度に、とても他人事とは思えなくなる。


だが診断が確定した以上、悲観ばかりしているわけにはいかない、受け

入れるしかない、と腹をくくった。

この病に有効な治療法はない。処方されたアリセプトは現状をできるだけ

長く維持するための薬で、その効果にも個人差がある。

要するに健康維持のサプリメントとなんら変わらないような代物。そこで、

母が "恍惚の人" 化する前に無事天寿を全うできるよう、なんとか進行

を遅らせる方法はないものかと、インターネットを駆使し認知症介護に

関する書物や体験談、ブログ、2ちゃんねるに至るまで読み漁った。

その中で、認知症の父親を介護する人が記した、この一文に巡り合う。

 

 ——『こんな事も出来なくなった』とネガティブになるのではなく、

   『まだこんな事もできる』とポジティブに思考を変換することで、

    ずいぶん前向きになれた——


確かにそう考えると気持ちが少し軽くになるような気がした。

二人の子供にはあまり手がかからなかった。育児書も開いたことのない

ような手抜きの子育てにもかかわらず、病気一つせず元気に成長して

くれた。若い時に楽した分、もしかしたらそのツケが回ってきたのかも

しれない・・・

よっし、こうなったら "幼児帰り" していくであろう母親の世話を介護

ではなく、第二の子育てとして捉えよう!


(この時はまだ『ピーチのようなプニョプニョした赤ちゃんの可愛いお尻』

と『年季が入りセピア色に変色したシワシワのお尻』の差を全く実感して

いなかったw)



こうして通常とは真逆のプロセス(子供⇒幼児⇒赤子)を辿る、なん

とも前途多難な、私の『子育てパートⅡ』が始まる。





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