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車椅子

前回お話ししたように自分の名前が書けなくなった母は、それに比例する

ように体力・運動機能のほうも次第に衰えを見せるようになった。


それまではショッピングが大好き人間でよく出かけたが、ちょっとした外出

でもとても疲れやすくなった。動作や歩行がスローになり、とにかく時間が

かかる。こちらのスーパーやモールは日本に比べ店内も駐車場もだだっ広く、

店の入り口付近に車が停められない場合は歩く距離が半端ない。

トイレに行くにもたどり着く前に間に合わず、外出時には尿漏れパッドと

リハビリパンツの併用が必須となった。


そこで、思い切って車椅子の導入を提案してみた。

車椅子といっても移動用の軽量・折り畳み式で、車のトランクの中にすっぽり

収まるタイプの物である。

以前バランス感覚が悪くなり足元が危なくなったので杖の使用を促した時、

「こんな年寄りくさいものはイヤ!」と駄々をこね、なかなか承諾してくれ

なかった経緯があり、どんな反応が返ってくるのか心配した。が、予想に反し

今回は「楽でいいかもね…」とすんなり受け入れてくれた。

それだけ身体が弱っていたのかもしれない。


この車椅子導入は母だけでなく私もとても重宝した。

とりわけ食料品の買い出しなどショッピングにはマストアイテムとなった。

最初のうちは駐車場から店の入り口までの往復のみ。店内では母が車椅子を

押し座席に置いたバスケットの中に自分の好きなものを入れる。

平行して私はカートを押し食品を投入していく。帰りは車椅子のハンドル

にいくつものレジ袋をバランスよくぶら下げ、母の膝の上にも別の荷物を

乗せ駐車場まで―― といった具合に・・・


この一連の行動、私は30数年前にも全く同じことをしていた。

もちろん押すのは車椅子ではなく、子育て中のお出かけには必需品のベビー

バギー。最近のはデザインも機能性も値段も当時とは比べものにはならない

が、オムツやミルク、予備の着替えの入った大きなバッグを抱えた若いママ

の姿、光景は今も昔も変わらない。

バギーの中で大人しくスヤスヤ眠っている新生児はやがて、何にでも興味を

示しじっと座っていることができない幼児へ、そして歩けるようになると

バギーを卒業し、あっという間にママのお使いが出来る子供にへと成長して

いく・・・


言葉は出なくても「玉ねぎと人参お願い」と頼むとバスケットに投入する

ことができていた母は、やがて「??…」となり、そのうち店内を歩くこと

が辛そうで車椅子にじっと座ったままのことが多くなった。

そして今は買物自体に興味を示さなくなり、限りなく “新生児” の状態に

近づいている。


それでも同年輩の多い『シニアの会』と、お気に入りの主治医K先生の

ところへ行く時だけは車椅子の使用を頑なに拒み続けた。

やはり幾つになっても女の意地とプライド?はいつまでも残るものなの

かな・・・






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