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Side Story 1 --- 後悔バージンロード ---




 クリフが出て行った後、部屋に残された魔女、アキは、顔を隠していた本を取り払った。


 横目でちらりと覗いた鏡に映る少女の顔は、赤みがかった髪よりも、ずっと真っ赤に染まっていた。

 顔にかけていた『描画魔法』。本で隠していなければ、平常心を保てずに、普段の色白お肌が剥がれ落ちていたところであった。

 紅潮した顔を見せまいと、普段の肌の色を乗せていた顔が、露わになったのは、丁度クリフが部屋から出て行ったタイミングだった。


「…………っぷはぁ! ギ、ギリギリ保った……! 危なかったぁ……!」


 本を乱暴に閉じ、放り出す。

 クリフの目には、魔女の館を映し出す、不思議な動く地図を作った、魔法の本に見えたかも知れないが、実際は適当にとったただの本である。そこに彼女の得意とする『描画魔法』で、動く地図を描いただけ。

 顔を隠した理由は簡単である。

 アキにはクリフを直視する事ができなかったからだ。

 何故、直視できなかったのか。

 その理由も簡単である。


「…………駄目だ、やっぱり格好良すぎる……!」


 アキはクリフに恋しているからである。

 頬に手を当て、熱を持った顔を冷ます。そして、つかつかと歩いて行き、クリフが進んだ方と逆に進んで、少しだけ色の違った壁に手を当てる。すると、壁から色が落ちて、隠されていた扉が現れた。

 アキの得意な『描画魔法』。何にでも色を乗せ、違うものを描き出す魔法。≪アキの場所≫には、そんな描画魔法で描かれた仕掛けや隠し通路が無数にある。

 その中のひとつで隠された扉の先は、白い絨毯が伸びる教会のような空間。

 アキが『空想バージンロード』と名づけた、姉妹にも母にも秘密にしている部屋である。

 先程は、自身の紅潮を隠せない、恋するあの人の素敵さを呪う言葉だったが、今度はその素敵さを喜ぶ様に、頬を緩ませくるりと回った。 


「……やっぱり格好良いなぁ。」


 アキがにやけ面で、ひょいと指を一振りすると、バージンロードに薔薇が咲き乱れる。それは彼女の心象風景を描き出しているようであった。


「フユ、グッジョブ! あれかな? やっぱり、星に願いが届いたのかな? 魔女が神頼みなんて……とか思ってたけど! ラヴァー様、ありがとー!」


 実はアキもまた、ラヴァー流星群に願っていた。

 愛しいあの人に合わせて下さい、と。

 姉妹には恥ずかしくてとても言えなかったのだが。


「まさか、『また』クリフに逢えるだなんて、思ってもみなかった! フユ、グッジョブ! ラヴァー様、ベリベリサンキュー! どうしようどうしよう幸せすぎる! しかも……!」


 アキは思い出す。クリフに言われたあの一言を。


『アキ。俺と結婚しない?』


 思い出しただけで沸騰しそうな頭をブンブンと振り、アキは「キャー!」と甲高い悲鳴を上げた。


「夢! これはきっと夢よ! じゃなければきっと、私、明日死ぬ! こんなに幸せでいいの!? 私がクリフと結婚! ウエディングドレス、用意してこなきゃ!」

「アキ様。アキ様。」

「何処にしまってたっけ? 確か、妄想結婚式を前にやったのは一週間前で……。」

「アキ様! アキ様ってば!」


 きゅっと首を絞められて、アキは「きゅっ!」と声を上げた。

 突然、首を締め付けたマフラーを、アキはキッととろけた目を鋭く尖らせ、首から勢いよく引きはがした。


「何するのよウツボロス! 今良いところ……」

「だから、妄想こじらせてないで聞いて下さいってば、アキ様!」


 縞々マフラーはうにょりと動き、結び目の下に隠していた顔をにょろりと覗かせた。

 アキの眷属、ウツボのウツボロスは、ふぅ、と溜め息をついて、再びアキの首に戻る。


「普段はあんなにクールに振る舞っているのに、どうしてこう一人になるとそこまでになってしまうんですかねぇ。」

「好きな人を前にしてるのよ! 冷静で居られなくて当たり前じゃない!」

「まぁまぁ、そこを落ち着いて。アキ様、興奮しすぎて記憶が飛んでませんか?」

「何が?」


 アキが不思議そうにマフラーを撫でる。

 ウツボロスは、「いいですか。」と子供に言い聞かせるように言う。


「あなた、クリフ様の結婚の申し出、断ったでしょう。」

「は? 何言ってるの? クリフが結婚を申し込んでくれたのよ? そんなの断る訳……。」





『ばっかじゃないの。』


 アキはバージンロードから飛び出し、教会の柱に頭突きした。


「私のバカヤロウ! 何断ってんだ!?」


 自分の台詞をアキはハッキリと思い出した。

 しっかりと断っている。

 ウツボロスは、はぁ、と溜め息をついた。


「アキ様。知っていますか? 近頃の殿方の中には、『ツンデレ』という需要がありまして。」

「つんでれ?」

「そう。ツンとしてるけど、たまにデレる。その落差に落とされる殿方が居るようです。」

「それがなによ? 私がツンデレって言いたいの?」

「いや。あなた、デレないでしょ。人前で。絶対にデレないでしょ。」

「じゃあ、私は何なのよ。」

「あなたはツンです。ツン。落差の無いツンツンです。そりゃ、殿方からしたら、素っ気ないだけで、全く可愛くないでしょう。」


 アキは衝撃を受けた。


「わ、私は……ツン!?」

「ちゃんとクリフ様の前でもデレなきゃ。じゃなきゃ、振り向いて貰えないですよ。」

「そ、そうなの!?」

「そうですよ。『危ないから同行する。』とでも言えば、結婚まで行かなくとも、良い感じで一緒に居られたのに。」

「そ、そんな手があったの!? でも、一緒に居たら、私、格好いい魔女のままで居られない!」

「そこでデレろって言ってるんですよ。格好良い魔女のままで居たら、あなた、ツンしかないですよ。グッときませんよ。」

「私、グッとこない!?」

「そういうとこですよ、アキ様。」 

「そういうとこなのね、私……。」

 

 がっくりと項垂れるアキ。

 そんな彼女に、眷属のウツボはくすりと笑って囁いた。


「まぁ、まだチャンスはあります。」

「ほんと!?」

「ええ。簡単です。アキ様の幸せが私の幸せ。不器用なアキ様の為に、私が知恵を貸しますよ。ほら。耳貸して下さい。」




 密かに、自分を巡った争いが、与り知らぬ所で起こっていようとは、渦中のクリフが予想できる筈もない。






補足:世間一般視点で、別にクリフはイケメンという訳じゃない

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