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灰色の魔導士〜レディキャットの婚活調停〜  作者: 玖桐かたく
第二章
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地図と交錯Ⅱ

 以前より変わった名前だとして記憶に残っているだけでなく、その村はレディ・キャットの父が治めていた領地と接していた為、余計に記憶に深かった。

 その村が発生源ならば、領地に戻っていた父が感染したのも納得がいく。父の治めていた領地も、かなりの疫病による被害を出していたのだ。


「ディソルフェア……?」


レディ・キャットの言った村の名前を、少し変わった発音と抑揚で魔導士たちが口にして返した。


「うわーディソルフェアって…たぶん正式名称が昔は長かったっすよね、これ」

「うむ、多分、ディソルフェアレイリンとかじゃないか?」


 無言のシルバーと違い、二人の部下達は思い思いに村の名前を組み立てていた。

 レディ・キャットには、さっぱりと意味の判らない事だった。自分が知っている名前とは違う発音に、足され引かれされて示された村の名前。


「その村は、私の父が治めていた領地と隣接しておりましたので、ディ・ソルト・フェ・ラ村と間違いなく記憶しております。魔導士の方々には違った意味になるのでしょうか?」

「そりゃー違った意味になるよ。ここまで神語に近い単語で残ってるなんて、滅多にないしねー」


 あっさりと答えた青年魔導士の額を、バシっと音をさせるほど叩いてから、壮年の魔導士が青年を黙らせるとシルバーの方へと指示を仰いだ。


「隊長、こちらのご婦人を紹介して頂いてもよろしいでしょうか?」

「あーうん、勝手にちょっと自己紹介してろ。今ちょっと手が離せない」


 腕を組んで、指先を腕の上でとんとんっと叩きながら、思案に耽るシルバーは地図を眺めながら適当に応えた。いいのだろうかそれで、とレディ・キャットは思いもしたが、どうやら部下の二人は慣れているようだった。だが、この時のぞんざいな口調こそが青年の本来の話し方なのだろうとシルバーの一面を再び垣間見た気がした。


「では、私から、ハーラルトと申します。ご覧の通り、隊長の副官としてこの度の疫病の調停に参りました。こちらの若いのはチェルソと申します。腕はいいのですが口の悪さと滑りが難点の、隊長の副官見習いです」


 壮年の髭の魔導士、ハーラルトがそう自らを称し、片割れの青年の分も簡単に教えてくれた。宿舎ということもあり薄化粧ながらも、嫣然とした笑みを浮かべてレディ・キャットもそれに答える。もちろん、笑顔の下に何を考えているかなど一切見せない完璧な笑みで。


「私はエルティナ・カメリア・キャットと申します。この国における、キャット伯爵家の一人娘ですが、先日、父もこの疫病で亡くし、国王陛下の許しとシルバー殿の要請もあり、この国の事情についてお伝え出来るようにと派遣されました。人は皆、レディ・キャットと呼びます。どうぞお二方も、そうお呼びください」


 そう、この疫病で父が死にさえしなければ、キャット家の遺産も領地も、私がじっくりと選び抜いた婿養子を取ることで継ぐことが出来た。そんな思いが、ふと浮かび上がるが無理やり彼女は胸の奥へと押し込めた。


「ではレディ・キャット殿、こちらの地図におけるこの村について、少々教えていただいても構いませんか?」

「もちろんです。疫病の原因を特定するのは、国王陛下もお望みの事ですから」


 ハーラルトとレディ・キャットの会話を、チェルソがぼんやりと眺めていたが、疫病の会話になったことに気付いて慌てて地図へと視線を落とす。実際、チェルソが眺めていたのは大半がレディ・キャットの容姿だったのだが、そこはまあ若さ故の愛嬌だろう。


「えっと、このディソルフェア村って、亡くなったレディ・キャットのお父さんが治めていた領地と接していたっていうけど、実際この村は誰の領地の下にあるんっすか?」

「そこは確か、王族の方の直轄地です。確か、昔に国王陛下が王弟殿下にお譲りになり、その後に王弟殿下が実子である、現国王陛下の甥にあたる人物にお与えになった領地です。この国王陛下の甥であられるルイーダ殿下はあまり領地経営に熱心ではありませんでしたので、前任の王弟殿下の治められていたときのままの経営だったはずです。そのため、このディ・ソルト・フェ・ラ村の者達も、森に入り山の恵みを取ることを許されています」


 チェルソの疑問に、自らの記憶を辿ってレディ・キャットが捕捉を加えながら村の側の森を、手にしている乗馬用鞭で指し示す。チェルソがレディ・キャットと鞭の組み合わせが似合う等と思っていることなど知らずだが。


「ふむ、つまり国王の甥のルイーダ殿下っていうのが領主になるのか。ルイーダ殿下についてもう少し伺っても構わないだろうか?」


 遠慮気味なわりに、王族への敬意等は欠片もなさそうにハーラルトが聞くが、気にする素振りもなくあっさりとレディ・キャットは告げる。彼女も王族総てには敬意も崇拝も抱いていないからだ。ハーラルトの方は魔導士だからだろう。


 この世界において、魔導士は基本的に王族や貴族だろうと関係なく、魔導士としての実力を示す序列こそが総てと考えている。まさに、ハーラルトやシルバーもその典型的な態度だった。


「ルイーダ殿下ですか、あまりいい噂を聞かない人物です。昨夜も舞踏会で国王陛下に何か怒鳴っておいででしたし、人としての評判は宮廷内でも微妙と申し上げましょうか。ただ、現王太子殿下が少々偏った趣味をお持ちな為に、ルイーダ殿下への王位継承の可能性は有り得る事態として一部の貴族は擦り寄っているようですが、政治に関しては王太子殿下がそれなりに優秀ですので問題はないでしょう。その後、王太子殿下にお子が出来なかった場合が問題となってきますが…」


 そこまで説明をしていたところで、不意に上がった声に思わず言葉を途切れさせてしまった。


「ああ!ディソルフェアレイリンラ……」


 シルバーの唐突な声は、途中からレディ・キャットには聞き取る事が出来なかった。だが、二人の魔導士は聞き取ったのか二人とも微妙な顔をしていた。気まずいような、苦虫を潰したかのような微妙な表情でハーラルトとチェルソは顔を見合わせた。

 そんな魔導士たちの反応を気にする事無く、シルバーへと聞き返したのはレディ・キャットである。


「答えが見つかったのですか?」

「ん、答えというか正しい村の名前がね。あの村は、神々が残した遺跡を管理する人間が住んでいるべき地だということだよ。つまり、あの近くには遺跡がある」


 多分ここだろうと言いながら、シルバーは村の側の森を指し示す。

 もちろん、森もルイーダ殿下の領地の中ではあるが、遺跡となれば魔導士たちの調査調停が発生するために問題はないだろう。


「遺跡ですか。この国に住んでおりますが、ここらに遺跡があるという話は聞いたことがありません」

「ないだろうね。この遺跡は名前の通り本来は隠されているべきものだから、なんらかの拍子で表に出てしまったというところかな。ハーラルト、魔導士の一団を編成して遺跡調停に回してくれ。出来れば、右の魔導に長けた者を多めにしてくれ。村の調査のほうは、多分必要ない。チェルソは調停申請書類を作成して彼女に渡し、一日でも早く遺跡調査が可能になるように調整を…」


 矢継ぎ早に言い募りながら、レディ・キャットの価値を思い出したのか、手をぽんっとばかりに叩くと、彼女へと振り返った。先程とも違うが、初めて出会った夕べの笑みとも違う、悪戯っ子のような笑みを浮かべて。

 そんなシルバーの笑みに、本能的に後ずさりかけたレディ・キャットだったが、精神力で踏みとどまる。


「遺跡の調査に関して、貴女から国王へお願いしてもらえるかな?出来うる限り早く調査しておきたいし、遺跡を誰かに荒らされても困るからね」

「え…えぇ、陛下に要請するのは構いませんが、ちゃんと書類の方は作って下さいませ。然るべき手順も必要ですから」


 レディ・キャットの答えを聞くなり、シルバーの黄金色した瞳がすっと細められ、チェルソを横目に見た。実際に視線を感じたチェルソが寒気を感じていたのだが、レディ・キャットには知り得る事がなく、ハーラルトだけは同情したかのようにチェルソを一瞥した。


「チェルソ。一秒でも早く、書類を作れ。今夜は寝る必要もないように、明かりを用意しておいてやるからな」


 あまりにも理不尽なシルバーの発言に、レディ・キャットは目を見張った。対して、命令を受けたチェルソはがくりとうな垂れ、ハーラルトがチェルソの肩を励ますようにぽんっと叩いた。


「了解っす…隊長。でも、残業手当付けてくださいよ!」

「もちろん、却下だ」


 諦めたかのようにチェルソが了承したが、残業手当を求めるくらいには気力が残っていたようだ。だが、間髪容れずにシルバーが返した言葉は笑顔で告げられた。


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