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アキの場所 『メモリアルロビー』




 フユの場所を抜けるためだけに、クリフは三回ゲームオーバーになった。


 嘘吐きを見つける『なぞなぞろびー』。

 その突破方法は単純明快。


 『総当たり』である。


 クイズの覚え書きの為に置かれたメモ。クリフはこれを、クイズの為にではなく、セーブの為に使ったのである。

 クイズの前にメモに名前を書き記す。それでセーブができている。

 後は適当に、ぬいぐるみの話も聞かずに、赤以外の扉を選ぶ。

 まずはクリフは青の扉を開いた。


 先に進むと穴に落ちた。


 3 Continue...


 女神の汚い部屋に戻ると、新しくカードにメモ帳がうつされていた。

 それに触ると、やっぱり床が抜ける。

 そして、魔女の館の、メモ帳の前に戻される。


 そうしたら、次は別の扉を選ぶ。

 

 無限コンティニューを利用して、間違えてもいいので、扉を順に選んでいく。

 そうすれば、いずれ正解の扉に行き着く。

 『魔女の館内での選択』には1分も必要ない。1秒あれば十分だ。

 毎回落ちるのは嫌な感じだが、痛みなどを感じる前に女神の部屋に戻れるのはクリフにとっても有り難い。既にコンティニューへの抵抗はなくなっていた。


 それでも、3回コンティニュー、つまり、先の赤の扉の1回を含めると、正解以外を全て引き当てている。運が良いのか悪いのか。クリフは正解の紫の扉を抜け、今度は開かなかった床を踏みしめ、長い廊下を駆け抜けていく。

 フユが追ってくる気配もない。女神様曰く、あれは時間を掛けての謎解きであり、フユに向けられたものである事は間違いないようなので、フユもあそこで足止めされているのだろう。


 その先にはもう邪魔は無い。

 ぬいぐるみの部屋で聞いた話では、この先には十字路があるという。

 先が長く、しばらく早足で進んでいたが、不安になり始めた頃に右と左に道が現れた。

 ここが例の十字路である。

 右に曲がる。

 代わり映えのしない白い壁がやはり延々と伸びている。

 其処を進むと、話の通りに、金のノブの茶色い扉が見えてくる。


「あれか。」


 迷わず扉に手を掛ける。ノブを捻ると、扉は抵抗なく開いた。


 其処から先は、今までの白い壁紙の廊下や、フユの部屋とはまた別世界が広がっていた。




 広い四角い部屋。

 ここは本当に『部屋』、なのだろうか。


 広がる青空。照りつける太陽。絨毯のような草原。爽やかなそよ風。

 言葉を失い一歩を踏み出したクリフは、足元にくすぐったい感触を覚え、視線を落とした。

 白い一輪の花が揺れている。それを避けて、足元に気をつけながら草原を歩く。


 外に出られた?


 違うことはすぐに分かった。

 青空に、扉がいくつか、ぽつぽつと浮かび上がっていた。

 此処は屋内。当然青空など見える筈もない。空は壁に描かれていた。

 魔女の魔法だろうか。部屋に描かれた青空に浮かぶ白い雲が、ゆっくりと、少しずつ動いている。

 足元は土が盛られ、草が植えられているのだろうか。

 常軌を逸した部屋には変わりないのだが、その爽やかさからは、陰険な魔女のイメージとは掛け離れており、むしろクリフは良い場所だと思った。

 

 懐かしい草の香りがする。

 久しく草原など歩いていなかった。

 風が心地良い。

 風が気持ちいいと感じたのはいつ以来だろうか。

 幼い頃に歩いた草原。

 虫を追い掛け走った先で、遊んだ記憶。


 何故、今になって昔を懐かしんでいるのか。

 クリフははっと我に返る。


 のんびりもしていられない。確かに良い場所だとは思うが、いつまでも此処には居たくない。

 三女様とやらを探し出し、本物の外に出なければ。


 扉は見えるだけで三つ。何処に進むべきか。

 ぬいぐるみの言葉を思い出す。

 確か、三女様は、ここに入った時点で察知し、接触を図ってくる筈だ。

 つまり、下手に動かずに、安全そうなこの部屋で三女様を待つのが正解だ。

 クリフは腰を下ろす。やはり地面は柔らかい。


 そういえば、メモを一枚ちぎって持ってくれば良かった。

 そうすれば、ここでセーブができたな。


 一息つける場所でセーブしていた方が安心だ。

 すぐに抜けられるとはいえ、あの不気味なぬいぐるみの部屋に戻されるのは気が滅入る。

 クリフは今更後悔する。

 そして、次にコンティニューしたときには、必ずメモを一枚持ってこようと記憶した。


「普通、魔女の館で一息つく?」


 完全に息を抜いていた時に、不意に掛かる声に、クリフは思わず焦って立ち上がろうとして、草に足を取られて仰向けに倒れた。

 倒れたクリフの上から、冷めた視線が見下ろしていた。


「何してんだか。あんた誰よ。」


 彼女は、フユよりは年上に見えた。

 まだ少女と言える年頃に見えるのは、学生服を思わせるブレザーとミニスカートのせいかもしれない。

 赤茶色のブレザーの胸元に覗く、オレンジ色のタイ。その上には何故か黄色とオレンジの縞々マフラー。何故、この季節にマフラーなのか。

 赤みがかった髪に、気の強そうな鋭い目、不機嫌そうにへの字に曲がった口と、フユとは全く違ったタイプ。気難しそうな見てくれだが、幼さも残した可愛らしい顔立ちである。少しだけ大人びた美少女、といったところか。

 

「クリフです。」


 ぎゅむっと少女の眉間にしわが寄った。

 何か機嫌を損ねるような事をしただろうか。

 寝そべったまま、クリフは少女の顔色を窺う。

 そういえば、この子は誰だろう。

 愚問である。この場所に、外から来た人間が居る筈がない。


「……君が三女様?」

「三女だけど、それが何か?」


 ぶっきらぼうに三女様は言う。


「あ、いや。えっと。実は三女様に……。」

「アキ。」

「あ、アキさんにお話が……。」

「いつまで寝てるの? いい加減起きたら?」

「あ、いや。えっと……。」


 クリフは、目を見開いたまま、ぽつりと素直な感想を述べた。


「絶景だな、と。」

「私が見た中で一番の空を映してるから。」


 実は、違う絶景がクリフには見えていたのだが、言ったら殺されかねないので、それは口にしないまま、むくりと身体を起こす。

 ミニスカートで人の上に立つべきでは無いのだ。

 しかし、とクリフは改めて正面から三女様、アキを見る。


 何故、魔女なのに学生風なのか。


 どこかの学校の制服にも見えるブレザーにミニスカート、校則を守っていそうな白のハイソックスに黒のローファー。

 足元は涼しそうなのに、何故か縞々マフラーを巻いて、そこに無愛想な美少女面を乗せている。

 そして、縞々柄である。何がとは言わない。ゲームオーバーになるからだ。


 何故か仁王立ちのアキは、腕を組みながら睨んでくる。視線は怖いが可愛い。


「で、話って何?」

「じ、実はフユさんに連れて来られてしまいまして……。」

「何で畏まるのよ。普通に話せば。さん付けとか要らないし。……ていうか、フユが? ……何だそっちか。……じゃなくて。あー、分かった。皆まで言わないで。ったく、フユの奴、何やってんだか……。」


 ぶつぶつと、不機嫌そうに、腕を組んだまま、とんとんと爪先で地面を叩き、アキは不機嫌そうに唸る。気を悪くした、という訳ではないらしい。

 どうやら、クリフの身に起きたことについて、真剣に考えてくれているらしい。やはり、ぬいぐるみ達が言っていた通り、彼女は真面目に助けになってくれるらしい。

 整理がついたようで、アキはふぅ、と不満げに息を吐き出し、再びクリフを睨み付けた。


「……クリフはフユに連れて来られた。望んで来た訳じゃないから此処から出たい。そこで……これは、フユのぬいぐるみに教わったってとこ? 私を頼って此処まで来た。合ってる?」

「うん。合ってる。」


 溜め息をついたアキの目が、心なしか優しくなった。


「妹が迷惑掛けたね。」


 そして、すぐに険しい表情になった。


「……それで、何で私に頼るのよ。普通、あんな怪しいぬいぐるみの言う事信じる?」

「あれ、迷惑だった?」

「迷惑とかじゃなく。一応言うけど魔女よ、私? ……気にしないなら良いんだけど。」


 全く声が聞こえず、喋るカエルに代弁させるフユと比べると、アキは少し棘があるが、クリフにとっては話しやすい相手であった。魔女とは思えない、普通の女の子と話しているような感覚である。

 ただ、ちょくちょく本当に面倒臭そうに「はぁ。」と強く溜め息をつかれるので、クリフは申し訳なさそうな気持ちにさせられる。


「……最短で出られる方法と、面倒で危なくて手間が掛かる方法と、どっちが聞きたい?」


 またしても深い溜め息の後に、唐突にアキは言った。

 そう聞かれたなら、クリフは当然こう答える。


「最短の方法で!」


 へえ、とアキは一度視線を横に逸らしてから、「分かった。」と小さく頷いた。


「魔女と婚約しなさい。」

「魔女とこんや……え?」


 思わぬ答えに、クリフは絶句した。




 To Be Continued...




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