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仲間と鎧と

 天気の良いある日の事。

 今日は魔物と出会う事もなく、マリィと二人、のんびりと街道を歩いていると、


「お待ちなさい!」


 道行く僕達へと声が掛かる。


「この声は……」

「……ちっ」


 マリィが舌打ちした気がしたけど、気のせいだと思いたい……。

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはやはり見覚えのある人物が。


「やっと見つけましたわよ!」


 豪華な黄金の髪をたなびかせて、こちらへと近づいてくる女性。


「やぁ、レイラさん。お久しぶりですね」


 その女性の名はレイラ。

 王様から旅の供として指名された騎士なのだけど、


「お久しぶり、じゃありませんわよロイウスさん! これで私を置いていくのは何度目ですか!?」


 そう、旅の供だというのに、ここ数日彼女とは別行動だった。

 マリィが、前の街に彼女を置いてきたからだ。


「どうして私を置いていくのですか、ロイウスさん!」

「……そうは言われても、僕はマリィに敵わないですし……」


 僕とて、好きでレイラさんを置いていった訳ではない。

 ただ、寝ている間に簀巻(すま)きにされたり、マリィに力尽くで運ばれては、僕に抵抗の手段はないのだ。


「まぁいいですわ。貴方もあの女のせいで苦労しているようですし」


 豊かな髪をかき上げ、矛先を納めるレイラさん。

 陽の光を浴びた縦ロールが、綺麗に揺れる。


「さて……」


 ぼくから視線を外し、彼女が次に目を向けたのはマリィだった。


「勇者様? 私、色々と言いたい事があるのですけれど?」

「私も、一言だけあるわ……ロイと私の、二人きりの時間を邪魔しないで」

「それは出来ない相談ですわ、私は陛下の命令で動いておりますので」


 二人の間で、火花が散る。

 この二人は顔を合わせるといつもこうなんだから……。


「それに私が一緒に居るのは、貴女が不甲斐無いせいでもありますのよ?」

「……」

 

 レイラさんの一言に、マリィの言葉が詰まる。

 レイラさんの言っている事が事実だからだ。

 彼女が付いてくる原因の一つに、マリィは関係している。

 それは……。


「貴女が、この鎧を着こなせないからいけないのですわ」


 レイラさんが着ている鎧。

 それは昔、王家が神様より預かった物であり、本来は勇者が着るべき物だった。

 それを、選ばれた勇者のはずのマリィが着れなかったのだ。

 そして代わりに選ばれたのが、レイラさんだった。


「別に……そんな鎧着れなくていいもの」

「あら? 勇者様ともあろう御方が、負け惜しみですの?」


 勝ち誇り、笑みを浮かべるレイラさん。

 だが、 


「そんな……そんな露出狂みたいな鎧なんて着れなくていいもん」

「なっ!?」


 マリィの反撃の一言に、レイラさんがショックを受けたように固まってしまう。

 そう、レイラさんが身に着けている鎧は、身体を覆っている部分よりも、肌を露出している部分の方が多い。

 胸や腰といった大事な部分はしっかりと隠しているが、あまりお子様に見せてはいけないような格好なのだ。


「こ、これは代々の勇者が着た、由緒正しい鎧なのですよ!? そんな目で見てはいけません!」


 慌てて手で身体を隠そうとするレイラさん。

 平然としているから、そこら辺の感覚がおかしいのかと思ったけど、どうやら恥ずかしいのを我慢していたようだ。

 いつも自信満々にしているレイラさんが、頬を赤くして恥ずかしがっている姿には、何とも言えない可愛らしさがあった。


「ロイ? 何でにやけた顔をしているの?」

「な、何でもないよ、マリィ」

 

 寒気がするような瞳でマリィに見詰められ、僕は慌てて顔を引き締める。


「ロ、ロイウスさんも、そんな不埒(ふらち)な目で私を見ないで下さい!」


 確かにレイラさんの言う通りだ。

 女性を、そんな目で見てはいけないよね。


「すみませんでした、レイラさん」


 僕はレイラさんへと頭を下げる。

 とは言え、僕も男だ。

 綺麗な女性がそんな格好をしていれば、ついつい目が行ってしまう。

 レイラさんは今、自分の身体を隠すように両腕で抱き締めている為、只でさえ豊かな胸が強調されてしまっているし……。


「……(ゴクリッ)」

「ロ、イ?」


 背後から冷たい声が掛かる。


「どこを、見ているのかな?」


 いつの間にか背後へと回ったマリィが、僕の肩へと手を置く。

 それが僕には、死神の鎌のように感じられた。


「ぼ、僕は鎧を見ていただけで、べべべ別にレイラさんの胸なんて見ていないよ?」

「……」


 し、しまった! 恐怖のあまりつい本音が……!

 それに、マリィに胸の話は……。

 

「そう……ロイも、大きな胸が好きなのね」

「だ、大丈夫だよマリィ。キミはまだ成長途中なんだ。胸もそのうち大きく……」


 実はマリィの胸は、同年代に比べて少々、いや、かなり小さい。

 そして、それが鎧を着れない理由でもあった。

 彼女のささやかな胸では、スタイルが合わなかったのだ。


「そう……最期の言葉は、それでいい?」

「た、助け……」


 僕が最後に目にしたのは、女神様のように、優しく微笑むマリィの顔。

 そして、笑顔で振り下ろされる、断罪の刃だった……。


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