少女の悩み
「ヒィィッ!? 化け物め!」
僕たちを襲ってきた山賊が、恐れをなして逃げ去っていく。
旅の途中にある脅威は、魔物だけじゃない。彼らのような荒くれ者達もいるのだ。
戦いを終えたマリィが、こちらへと戻ってくる。
心なしか、その表情は暗い。
それはそうだろう。魔物ならばともかく、人間を相手にしたのだ。
その胸中は計り知れない。
「マリィ……」
こういう時、僕は神様を恨んでしまう。
何故、マリィに力を与えたのか。
何故、僕に力を与えてくれなかったのかと。
僕が戦えれば、マリィにこんな辛い思いをさせなくて済むのに。
「大丈夫かい、マリィ?」
「ロイ……」
僕の呼びかけに、こちらを見つめてくるマリィ。
そして一言、
「……お腹空いた」
空腹なマリィの為に、僕は急いで料理を用意する。
そうですよね! あれだけ激しく動けば、お腹も空きますよね!?
半ば、自棄になりながらも料理を作り、マリィへと差し出す。
今日の料理は、鍋で作った簡単なスープとパンだ。
途中でマリィが、謎の物体を投下しようとしたけど何とか阻止した。
あのゲモゲモ叫んでいた物体は何だったのだろうか……。
「……美味しい」
僕の作ったスープに、マリィも満足してくれたようだ。
あの物体を入れてたら、そんな味にはならなかったんだからね?
マリィの満足気な顔を確認し、僕も自分のスープへと口をつける。
うん、いい味だ。これなら僕の命も大丈夫だろう。
自分の作ったスープに満足していると、
「ロイ……私って、化け物なの?」
マリィの言葉に、僕は食事の手を止めてしまう。
「さっきの山賊が言っていた事かい?」
「……うん」
マリィは弱々しく、頷く
「私は……小さい頃から、みんなに距離を置かれていたし、王様だって、私に怯えていたよね?」
みんなに距離を置かれていたのは、君が色々と無茶をするからだよ?
王様が怯えていたのは、君が色々と無茶をしたからだよ?
「ロイだけだよね。小さい頃から一緒に居てくれたのは」
「……そうだね」
親同士の仲が良かったからね。母さんにも、面倒を見るように言われてたし……。
「だけど、私は凄い力を手に入れて、人を傷つけて……こんな化け物じゃ、ロイも嫌いになっちゃうよね? 私と一緒に居たくないよね?」
「そんな事ないよ」
マリィの言葉に、僕は即答する。
「マリィ、キミは化け物なんかじゃないよ。確かに、キミは凄い力を手に入れたけど、それで無闇に人を傷つけたいとは思っていないだろ?」
確かにマリィは山賊達を撃退した。
だけど、彼らに死ぬような大怪我を負わせてはいない。
「……うん」
「だったら大丈夫だよ。キミは化け物なんかじゃない。それに、キミが優しい娘だっていうのは、僕が良く知っているしね」
「……」
僕の言葉に、顔を赤くするマリィ。
どうやら照れているようだ。
「だから安心して。僕はずっと一緒に居てあげるから」
「……うん」
マリィの顔に笑顔が戻った。
やっぱりマリィは笑っている方がいい。
「さぁ、話してたらお腹が空いちゃったよ。食事を再開しようか」
そこでふと、自分の器を見たら、スープがもう少なかった。
「貸して、ロイ。よそってあげる」
「ありがとう、マリィ」
マリィが鍋からよそってくれたスープを受け取る。
もう冷めてきており、ぬるくなり始めているスープ。
だけど、そのスープにはマリィの温もりが感じられ、僕には温かく思えた。
「じゃあ、いただきま……」
すと言おうとしたが、言葉が途中で止まる。
何故なら、スープの中にゲモゲモと叫ぶ謎の物体を発見したからだ。
何故、コイツがここに!?
震える身体をどうにか動かし、マリィの方へと視線を移す。
「……マリィ?」
「美味しそうでしょ? 遠慮しないで、食べて?」
マリィが優しい笑顔で、勧めてくれる
そう、悪い娘ではないのだ。
ただちょっと、感覚がズレているだけで……。
マリィの笑顔に、僕は全てを諦めた。
その後の事は、よく覚えていない……。