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灰色の魔導士〜レディキャットの婚活調停〜  作者: 玖桐かたく
第三章
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遺跡と追憶Ⅵ

 程なくシルバー達は食事を終えて、食事についていたデザートも食し終わり、その後の別腹という名の食後のデザートとして、魔導士たちが常備しているお菓子をつまみながら先ほどの手紙について話す事にした。

 もちろん、その前に食事の片づけをチェルソに任せて、彼が天幕から出ていってからの事だが。


「ふむ、話したいことがあるので、内密に遺跡の入り口まで夜中に来て欲しいと…」


 手紙の内容を要約しながら、シルバーは便箋をひらひらと振りながら思案する。

 内容としては、夜中に女性を呼び出すのだから艶事とも取れるが、遺跡の入り口というくだりが気にかかった。明日に遺跡調査を回した為に、遺跡の入り口は現在人気の無い場所である。話をするには指定場所としても判りやすくもあるが、あのマニアックな趣味のエーベルハルド殿下の思考から遺跡を覗きたいという懸念も浮かんでしまうのだ。


「レディ・キャット、貴女はこの手紙の主体が何処にあると思う?」

「そうですわねえ…叱られるような事をするのならば、私を呼び出すのはおかしいですし、話したい事があっても天幕にいらっしゃればいいだけですし、夜中に呼び出すなんて女性の扱いを散々叩き込まれたエーベルハルド殿下とは思えません。何か、切羽詰まった自体でもエーベルハルド殿下の付き人達の中に発生して、魔導士どのたちではなく、私の協力が必要というところでしょうか?」


 シルバーは、半分考えるのが面倒くさくなってレディ・キャットへと話しを振ったのだが、レディ・キャットもよく判らないとばかりに首を傾げるばかりだ。

 おかげで、テーブルの上のお菓子の消費が、二人係りという事も手伝い凄まじい事になっていた。間に口にする飲み物がまた、食事の片づけをしたチェルソと入れ替わりに天幕に顔を出したハーラルトが煎れていってくれた紅茶だった為、相乗効果を起こしているのだが。


「うーん、それくらいしか思い当たらないよな。まあ、調停中だから艶事でルド殿下が暴走しても、調停の契約魔導で弾かれて問題は起きないが…」


 レディ・キャットは、シルバーが呟いた言葉に、聞いていなかった内容が含まれていたことに気付いてぎょっとした。調停の契約魔導等、一言も聞いていなかったのだ。

 先日、国王陛下の腕に捕まった時、契約魔導とやらが働いて、陛下を弾かなかった事を思い出せば背中を冷たい汗が滑り落ちていくばかりだ。


「あ、そうだ。あれを渡しておくか」


 何か思いだしたのか、シルバーは腰に吊るした紐のうちから一つの珠を取り外すと、レディ・キャットへと差し出した。

 一見、魔導士の証であるガラス玉に見える青い珠に、一瞬躊躇しながらもレディ・キャットは手の平の上へと受け取る。


「これ、魔導士の実力を示すというガラス玉ではないの?」


 手の平の上で転がる青い珠をまじまじと見つめながら、レディ・キャットは疑問をそのまま口にした。よく見てみれば、魔導士のガラス玉にあるべき位階を示す魔導文字は浮かんでいない。どちらかというと宝石のような青く深い輝きを持った珠であった。


「それは、私が作った魔導具の一つだよ。水の魔導に他の魔導を組み合わせて実験的に作ったものだけど、必要な時に自発的に発動する。念のために持っていてくれ」

「魔導士のガラス玉ではないのは判ったけれど、魔導具といったら高額な品じゃないの。そんな簡単に渡されても見合った額を支払えないわよ?」

「それなら問題はないさ。さっき言っただろう?実験的に作った物だと…だから、実験結果さえ判れば私としても十分な利益になるさ」


 世間一般で魔導具といえば、些細な品でさえも一般人の手には入らない物である。確固たる目的を持った魔導具となれば、裕福な貴族でさえ、非常用として一つ二つ所持していればいい方というくらいに高価な品なのだ。

 ただ、魔導士になり立ての魔導士の位階を受けていない魔導士見習いという存在が練習用に作った物が、一般に流布している現状である。ただしこれは、練習用というだけあって魔導具とは呼ばれずにくず石と呼ばれているのだが。


 今、シルバーに渡された青い珠はシルバーの左の腰に吊るされたガラス玉の数からして、くず石とは比べ物にならない程の価値を持っているだろうことは、レディ・キャットにも容易く判る物だ。


「ただほど高い物はないと言うけれど、貴方にもちゃんと利があるのならば受け取っておくわ。でもこれ、王都に居た時にチェルソ達が話していた、厄介ごとの飛び火の一つじゃないでしょうね?」


 胡乱げな眼差しをシルバーに向ければ、それは綺麗な笑顔を返された。


「まさか、そんな事あるわけないじゃないか。それは単に、貴女の身の安全を考慮しての一つだ。さ、それよりも手紙の方はどうするんだ?」


 深く突っ込む前に、シルバーにそう話しを変えられて、レディ・キャットも溜息と共に手紙へと意識を戻した。

 元々、手紙の方が主体で話をしていたのだから、問題を先延ばししても仕方がない。

 レディ・キャットは受け取った青い珠を服の隠しに仕舞うと、話しを戻した手紙についてテーブルをとんとんっと指先で叩いて思案した後告げた。


「取り敢えず指定の場所を覗きに行ってみますわ。勿論、物陰からですけど…」


 怪しすぎる手紙故に、指定の場所に本当にエーベルハルド殿下が来るかも判らないのだ。

 だが、万が一本当に本人が来たとしたら、それはそれで行かなかった事にも問題が生じて来るための妥協だ。


「そうだね、一応の確認だけはした方がいいだろうし、何かあってもレディ・キャットは調停中だから結界が発動して安全だから問題はないか」


 レディ・キャットの決めた内容に、シルバーは調停という安全策がある為からか、容易く同意を示した。

 実際の所、他にも安全策を講じる予定ではあるのだが、それをレディ・キャットに言う程、シルバーは真面目な性格をしているわけではなかった。 ただ、面倒くさいというだけの事なのだ。

 同様にして、そのシルバーの性格によって、チェルソやハーラルトがいつも厄介ごとに巻き込まれているのは当然だったりする。


「なんだか、とても雑な扱いを受けた気がするのですけど、気のせいかしら?」


 レディ・キャットは胡乱な眼差しをシルバーへと向けた。

 それに対するシルバーの反応はといえば、お菓子を摘みながら、テーブルに頬杖をついて視線をすーっと逸らした。

 自らの考え通りなのかと、レディ・キャットは深々と溜息を零すしかなかった。


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