表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

あの鐘を鳴らすのは

 僕達の身体を包んでいた光が消え、周りの景色が鮮明になってくる。


「この景色……やっぱり都会は凄いなぁ」


 目の前に見えるのは、賑やかな街並み。

 活気に溢れた街の中心部には、立派な建物もが建っているのも見える。


「ロイ、早く早く」


 隣りにいたマリィが、待ちきれないとでもいうように、僕の袖を引っ張る。


「そんなに慌てなくても大丈夫だよ、マリィ」


 今日は、マリィと約束したデートの日。

 僕たちは今、他の仲間達と別れ、二人で息抜きに来ていた。

 

「それにしても、転移の魔法は凄いね。歩けば何日も掛かる道を、一瞬で来れるんだから」


 やはり、転移の魔法は便利だ。

 遠くの場所であろうと、一瞬で来れるんだから。 

 僕の言葉を聞いていたのだろう、マリィがえっへんと胸を張る。

 そんな彼女の姿に、つい笑みがこぼれてしまう。


「それじゃあ、そろそろ行こうか。デートの前に、用事だけは済ましておかないとね」


 そう言って、僕は歩き出した。

 街の中心にそびえる、立派な建物。

 王城へと向かって。

 





「せっかく息抜きをするのであれば、やっぱり王都がお勧めだと思いますわ。お店も多いですし、色々な地方から珍しい物も集まってきますから」


 僕とマリィが出掛ける場所を相談している時に、そうアドバイスをくれたのは、レイラさんだった。


「確かに、王都は良いかもしれませんね。マリィに転移の魔法を使ってもらえば、移動もすぐにできますしね」

「そうでしょう。それに、せっかく王都に戻るのであれば、王様へも挨拶してきては? 旅に出てから一度も戻ってはいないのでしょう? 王様も旅の報告を聞きたいはずですわ」


 いや、それはどうだろうか……。

 あの王様は多分、マリィには戻ってきてほしくないと思っているんじゃないかな?

 とはいえ、王都まで戻っているのに、王様の所へと挨拶に行かないのも、おかしな話なのかもしれない。


「分かりました。せっかくですし、王様にも挨拶してきます」


 と、いう訳で、僕達は今、王城を目指して歩いているのだ。

 王城へと続く大通り、そこには色々な店が連なり、多くの人々で賑わっていた。

 店頭に置かれている様々な品物に、マリィも目移りしているようだ。


「ロイ、ロイ! あれ、美味しそう!」


 僕の袖を強く引っ張り、おねだりをするマリィ。


「我慢してね、マリィ。まずは用事を済ませないとね」

「……むぅ~」


 彼女の拗ねた様子に、苦笑いしてしまう。


「用事を済ませたら、気が済むまで遊ぼうよ、マリィ。だから、それまでは我慢してね」

「……分かった。ロイがそう言うなら」


 マリィは少し残念そうにしていたけど、何とか納得してくれた。

 さて、急いで王様との謁見を済ませないとね。





 

 店が建ち並ぶ通りを抜けた先、そこには大きくて立派な城門が、王城を守るようにそびえ立っていた。


「待ちなさい、そこの子供達」


 城門を潜り、王城へと入ろうとした僕達は、両端に立っていた門番に呼び止められてしまう。


「ここから先は、王様の住まうお城だ。許可のない人は入ってはいけないんだよ。分かったら、街へと戻るんだ」

「いえ、僕達は……」


 勇者の一行であり、王様に挨拶に来たのだと、そう説明しようとした矢先、


「おい、待て! その少女は……まさか……!?」


 門番の片割れが、顔を青ざめさ、震え始めた。

 どうやらあの門番は、マリィの事に気が付いたみたいだ。

 面倒な事に……なるんだろうなぁ……。


「どうしたんだ、お前? この少女が、何か……」


 もう一人の門番も、マリィの顔を改めて確認して気が付いたようだった。


「ま、まさか! ゆ、勇者!? 勇者なのか!?」


 その反応は勇者に対してどうなのだろう? と思わなくもないけど、前に来た時に、あれだけマリィが暴れたのだ。

 まぁ、仕方ないよね。


「や、やっぱりそうだ! 惨劇の勇者だ!」


 何だか妙な称号(二つ名)まで付いてるし!?

 まぁ、仕方ない。仕方ない……よね?

 

「あの……」

「ひ、ひぃっ!? 何の用だ!? あ、いや、何の御用でしょうか!」


 軽く声を掛けただけで、怯えた様な態度を取る門番達。

 マリィは平然としているけど、さすがに僕は居たたまれない気持ちになってしまう。


「実は、王様に挨拶に来たのですが……ここを通してもらう事はできるでしょうか?」


 早々に用事を済ませてしまおうと、こちらの要求を彼らに伝えたのだけれど、


「そ、それは……王様に許可を頂いてこないと……」


 困った事に、彼らはすぐに首を縦には振らなかった。

 まぁ、彼らは門番だし、それが当然の事なのかもしれない。

 だけど、あの王様が惨劇の勇者(マリィ)に謁見の許可をくれるだろうか?


「いや、くれないだろうなぁ……」


 どうしたものかと、僕が悩んでいると、

 

「ねぇ、ロイ? まだなの?」


 今まで黙っていたマリィが、口を開いた。


「まだ、用事は済ませられないの?」


 その声には、確かな感情が込められている。

 それは、苛立ちだ。

 どうやらマリィは、早く街へと遊びに行きたいらしい。


「ごめんね、マリィ。この門を潜って、王様に会わないといけないんだけど、まずはその許可を貰わないとね……」


 僕がそう説明すると、マリィはゆっくりと門番達の方へと振り向き、静かに言い放った。


「通って、いいわよね?」

「……マリィ、それはいくらなんでも無茶だよ。彼らは王様の許可を貰わないと……」

「た、ただいま城内へとご案内させて頂きます!」 


 あっれ!? 許可出ちゃったよ!?

 あれ? 王様の許可は!?


「おい! すぐに城内へと知らせに走るんだ!」

「ああ、分かった!」


 僕が動きを止めている間に、慌てて城内へと走っていく門番の一人。

 そして少しして、けたたましい鐘の音が、お城の中から響き始めた


「……すみません、あの鐘って確か……」

「勇者様歓迎の鐘を、鳴らしているのであります!」


 いや、違うよね!?

 確かあの鐘は、魔物の襲来とか、非常事態に鳴らすものだよね!?

 現に城内からは、慌ただしい物音と、悲鳴や怒号が聞こえてきているし……。


「勇者様! どうぞこちらへ!」


 だけどそんなのは関係ないとばかりに、城内へと案内する門番。


「ロイ、早く行こ?」


 そして平然と付いて行くマリィ。


「……うん、そうだね。行こうか、マリィ」


 もうどうにでもなればいいや。

 そんな投げやりな感情と共に、僕も王城へと入るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ