表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

混乱の城内とメイドさん

 城の中へと通された僕とマリィは、客室へと案内され、そこで暫く待つように言われた。


「本当だったら早く王様の所へと案内して欲しいんだけど、仕方ないよね」


 王城の中に拵えられた客室は、それはもう立派な物だった。

 床には踏むのも躊躇(ためら)う程の綺麗な絨毯が敷かれており、その上には豪華な長椅子と机が備わっている。

 部屋の隅に置いてある燭台や、部屋の扉なども意匠が凝らされており、正直、小心者の僕としては居心地が悪かった。

 その扉の外からは、慌ただしい物音が聞こえてくる。


「先程の鐘は何だっ!? 魔物の襲来か!?」

「慌てるな、馬鹿者共! こういう時こそ冷静に対処するんだ!」


 これが、僕達がこの部屋で待たされている理由だ。

 さっき鳴らされた警鐘のせいで、城内は今、大混乱に陥っている。


「全員、準備は整ったか!? よし! それでは魔物の討伐に向かうぞ!」

「いえ、隊長! 現れたのは勇者だそうです!」

「ゆ、勇者だとぉ!?」


 隊長と呼ばれた人物の、動揺した声が聞こえる。

 まぁ、そうだよね。警鐘が鳴らされた理由が、勇者だとは思わないよね。


「お、落ち着け、冷静になれ。冷静に考えるんだ。今、何をすべきかを…………よし! すぐに逃げるぞ、お前ら!」

「了解しました、隊長!」


 うん、やっぱりだいぶ混乱しているみたいだ。

 そうじゃなきゃ、兵士が逃げるなんて言わないだろうから。


「早く混乱が治まるといいんだけどなぁ」


 チラリと、僕は隣りへと視線を向ける。

 そこにあったのは、椅子に座ったマリィの姿。

 先程までは、出されたお茶菓子を上機嫌に食べていたのだけれど、お菓子がなくなった今は……。


「…………」


 無表情なまま、まったく動かないマリィ。

 だけれど、僕には分かる。彼女の不満が、徐々に溜まってきている事が。

 

「………………(イラッ)」


 誰かっ! 誰か早く来てくれないかなっ!? このままじゃマリィが! マリィが暴走しちゃうっ!

 そんな僕の心の叫びが届いたのだろうか、客室の扉がノックされる音が聞こえた。


「っ! はい! どうぞ!」

「失礼します」


 部屋へと入ってきたのは一人のメイドさん。

 表情はキリッとしており、仕事の出来る女性って感じの人だ。

 

「お待たせしてしまい、大変申し訳ありません。勇者様達を案内させて頂く、セラと申します」


 自己紹介と共に、綺麗にお辞儀をするセラさん。

 その仕草もきびきびとしており、思わず感心しそうになる。


「これより、玉座の間へとご案内させて頂きます。どうぞこちらへ」

「ありがとうございます! 助かります!」


 この空間から解放される喜びのあまり、少々大袈裟に反応してしまった。

 そんな僕の態度に、セラさんは少し首を傾げたけれど、何事も無かったように部屋の外へと向かい、歩き出した。






 玉座へと向かう通路を歩く僕達。

 そんな僕達を見る衛兵達の態度は様々だった。

 怯えたように目を逸らす者。柱の陰へと隠れる者。そして、突然、神へと祈りだす者。


「ここまで怯えられると……何だか申し訳ないなぁ」


 マリィが暴れたのが、よほどトラウマになっているのだろう。

 そんな彼らの態度に対し、マリィは平然としていたけど、セラさんは思う事があったみたいだ。


「不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」


 自分が悪い訳でもないのに、僕達に頭を下げてくる。


「いえいえ、マリィにも原因がある訳ですし、仕方ない事だと思いますよ」

「そう言って頂けると助かります」


 ホッとしたような表情で、頭を上げるセラさん。

 そう言えば、この人は僕達に対して普通に接しているな。

 マリィの事が怖くないのだろうか?


「あの、マリィの事が怖くないんですか?」


 不思議に思って、つい聞いてしまった。

 そんな僕の質問に、セラさんは表情も変えずに答えてくれる。

 

「魔物を倒し、人々の平和を守ってくれる勇者様に対して、感謝こそしても怖がる理由はないと思いますが?」

 

 確かに、本来であればそれが普通だとは思う。

 ただ、今回は勇者(マリィ)が普通じゃないから、まぁ仕方ないよね。 

 そんな風に僕は思っていたのだけれど、セラさんの言葉はそこで終わりはしなかった。

 

「それなのに……衛兵達ときたら、勇者様に少し稽古をつけて貰っただけで、あのような態度を……」


 え? 少し? 稽古? 

 あの時のマリィの暴れっぷりは、その程度の言葉で済むのだろうか?


「まったく……この城の男共は、主も含めて情けない者ばかりです」


 あれ? 主って、王様の事だよね? この人、今……王様の事を(けな)さなかった?

 まさか、そんな事は……。

 

「さ、早く玉座の間に参りましょう。少し急がないと……逃げてしまうかもしれませんので」

「……ええ、分かりました」


 誰が、というのは聞かなくても分かった。

 そして、同時に理解もした。

 ああ、この人も、普通の人とは少し違うのだと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ