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灰色の魔導士〜レディキャットの婚活調停〜  作者: 玖桐かたく
第二章
17/46

地図と交錯Ⅹ

 そこまで報告をしたところで、国王は静かに聞いてはいたが、ついに我慢出来なかったのか、レディ・キャットの腰に腕を絡ませていた。


「ふむ、まあ遺跡の調査調停の方は問題あるまい。あれは魔導士たちの通常の仕事だからな。書類が回ってきたら判を押すだけだ。疫病に終止符が打てるならば良い話なことには違いないな」


 真面目な顔して判断を下しながら、国王はレディ・キャットの腰に回した腕を引き寄せるようにしつつ、悪い話についての判断もしていく。

 いつのまに回されたのか、その時になってレディ・キャットは、国王の腕に気付いて国王の腕を掴み、剥がせないものかと力を込めた。もちろん、女性の力でどうにかなるような、か弱い国王ではなかった。


「ルイーダについては、この度の領地での采配についてもう少し厳しく罰しておくか。それにしても、ルドの名前を使うために、遺跡の話をしたのは本当に悪い話だな。あの馬鹿息子が突っ走るだろう事は、レディ・キャットだけでなく私も思うぞ」

「ところで陛下、この腕はどういう事でしょうか?外れないのですが?」


 悪い話についても報告を聞いて眉を潜めた国王に、レディ・キャットは軽く国王の腕を叩きながら報告を止める。僅かに凄みを利かせた声で国王に問えば、悪びれない国王の応えが返ってきた。


「なに、気にするな。こんな近距離で美女と二人きりの室内ともあれば、男としては礼儀だ」

「何が礼儀ですか。私は陛下の後宮に入る予定はありません。先程はルイーダ殿下にまで側室にと言われて、少々気が立っているのです」


 愚痴交じりにレディ・キャットが言えば、国王の腕が驚きに力が篭もり一層引き寄せられた。だから男という生き物はと、レディ・キャットは怒りながらも満面の笑みでをもって怒りを表現する。

 それに気付かない国王ではないが、レディ・キャットの発言に心中穏やかではなかった。


「ルイーダまでもが目を付けていたか。全く、どいつもこいつも油断も隙もない。密かに虫を追い払っていた私の苦労も知らずに…」

「現状で油断も隙もないのは、陛下ご自身だと思われますが、私の気のせいなのでしょうか?」


 追い払っていたとはどういう事なのか、後ほど詳しく聞いておくべきだろうと思うが、現状をどうにかすることを優先し、諦めたように国王の腕へと身体を預け、自由に動く手を国王の胸元へと添える。


「陛下、亡き王妃様がお嘆きになりますわよ。自らの部下に手を出すなんてと…それに、ただいまの私は魔導士の方にお願いして婚姻についての調停中です。幾ら陛下といえども、調停の最中に火遊びは不味いのではないのでしょうか?」


 緑柱石を思わせる緑の眼差しは完全に据わって、ひたりと国王を見つめながらも口元だけ、それは優美な弧を描いて見せる。


「調停…そういえば先日の夜に言っていたな。馬鹿息子の監視と、魔導士たちの要請のおかげですっかり忘れていた。これでは私だけでなく、どの人間も魔導士の調停によって選ばれた人物しか、レディ・キャットに触れる事が出来ないではないか」

「陛下が魔導士殿と逢わせてくださった、あの宴の夜に、確約出来ましたのでお礼を述べさせて頂きますわ」


 がっくりと肩を落とした国王に、微かな笑い混じりに伝えたレディ・キャットは、力の緩んだ国王の腕からするりと身を抜け出させる。

 腕から抜け出したレディ・キャットに未練の残る眼差しを向けた国王は、溜息を零すと残りの報告を聞くことにした。


「それで、残りの不穏な話を聞かせてくれるか」


 国王の悪戯で脱線していた会話が元に戻ると、レディ・キャットは自らの口元に人差し指を添えて、僅かに首を傾げて思案するように困ったような面持ちで口を開いた。


「それですが陛下。ルイーダ殿下と、先程、一般事務処理を扱う文官達が多い区画で逢いました。あの方の性格からして、立ち寄る事などありえない場所です。しかも急ぎのようでしたし、また良からぬ事を考えておいでではないかと…影の同僚に後を任せておきましたので、後ほど報告が上がってくると思いますわ」


 影と呼ばれる、国王直々の命令を聞き裏の仕事をこなす存在。表面的には、宮廷で働くごくごく一般的な人々だが、裏の仕事として国王の極秘の直属の部下といったところだ。その存在は一般的には名前だけは知られてはいるが、誰が影であるかは影同士でも全員が知っているわけではない。

 まさにレディ・キャットも影の一員であり、影の同僚といえば先程ルイーダ殿下の後を任せた文官であった。


「ふむ、影に任せたのなら問題はないだろうが、内容が少し面倒そうだな。ルイーダは少々手に負えない所があるからな」

「手に負えないならば、王弟殿下にもっと、きっちりと教育し直して頂いたらどうです。ルイーダ殿下と血が繋がっているとは思えないほど、王弟殿下は優れた人ですわ」

「どれだけ優れていても、弟も自らの子には甘くなってしまうらしい。私も人の事を言えんがな」


 そう呟く国王だが、ルイーダ殿下と王太子殿下を比べてみれば、どう考えても国王の方が子育てには成功していると言える。

 互いに短所もあれば長所もある二人の殿下達だが、足して割れば凡庸な人間が出来上がっただろう。かといって二人の長所だけを拾い上げても、それはそれで面白くない人間になりそうだから、あれで丁度いいのかもしれないとレディ・キャットは口にはしないが密かに思った。


「まぁ、ルイーダ殿下に関しては私の仕事には関わりないと思いますから、陛下に処理して頂ければいいのですが、先程の、遺跡調査にエーベルハルド殿下が同行するという状態になった場合は如何致しましょう?」

「ふむ、ルドの事か…自ら同行を言い出したら、適当に言いくるめてしまってもいいが、今回は見逃してやるか」

「見逃すということは、遺跡調査に行かせても構わないのですか?」

「たまには、あれにも息抜きが必要だろう。政務はいつもどおりやってもらわないと困るが、若い時に冒険の一つもさせて経験を積むのも、また今後の役に立つだろうからな」

「はぁ、判りました。つまりは、親馬鹿としてたまには、エーベルハルド殿下を甘やかしてやりたいという事ですわね」


 盛大な溜息を零して、レディ・キャットが国王の本音を言い当てれば、悪びれもなく目の前の男は肩を竦めて見せる。

 遺跡調査に同行するエーベルハルド殿下のことは、そちらに任せるといわんばかりの仕草だ。


 何処か憎めない国王の仕草に、仕事の報酬を上げてもらわなくては割りに合わないと、昨日チェルソが思ったのと同じ思いを、レディ・キャットは心底思った。

 自らの主君と仰いだ時点で、すでにこの国王に惹かれていたのだから仕方がないのだが。


 渋々といった感じでレディ・キャットは引き受けると、国王と打ち合わせておくべき事柄を数件纏めて現在の仕事、魔導士たちへの情報提供という仕事へと戻った。


此処で、地図と交錯編から次の章へと移行します。

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