最悪の出会い
「こ、こちらです」
連れてこられたのは一つの部屋。
見張りをしている人がいて、目が合うと慌てて頭を下げられた。
軽く会釈をし、ドアノブに手をかける。
(これ開けたらいきなり刺されたりしないよね……)
さすがにそれはないだろうが、警戒しておくに越したことはない。
「失礼します。私はこの国の巫女を務めております、メイニアと申すものです。ここの人たちに頼まれて貴方の治療をしに参りました」
返事は返ってこず、物音もしなかった。
(……もしかして、寝てるかな)
だとすると入ってしまうのは失礼だろうか。いや、入らないと怪我を看る事はできない。
「……入りますよ」
ギィ、とドアノブを回し、扉を押し開けた。
「あれ、誰も居なっ………」
ガタン、と音がしたと思いきや、首筋になにか当てられた感触があった。
一瞬何が起こったか分からなかったが、命の危機が迫っていることを本能的に感じた。
「うぇっ?!?ちょっと待っ……!!」
後ずさったために段差でつまずき背中を床に叩きつけた。
じん、と広がる痛みに涙を流しそうになった。
「み、巫女様!!」
自分を覆う影に恐れ、これ以上の痛みに耐えるため、目を閉じた時、
「やめてうさぎさん!!」
「みこさまをいじめないで!」
子供たちの声だった。
「………」
影が自分の上から退くのがわかり、
目を恐る恐る開けると目の前で細い杖のような物を持って立つ、端正な顔立ちをした少年がいた。
とりあえず、子供たちのおかげで命は助かったようだ。
深い中青色の髪の毛で、子供が言っていたとおりに白い耳が側頭部から垂れている。
垂れた耳の先に紅いピアスが付けられており、目もそのピアスのような紅色だった。
(本当にひどい怪我……それなのによく起きてられるな……)
片目には包帯が巻かれ、体の至るところにも包帯やガーゼが当てられていた。
しかも激しく動いたせいで傷口が開いたのか血が滲み出しているところもある。
起き上がり、近づくと、かなり警戒しているようで、鋭い紅い片目で睨まれた。
内心すごくビビりながらも彼の前で膝をついた。
さすがにそこまでされるとは思わなかったのか、困惑した目を向けられた。
「____?!__……」
「えっ……あぁー」
しまった、と思った。
(この人……北生まれか……)
最北の地域に住む獣人は全く違う言語を使うと言う話は聞いたことがある。習わないと、理解出来ないとか。
今身をもって知った。難しい。
しかし、こんな事もあろうかと、私、星の巫女メイニア、習っておりました(半ば強制的に)
かじった程度でどのくらいいけるのかわからないが、頑張ってみよう。そう腹をくくった。
「__?(あなたを治します、ので、よろしいですか?)」
「……?」
あれ、対話難しいなっ?!と、変な文章になってしまった事に内心大焦りした。
(わーどうしよう、絶対なんかこいつ変なヤツっておもわれてる……ちゃんと習ってればよかった本当にどうしたら)
「巫女さんは、喋るんだ。ぼくの、くにの言葉」
「えぇ、まあ習いましたので……ってえっ?」
頭上から声が降ってきた。発音は若干おかしいが、しっかりと通る声で。
ばっと顔をあげるとバッチリと目が合ってしまった。
無表情で、顔に治療されたあとがあっても、綺麗な顔で、ずいぶんと昔に見た絵画を思い出した。
若干近い顔に驚きながらも、それを悟らせないようとりあえず喋ることにした。
「しゃ、喋れたんですか……こちらの言葉……」
「ここの人たちに世話になっている間に、だいぶなれた」
「……へぇ、そうなんですか……」
実際に自分で彼の言語を、今のレベルまで喋れるようになったのは半年以上はかかった。
それなのに彼はこちらの言語を何日間か、聞いただけで喋れるようになったという。
獣人であるが故か、それとも単に彼の能力であるのか。
「巫女さんは下手」
「あ、はい………」
ちょっと傷ついた。下手ってことは否定出来ないので、なんとも言えない。
最初の出会いはかなり悪いものでした。