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灰色の魔導士〜レディキャットの婚活調停〜  作者: 玖桐かたく
第二章
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地図と交錯Ⅷ

 宿舎から出たレディ・キャットは、真っ直ぐ王宮の文官達が働く区域へと向かった。


 シルバー達が、どうエーベルハルド殿下を巻き込むかは気にはなったが、あの考古学や歴史マニアのエーベルハルド殿下ならば、新しい遺跡と聞いた時点で完全に喜んで進んで巻き込まれようという気になっているだろう。

 レディ・キャットがつらつらと思考しながらも、提出するべき書類を文官達の中でも高位の者へと直接渡して、陛下からの要請でもあると念押しする。


 元々、王妃の筆頭秘書官であったために、文官達の立ち働く区域には詳しく、誰に書類を渡せば一番すんなりと認可されるかも把握していたレディ・キャットには、書類を運ぶお使いのような仕事は苦もなかった。

 恭しく受け取った書類を手に、高位文官から二、三日中にはと約束を取り付けて、同じ部屋にいる文官達にも、手をひらひらと振って愛想を振りまいて部屋を後にする。


 これで、遺跡調査の方も問題なく認可されるだろう。


 二、三日中というのは、支度をするためには返って都合がいい日数だろうとレディ・キャットは計算すると、エーベルハルド殿下を巻き込む事について国王へとどう話すべきかを考える。


 ただ巻き込むといっても、王族の直轄地であるからこその、牽制にもなるという思惑もあるしエーベルハルド殿下の息抜きもかねている。レディ・キャットは悩みながらも、そんな素振りを見せることなく、時折すれ違う宮廷の人々と挨拶を交わしながら歩いた。


「おや、レディ・キャットじゃないか。最近はあまり王宮に顔を出していなかったが、珍しいな」


 考え事をしていたせいか、自分に必要のない人間に声をかけられた事にレディ・キャットは舌打ちしそうになった。

 横手の廊下から歩いてきたルイーダ殿下の声に、慌てた素振りを見せないようにして通路の隅に寄ると頭を下げ一礼する。ドレス姿であれば、腰を落として優雅にお辞儀しただろうが、生憎と今は魔導士達の宿舎から真っ直ぐに来たために乗馬服と男装の間という格好である。


「お久しぶりですわ、ルイーダ殿下。父の喪に服しておりました為、王宮に伺候してはおりませんでしたが、父を屠った疫病を治めてくださっている魔導士の方々へのお礼として、代わりに些少ながらお手伝いをさせて頂く事を陛下からお許し頂きまして、本日は陛下へその報告へ参った次第ですわ」


 邪推をされないように、無駄に考えたりしないように相手に自分の行動理由を明かす。

 本来の目的を知られる必要はないのだからと、レディ・キャットは微かな笑みを浮かべてルイーダ殿下の思考の道を閉ざした。


「そういえば、キャット伯爵も亡くなっていたのだったな。貴女も庇護してくれる父親を亡くしたということか。私の元へ来るのならば、便宜を計ろう」


 好色そうな眼差しのルイーダ殿下の手が、レディ・キャットの手を掴む。

本来の仕事の方を知られる事は無くなったとはいえ、別の問題が発生したと内心レディ・キャットは溜息を吐きたかった。どうしてこうも、男という生き物は鬱陶しいのだろうかと。


「ありがとうございます、ルイーダ殿下。まだ、父も亡くして日も浅いですし、喪に服している間に考えさせてくださいませ」


 掴んだレディ・キャットの手を、ルイーダ殿下が自らの口元へと持っていき、手袋越しに唇に押し当てる。

 昼間で人目があるからこそ、この程度ですんでいる事が幸いだが、夜に王宮に来るときは気をつけねばと、レディ・キャットは眼差しを閉じてルイーダ殿下の口付けを受ける。手袋越しでも気分のいいものではなかった。


「貴女のような美女が、私の側室になってくれるのならばどれだけ心躍ることだろう。その時を楽しみに貴女の返事を待っていることとしよう」


 何を考えているのかと、本気で馬鹿殿下だとレディ・キャットが思っていると、ルイーダ殿下は掴んでいたレディ・キャットの手を離した。用事でもあるのか、ルイーダ殿下の素振りもいつもと少し違っていたのだがどう変なのか、元々変な人物をどう評していいのかとレディ・キャットは悩む。


「では、レディ・キャットまた逢おう。次は夜の王宮で逢いたいものだ」


 側室になど絶対にお断りしますとは、表情に出すわけにもいかずに、踵を返しだしたルイーダ殿下へと一礼して顔を隠す。文官の多い区域に居る事自体が珍しいのに、一体ルイーダ殿下は何を急いでいたのか。レディ・キャットの考えるべき事が増えていく。


 ルイーダ殿下が立ち去ったのを確認してから、当初の目的の国王の下へと足を向けた。


 途中、顔見知りの同じような仕事をよくしている文官にルイーダ殿下の動向を探り、陛下へと報告するようにと指示をしていく。


「どうして、王族っていうのは変な性格ばかりなのかしら…まぁ、私に関わってくれなければどうでもいいけれど」


 そこまで言ったレディ・キャットは、先程ルイーダ殿下に口付けられた手袋を思い出した。無造作に手袋を外すと、汚らしいものでも掴むようにして、通りかかった女官に捨てておくように頼んだ。


「まったく、ゴミが増えてしまったじゃない」


 まだ使えたのに、もったいないわー…とぼやきながらも、王宮内を今度こそ気をつけて国王の執務室へと向かった。


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