6月の雨
窓の近くにある机に頬杖をつきながら窓の外を見る。
窓の外は、相変わらずよどんでいて俺の心のようだった。
しばらく見つめ続けていると、時計の「カチッ」という音が部屋に響く。12時をさす時計は、俺の時間と共に世界を止めてしまったように思えた。
彼女に恋をして2年。それなりに喧嘩をしたりしたが、上手くいっていると思っていた。
だが、彼女は俺と一緒にいることを拒んだ。
「ごめん・・・」
泣きそうな声と泣きそうな顔で呟く彼女に、俺は何も言えなかった。
あんなに狭かった部屋が、広く感じる。
寂しいと感じる。
彼女の長い髪の毛が好きだった。
風が吹く度に揺れ、優しい臭いを残す彼女の香り。無邪気に笑って振り返るときの横顔。少し泣き虫で喧嘩がある度に泣いていた。優しい子だった。
咲き誇る桜を見て、人々は「綺麗だ」と言うのに、彼女は桜を見ながら「悲しい」と言う。
その時の俺にはわからなかったけれど、今ならわかる気がする。
ピンク色の綺麗な桜がキラキラと光るのは、短い季節だけしか咲くことを許されないから。人々が「綺麗だ」というのは、その儚さを知っているからだと。
人々が嫌う雨を、彼女は好きだと言った。
「私、6月が一番好き・・・・・・神様が、私達1年分の悲しい気持ちをなくしてくれる大切な時間だから」
真っ赤な傘をくるくる回しながら彼女はつぶやいた。
いつの間にか、窓の外は雨がパラパラと振り始めている。
窓を叩く雨音を聞きながら俺は目を閉じた。
彼女の大好きだった季節が始まる。
この雨は、きっと俺の代わりに神様が泣いてくれているのだろう。
今も尚、流さなくても良い涙を流している人や涙を流せない人のために。
「俺も、好きになったよ」
大好きだった人はいない。
声は、届かない。
だけど、今の俺は晴れ晴れとした気分だった。
まだ雨が振り続けているベランダに出て、空を見上げる。
大人になって、大好きな人と離れて、1人になって。
涙なんて流す暇なんてなかった。
だから、空が泣いている。
俺は、雨が大好きだ。
そして、彼女に恋をしていた、あの時間も。
12ヶ月全部をイメージしたシリーズ物で、第1作目(?)です。
来月は、7月をイメージして書きます。ちなみに、その月に合わせたタイトル(例えば、6月は「雨」みたいな)を考えて書いています!7月のタイトルは、「星座」です!