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虎から子羊に・・・

2015年以降の母はすっかりおとなしく扱い易い子供、言い換えれば

意思も感情も表さない従順な老人に変貌した。


介護者の立場からすれば反抗されたり拒否されたり自己主張の強い認知症の

患者を相手にするよりずっと楽だが、何を聞いても的確な応えは返ってこず、

以前のような母娘の会話はほとんど成立しない。

私が一方的に話しかけ、すべてをしきるようになった。


「何が食べたい?」→ 「???」

「新米は美味しいでしょ?」→「・・・」

「松茸が出始めたよ」→「マ、ツタケ?」


食道楽の母は、毎年秋になると日本の店に入荷するカリフォルニア産の

コシヒカリの新米と、北米やメキシコ産の松茸を心待ちにしていた。

大量に買い込んでは松茸ご飯や昆布煮を作り、シニアの会のメンバーに

配っていた。そんな人が松茸と椎茸の区別もつかなくなり、食に対して

興味を示さなくなった。


毎食出される物は気に入ればすぐに完食、気に入らなければな全く手を

付けずに何時間も放置する。それをダメ出しするとティッシュにくるみ

屑かごにポイ捨てするようになった。

最初のうちは、せっかく栄養のバランスを考えて作っているのに、と

ブチ切れすることもあった。

だが母は全く意に介さず『なにがいけないの?なんでそんなにカッカして

いるの?』とでも言うように不思議そうに娘の顔を眺める。

そのうち目くじら立てて捲し立てる自分のほうが駄々っ子のように思え

虚しくなる。

自分で食べられるうちが花、栄養面より好物、できるだけ母の好きな

メニューを並べることにした。例え同じ夕食が二日続いたとしても、

『まあ、これ久しぶりね』と嬉しそうな母の顔を見ていると複雑な気持ち

にはなるが・・・


以前のように何も分からなくなって混乱したり、感情を露わにすることが

ほとんどなくなった。おそらく、まだらボケ状態のボケている部分が

大半を占めるようになったのだろう。

顔つきが柔和になり角が取れて丸くなったみたいに穏やかになった。

娘曰く「おばあちゃん、仏の境地に近づいたのかもしれないね」

確かに、全てを超越し別の世界にいるんじゃないかと思う時がある。

それでもたまーに昔の勝ち気な人格が現れることもあるがw


その頃からとにかくよく眠るようになる。

宵っ張りで12時まで起きていた人が10時には就寝。昼間もウトウト

することが増えた。夜中のトイレもなくなり朝まで熟睡。夜用のパッドは

何回分?というようにずっしり重くなり、時にはお漏らしもあるが、夜中

に起こされることもトイレを詰まらせ大洪水になることもなくなった。


今では起床から就寝までの母の全てのルティ―ンが私の管理下にあるため、

問題行動とその後始末がなくなり随分と楽になった。

その反面、何事にも反応が薄くなり着実に赤ん坊に戻っていく母の姿を

見ていると、声を荒げて親子喧嘩をしていたころがふと、懐かしくなった

りもする。


人間とはどこまでも勝手な生き物だ・・・






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