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灰色の魔導士〜レディキャットの婚活調停〜  作者: 玖桐かたく
第四章
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遺産と欲望Ⅺ

「チェルソ、ルド殿下とレディ・キャットをこちらに連れて来い」


 シルバーはチェルソへと振り返ると、片腕を伸ばし手招くようにして声を響かせた。

 決して大きな声ではないが、不思議とチェルソの元へと届く耳障りのいい声だ。


 ふと、レディ・キャットがその声に、初めて王宮で会った時の事を思い出したが、それもそのはずである。意図的にシルバーは声に魔導力を乗せていたのだ。

 チェルソに連れられて、レディ・キャットとエーベルハルド殿下がシルバー達の元へと移動すれば、はぐれが捕縛の一部として声をも封じられているにも関わらず口をぱくぱくと開いて怒鳴ろうとしていた。


「どうしたんっすかー?」


 チェルソが暢気な声でシルバーへと尋ねるその後ろで、はぐれの姿を先に垣間見たレディ・キャットが驚きに声を上げた。


「ルイーダ殿下!」

「え、ルイーダ?」


 レディ・キャットの声に最後尾を歩いていたエーベルハルド殿下が驚きのあまり、シルバーとハーラルトの姿に隠れていたはぐれの姿を覗き込んだ。

 ハーラルトに声すらも封じられ、身動き出来ないように捕縛されている黒いローブを纏ったはぐれが、確かに自らの従兄弟であるルイーダ殿下だと認識したエーベルハルド殿下が、遺跡に入ってからシルバーによって髪を纏められ露わにされた眼差しに剣呑さを含ませた。


「なんで、ルイーダが此処にいる?」

「それを聞きたいのは、このはぐれを除いて此処にいる全員だと思いますよ。ルド殿下」


 剣呑な雰囲気になったエーベルハルド殿下と、ルイーダ殿下の眼差しが交錯する中、シルバーが肩を竦めて間に入った。

 魔導士たちにとっては、ただのはぐれでしかないのだが、エーベルハルド殿下の存在と、ルイーダ殿下の身元により少々面倒くさい事だという判断だった。


「ああ、王宮ですれ違ったあの時、すでに魔族と繋がっていたという事ですわね…仕方ありません」


 睨み合う二人の王族と、どうしたものかとそれを眺める魔導士たちの傍らで、レディ・キャットが溜息を零して思考を組み立てた。


 自らの領地で見つかった遺跡に、密かに踏み入っていた事。それにより疫病を流行らせたのも、多分ルイーダ殿下だろうという事。王宮で王へと怒鳴る等という無礼な真似が出来たのも、魔族と繋がりがあったのだろうという事。

 レディ・キャットの頭の中でルイーダ殿下の行動が手に取るように判ってしまった。それ故にレディ・キャットは影としての立場で、今この場で動かなくてはいけない事が、仕方がないという言葉を彼女に言わせていたのだ。


「レディ・キャット、何か心当たりでも?」

「シルバー、まず先に詫びておきますわ。はぐれという存在が、魔導士たちにとっては処罰対象だとしても、今、目の前にいるこの青年は国の法の下に引き取らせて頂きます。それが、魔導教会の方針と相対する事となっても、私の仕事の内なのでルイーダ殿下をそちらに譲れないという事をご承知くださいな」

「ふむ、まあ納得いく理由を全て開示してくれるならば、魔導教会の方では問題はないよ。主である魔族に見放されているのだしね」


 シルバーがレディ・キャットに会話の上であろうと許可を出したその時点で、ルイーダ殿下の身柄は確定した。シルバーが、魔導教会における長の一人だからこその権限だろう。

 同時に、レディ・キャットが影だからこそシルバーとの交渉が出来る権限があったのも事実だ。


「私、エルティナ・カメリア・キャット、ハスティ国の影の一人としてシルバー貴方の条件を受け入れ、影としての権限をルイーダ殿下に行使致します」


 何処か契約文を読むかのようなレディ・キャットの発言に、その場にいた全員が大小様々な驚きを見せた。

 魔導士であるシルバー達は、レディ・キャットが王族に対して行使出来るだけの権限を持っていた事に驚き、エーベルハルド殿下とルイーダ殿下の二人は影という単語に驚愕していた。王にのみ仕え、影としての姿を普段は隠して王宮に存在する王直属の情報機関でもある。レディ・キャットは、まさにうってつけの存在であったのだが、実際に宣言されれば、王族である二人はその事実に動揺せずにはいられなかった。影の権限は、それ程に重いものなのだ。


「シルバー、ルイーダ殿下の処置については、国王陛下の判断を仰いだ後お伝えするとして、王宮に持ち帰るのは貴方たちに任せてもいいかしら?」

「荷物にはぐれが一人増えた所で問題はないよ。すでにもう一人はぐれを捕獲しているからね」


 成人男性を運ぶのは自ら一人では無理だと苦笑を浮かべたレディ・キャットに、荷物が一つ追加されるくらい問題ないというシルバーの戯れた会話が交わされる。

 そして、本人やエーベルハルド殿下が口を挟む事が出来ないままルイーダ殿下の王宮までの処遇も決まった。未だ、意識の戻らないはぐれと同じように、ルイーダ殿下の身体をチェルソの使い魔である狼の背に乗せて、一行は先を進む事にして歩きだした。

 もちろん、互いに持った疑問を解消しつつであったが。


相変わらず1Pの分量少な目です。

ちょこっと読んでしおりを挟むのに便利なようにとの思いですが、もっと1Pの分量多い方がいいのでしょうか?と、ちょっと悩み中です。

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