質問:登場人物が増えると、減るものとは? 答え:それぞれの出番
「ロイは最近、私にあまり構ってくれてないよね?」
「え? そうかなぁ?」
急に投げかけられたマリィの疑問に、僕は首を捻ってしまう。
僕としては、充分以上にマリィに構っているつもりなのだ。
それに何より、
「そもそも、僕達の冒険は半年くらい進んでいな……ムグゥッ!?」
マリィと話していた僕の顔へと、突如として飛び付いてきたスラたん。
「フムゥッ!? ムガァッ!?」
顔全体を覆われ、息が出来なくなった僕は、慌ててスラたんを引きはがす。
「ぷはあっ! ちょっと、スラたん!? いきなり飛び付いてこないでよ!? いったいどうしたの!?」
引きはがされたスラたんは、全身をプルプルと震わせ、再び僕の口を塞ごうとしてくる。
まるで、それ以上言ってはいけないとでもいうように。
「本当にどうしたんだい、スラたん?」
なぜスラたんがそこまで必死になっているのか、僕には分からなかった。
もし大事な事であれば、聞いておかなければいけないと思ったのだけれど、
「……ほらね、何かあると、すぐにロイはスラたんに構うんだもの」
拗ねたようなマリィの声が、僕の行動を中断させた。
「あの魔法使いだってそう、魔法を教えるからって、いつもロイと一緒にトレーニングをしてるし」
「あー、そう言われれば確かにそうかも……」
旅の途中で加入した超不思議生命体と筋肉魔法使い。
あの二人に構っているせいで、確かにマリィに構っている時間は減ってしまったかもしれない。
「それに、レイラの事をいつもいやらしい目付きで見ているし」
「い、いつもじゃないよ!? たまに! たまにだからね!」
けれど、それも仕方ないと思うんだ!
綺麗なお姉さんが、あんな露出度の高い鎧を身に纏っていたら、誰でも目が釘付けになると思うんだよね!
特に、スラたんに纏わりつかれた時のレイラさんの姿といったら…………。
「! いけない! これ以上はまずい!」
「……どうかしたの、ロイ?」
ハッと我に返った僕に、いつも通りに話し掛けてくるマリィ。
だけどその手が剣の柄へと伸びているのを、僕は見逃さなかった。
「何でもない。何でもないんだよ、マリィ」
九死に一生を得た僕は、内心で安堵の息を吐く。
「まぁ、言いたい事は分かったよ、マリィ。それで? キミはどうしたいんだい?」
「私と二人きりで旅をして、ロイ」
……やっぱりそういう要求になるのか。
まぁ、レイラさんが旅に加わる時も、あれだけ抵抗していたマリィだ。
今日まで良く我慢した方だと思う。
「あのね、マリィ。キミの願いは出来る限り叶えてあげたい」
僕としても、マリィの嫌がる事はなるべくしたくはない。
「だけどね、レイラさん達は悪い人達ではないし、これからの事を考えると、やっぱり仲間はいた方が良いんだよ」
僕達の旅の目的は、魔王を倒す事だ。先へ進むにつれ、危険も多くなる。
マリィがいくら強いとはいえ、やはり一人よりも、頼りになる仲間がいた方が良いだろう。
それに良く考えてみれば、約一名(?)はマリィが連れてきたようなものだしね。
「むー……」
自分のお願いを聞いて貰えず、マリィが頬を膨らませる。
その可愛らしい姿に、思わず彼女のお願いを聞いてあげたくなったけど、さすがにそれは出来ない。
「仕方ないなぁ、マリィは。じゃあ今度、二人でどこかに出掛けようか」
だから、代わりの提案をする。
二人きりで旅をするのは無理だけど、息抜きに出掛けるくらいは良いだろう。
「デート?」
僕の提案を聞いたマリィの顔が、明るくなる。
まぁ、男女二人きりで出掛ける訳だし、デートといえばデートなのかな?
とはいえ、マリィとは子供の頃から二人で出掛けてばかりだし、今さらな感じもするけど。
「ロイとデート? 本当に?」
だけど、マリィにとっては嬉しい事のようだ。
念を押すように、何度も確認してくる。
だから僕も、笑顔で頷き返す。
「ああ、本当だよ」
花が咲くように、笑顔になるマリィ。
そんな表情をされると、僕も出掛けるのが楽しみになってくる。
ただ、一つ問題があるとすれば、
「……どうやってレイラさんの許可を貰うか、だよね」
マリィには、レイラさんを置いてけぼりにし、逃げたした前科が何度もある。
だから、今回の別行動をレイラさんが許してくれるのは難しいと思っていたのだけれど、
「それくらいだったら構いませんわよ」
「良いんですか?」
「ええ、マリィベルさんも嬉しそうにしていますし、止める理由もありませんわ」
レイラさんは意外なほど、あっさりと許してくれた。
「マリィがまた逃げるとは、考えないんですか?」
「それは大丈夫でしょう」
おお、どうやらレイラさんはマリィの事を信用して
「ロイウスさんの事は信用しておりますし、例えマリィベルさんが逃げたとしても、スラたんがいればどうにかなるでしょう。あの子なら、匂いとか気配とかを探って、追跡できそうですしね」
は、いなかったらしい……。
今までのマリィの行動を思い返せば、当然の事だと言えば、当然の事だけど……。
「さすがにスラたんでもそんな事は……」
いや、待て。スラたんなら出来るかもしれない。
何せ、あの超生物は何でもありなのだから。
「いい、スラたん? 適当な所であの二人を撒いてくるのよ? 合流するのは、その後で、ね?」
マリィも、スラたんが追跡可能だと分かっているようだ。
僕達から隠れるように、こっそりとスラたんに話し掛けている。
まぁ、内容は筒抜けなんだけどね。
「……信頼していますわよ? ロイウスさん」
「ええ、まぁ……頑張ります、はい」
こうして、僕とマリィはデートへと出掛ける事になったのだ。