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魔法使いの使う魔法

 僕の目の前に、まるで鋼のような、筋肉の鎧を纏ったおじさんが迫る。


「さぁ少年よ。何でも言ってくれたまえ。何でも力になるからな」

「いえ、あの……」


 マッチョなおじさん、魔法使いのグレゴールと名乗ったその人の迫力に押され、僕は後退(あとずさ)ってしまう。

 僕達は優秀な魔法使いを仲間にする為にここまで来た訳だけど、本当にこの人を仲間にしていいんだろうか?


「ロイ、本当にこの人を仲間にする気なの?」

「マリィベルさん、私たちはその為にここまで来たんですのよ?」

「……貴女は本当にそれでいいの? 後悔、しない?」

「うっ……それは……」


 ほら、後ろの二人も躊躇(ためら)っているようだしさぁ……。


「あの、グレゴールさんは魔法使いなんですよね?」

「そうとも少年。どこからどう見ても魔法使いだろう?」


 いえ、すみません。どう見ても魔法使いには見えないです。

 どちらかと言えばウォーリアーとかバーバリアンとか、そういったものに見えるのですが……。


「えっと……それでですね……」


 どうしよう……この人を本当に仲間に誘っていいのだろうか?

 多分、頼めば100%付いて来てくれる気がする。

 そうなると、この暑苦しいグレゴールさんがずっと一緒に……。


「それは……なんか嫌だなぁ」


 とはいえ、ここまで来て何もしないで帰るのも……。

 あ、そうだ。 


「実は……僕達、転移の魔法を教わりたくて」


 悩む僕の脳裏に閃いたもの。

 それは以前マリィが教えて貰えなかった、転移魔法の事だ。

 覚えていれば便利なのは間違いないし、それを教わりにここまで来た事にすればいいのだ。

 魔法使いを仲間にする件に関しては……うん、今回は諦めて、また別の人を捜すとしよう。

 そうと決めた僕は、早速グレゴールさんに事情を説明する。


「成程、お嬢さんは勇者だったのか。それなら転移の魔法があった方が便利だね」


 うんうんと頷くグレゴールさん。


「いいとも、早速教えてあげようじゃないか」


 そう言って彼は、早速僕達へと転移魔法の指導をしてくれる。


「転移魔法が難しい魔法だというのは知っているかね? 普通であれば高位の魔法使いでしか扱えない魔法だ」


 その程度の知識は、魔法に疎い僕達にもあった。

 僕達が首を縦に振ると、グレゴールさんは満足したように話を続ける。


「もちろん、勇者のお嬢さんなら出来るとは思うが、時間が掛かるかもしれない。そこで、私が編み出したオリジナルの転移魔法を教えようと思う。こちらの方が簡単だし、楽だと思うからね」

「え? 自分で転移魔法を作ったんですか!?」


 本当だとしたら凄い事だ。

 元からある魔法を習うのとは訳が違う。

 魔法の効果や威力を一から計算し、呪文などを作り出さなければならないからだ。


「はっはっは、そんなに大したものではないよ。じゃあ、まずは手本を見せるからね」


 そう笑ったグレゴールさんは、近くにあった岩へと手を添えた。

 グレゴールさんよりも一回りほど大きな岩石。

 その岩石へと何をするのか見守っていると、


「ぬうんっ!」


 グレゴールさんはいきなり岩へと拳を叩きつけ、その岩を砕き始めた。


「えええええええっ!?」


 突然の奇行に、つい叫び声をあげてしまう。

 いや、素手で軽々と岩を砕いた事もビックリなんだけどさ……。


「ちぇいやあぁぁ!」


 そんな僕へと目を向けず、グレゴールさんは砕いた岩へとさらに手刀を叩き込み、その形を整えていく。

 見る見るうちに形を変えていく岩石。

 凄まじい速度で作り上げられたのは、一本の石の柱だった。


「よし、これで下準備は完成だ」


 満足気に頷くグレゴールさん。 

 ……おかしい。僕の聞いた事のある転移魔法には、あんな下準備は必要ないはず。

 そもそもあの柱をどうする気なのだろうか……。


「あの、グレゴールさん? その柱をどうする気なのですか?」


 僕と同じ疑問を抱いたのだろう。

 レイラさんがおずおずとグレゴールさんへと質問していた。


「なに、簡単な話だよ」


 レイラさんの質問に、ニコリと笑うグレゴールさん。


「この柱を目的地へと向かって投げ、その上へと飛び乗るんだ。そうすればすぐに目的地へと着くからね」


 …………。

 …………。

 いやいやいやいや! なに言っちゃってんのこの人!?

 自分で投げた柱に飛び乗るとか出来る訳……いやそもそも目的地まで柱をぶん投げるとかが無理だしそもそもそれは魔法はまったく関係ない気が……。


「あの……それは色々と無理なのでは?」


 レイラさんの言葉に、僕もぶんぶんと首を縦に振る。


「普通では無理かもしれないね。だけど、それが出来るからこその魔法使いなんだよ」


 白い歯を剥き出しにし、グレゴールさんは自信満々に笑う。

 確かに魔法は、普通の人には出来ない超常の現象を起こすものだけども、グレゴールさんの言っている事は何かが間違っている気がする。


「では、手本をお見せしようか」


 そう言ったグレゴールさんは柱を抱えあげると、


「ふんぬあぁぁぁぁぁぁ!!」


 全身の筋肉を(みなぎ)らせ、柱を空の彼方へと放り投げてしまう。


「とうっ!」


 そして目にも止まらぬ速さで、その上へと飛び乗ってしまった。

 

「はっはっは! 見たかね諸君!」

「……」


 もはやあまりの出来事に、言葉も出なかった。

 笑うグレゴールさんを乗せ、視界の彼方へと消え去っていく柱。

 今見たものを頭の中で整理してみたけど、全くもって理解できない。


「明らかに魔法じゃないよね……」


 グレゴールさんの一連の動きの中に、魔法と呼べるようなものは全くなかった。

 確かに普通の人には出来ないというか物理法則を無視した行動をしてはいたけど、あれを魔法と呼んではいけない気がする。

 いや、僕は魔法とは認めたくなかった。


「ロイウスさん、今のうちに山を下りませんか?」

「あ、そうですね! グレゴールさんも戻ってきませんし、ここに居ても仕方ないですよね! いやぁ残念だけど戻る事にしましょうか!」


 レイラさんの提案に、マリィも頷いているしね!

 僕達はどこかへと転移してしまったグレゴールさんが戻って来ないうちに、いそいそと山を下るのだった。


 その先でグレゴールさんが待ち構えているとも知らずに……。


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