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仲間になりたそうな顔で見ているそうです

 僕の目の前で、次々と魔物達が倒されてゆく。

 倒しているのは、勇者の少女マリィベル。

 彼女は鮮やかな手並みで、次々と魔物を切り裂いてゆく。

 それはまるで、剣舞の様だった。




 魔物の群れがいなくなったのを確認して、マリィが剣を納める。

 多くの魔物を倒したはずなのに、マリィは汗一つ掻いていない。


「お疲れ様。マリィはやっぱり凄いね」


 戦闘が終わったのを確認して、マリィへと声を掛ける。

 残念な事に、僕の戦闘能力は低い。

 悔しいけど、戦闘はマリィに任せるしかないのだ。


「マリィ? どうかしたの?」


 僕が声を掛けても、マリィが反応しない。

 草むらをじっと見つめて、微動(びどう)だにしないのだ。


「そこに何かあるの?」


 声を掛けつつ、マリィの(そば)へと近付く。

 そして僕の目に映ったのは、


「……スライム?」


 一匹のスライムだった。




 スライムはこちらの様子を(うかが)いつつ、ゆったりとした速度で草むらから出てくる。


(スライムは、魔物の中でも弱い方だ。それに、隣りにはマリィもいる。襲われる心配はないかな……)


 内心ビクビクしながら、スライムの動きを見つめる。

 スライムはマリィの前まで来ると、その動きをピタリと止めてしまう。


「……(ジーッ)」


 そして、見詰め合う二人(?)


「ロイ……」

「どうしたの、マリィ?」

「このスライム、飼っていい?」

「はぁ!?」


 マリィのトンデモ発言はいつもの事だけど、今日のはまた予想の斜め上を行く発言だ。


「どうして急にそんな事を……」

「この子が仲間になりたそうな顔で、こちらを見ているの」

「顔ないよね!?」


 スライムは全体的にブヨブヨしているアレだ。動くゼリーと言ってもいい。

 そんなゼリーに顔なんて……。


「って、顔作ってる!?」


 スライムが形状を変え、人間の顔らしき形になっている。

 そしてその顔は、捨てられた子犬の様な目で確かにこちらを見ているのだ。


「ねぇ……ちゃんと毎日散歩するし、エサもあげるから……ダメ?」

「いやいやいや!? そんな犬を飼う感覚で魔物をペットにしちゃダメだってば! そもそも旅をしているんだから、散歩なんて必要ないでしょ!?」


 スライムと一緒に、泣きそうな顔でこちらを見てくるマリィ。

 ああ、もう可愛いなぁ。面倒見るって言ってるし、一匹くらいやいや、何を流されかけてるんだよ僕は!?

 近くの樹へとヘッドバッドを叩きつけ、正気を(たも)つ。

 マリィに不思議そうな目で見られたけど、問題ない!


「頭……大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。ちょっと視界が真っ赤になってるけど、問題ないよ」

「そうじゃなくて……頭の中、大丈夫?」

「それはマリィに言われたくはなかったかな!」


 ショックだ……あのマリィに脳の心配をされるなんて……。

 マリィの会心の一撃に、僕の精神は瀕死状態だよ……。


「薬草、飲む?」

「雑草はもういいよ! むしろ追加ダメージが入るから止めて!」


 もう大地の味はゴメンだよ! 最近は普通の野菜まで怖くて食べれないんだから!

 マリィから渡された雑草を、さり気なく道へと投げ捨て、話しを戻す。


「あのねマリィ、キミは勇者なんだ。その旅は常に危険が付きまとう。実際、僕だって何度も死にかけているんだし」


 そう、この旅で僕は何度も死にかけている。

 マリィが薬草だと言って渡してきた、猛毒の草で死にかけたりとか。

 マリィが美味しそうだと言って、鍋に勝手に入れた毒キノコで死にかけたりとか。

 ……あれ? おかしいな? 僕が死にそうになりかけているのはいつもマリィ関連だ……。

 魔物で死にかけた事? いや、マリィが瞬殺するから一度もないけど……。


「とにかく! この旅には常に危険が付きまとっている。そのスライムの為にも連れて行く訳にはいかないよ」


 そう、もうこれ以上、犠牲者を出す訳にはいかないんだ。

 マリィによる犠牲者を……。


「……分かった。ロイがそう言うのなら、そうする」


 マリィも納得してくれたようだ。スライムから離れていく。


「じゃあね、スラたん。元気でね」

「もう名前まで付けてたの!?」


 僕の驚きをよそに、マリィとスラたん(?)は別れを済ませる。

 スラたんはその体を大きな手へと変え、僕らが見えなくなるまで手を振り続けた。




 数日後、襲ってきた魔物の群れを撃退し、マリィが剣を納める。

 

「ゴメンね、いつもマリィにだけ戦わせて……」


 そう話しかけたのだが、マリィに反応がない。

 嫌な予感がする……、

 急いでマリィの(そば)に駆け寄った僕が見たのは、


「……」


 草むらに隠れていた、見覚えのあるスライムだった。


「ねぇ、ロイ……」

「ダメだからね!?」



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