新たなる仲間 ~魔法使い登場~
今回僕達は、普通の人達ならば近寄る事のない、険しい岩山の中へとやってきていた。
何故そんな場所へと来たかと言うと、
「本当にこんな山奥に、有能な魔法使いがいるのですか?」
そう、この山奥に、強力な魔法を使う、魔法使いがいるという話を聞いたからだ。
以前、魔法の重要性を確認した僕とレイラさんは、魔法使いを仲間に出来ないか検討していた。
そんな時にその魔法使いの話を聞いたので、仲間になって貰えるかどうか、訪ねに行くところなのだ。
「間違いないと思いますよ。近くの街で聞いた話だと、時々山から下りてくるようですし」
近くの街で話を聞いたところ、多くの人達から魔法使いの情報が得られたのだ。
この山に居る事は間違いないはず。
「それで、ロイ。その魔法使いはどんな人なの?」
若干不機嫌そうな顔でマリィが尋ねてくる。
今では受け入れているようだけど、彼女はレイラさんが付いてくる時も反対していた。
魔法使いを仲間に入れる事にも、本当は反対なのだろう。
「え~っと、魔法使いさんの特徴だね」
そんなマリィへと苦笑しつつ、僕は街で聞いた話を思い返す。
「性格的には悪い人じゃないみたいだよ。困っている人達がいると助けてくれるみたいだし」
街では、魔法使いに対する感謝の言葉が多く聞こえた。
どうやら困っている人間を放っておけない人のようだ。
「それと、魔法の実力も凄いみたいだね。魔法使いさんは、いつも信じられないような事を見せてくれて、驚かされる事が多かったってさ」
それだけ豊富な魔法を使えるという事だろうか?
使える魔法が多いのは実力の証でもある。
やはり優秀な魔法使いなのだろう。
「それと最後に……ナイスバディーって言ってたおばさんがいたなぁ」
うん、あのおばさんは気が良くておしゃべり好きなおばさんだった。
どちらかと言えば、おばちゃんという呼び方の方が合ってる気もする。
「とにかく、実力もある立派な人みたいだね。早く会ってみたいなぁ……」
今から会うのがとても楽しみだ。
けど、勘違いしないで貰いたい。
決して、ナイスバディーな魔法使いを見たいが為ではなく、純粋に、仲間になる可能性のある魔法使いに会いたいというだけであって……。
「ジー……」
「ロイウスさん? 顔がニヤケてますわよ?」
そんな僕へと、女性陣から怖い視線が向けられる。
「そ、それにしてもここは暑いよねー。僕、もう汗だくだよ」
急いで話を逸らすべく、別の話題を振ってみる。
「……まぁ、確かに暑いですわね」
「そうですよね! ですよね!」
話に乗ってきたレイラさんへと、すかさず追従する。
話を逸らす為に話題にしたけど、この辺りが暑いのは事実なのだ。
周りを見渡してみると、至る所で湯気が立ち上り、グツグツと音を立てている水たまりが、至る所に見えていた。
熱風が僕達へと絡みついてきて、びっしょりと汗をかかせる。
「スラたんは大丈夫なの? 暑くない?」
足元にいたスラたんへと聞いてみると、元気よく飛び跳ね、自分の健在ぶりをアピールしてきた。
確かスライムは熱や炎に弱かったはずなんだけど……まぁスラたんに常識は通用しないか。
逆にマリィは平然とした顔をしているものの、その額には玉のような汗が浮かんでおり、その動きも、いつもよりも鈍いように見えた。
「大丈夫かい、マリィ?」
「……うん」
若干遅れて戻ってくるマリィの答え。
少し頭がボーっとしているようだ。
常識外の力を発揮するとはいえ、やはりマリィも普通の女の子。
この暑さはさすがに堪えているのだろう。
そして最後の一人であるレイラさん。
彼女の装備は王国に伝わる伝説の鎧。神の加護が宿っているとも呼ばれている物。
その強大な防御力に反して、鎧が覆っている部分は胸部と腰の辺りといった、とても肌色成分が多い、涼し気な格好だ。
しかし、そんな彼女の鎧でも、熱さを完全に防ぐ事は出来ないらしい。
レイラさんの美しい肌にも、びっしりと汗が浮かんでおり、何とも言えない艶めかしさを醸し出して……。
「ロイ?」
カチャリという音と共に、僕の首筋に冷たい物が当てられる。
「何を、見ていたのかしら?」
おかしい。さっきまでの暑さはどこへ行ったのだろう?
今はあまりの寒さに、体が震えて仕方ないや……。
「な、何も見てないよマリィ? だから……お願いだからその剣を仕舞ってくれないかな?」
「……」
暗い瞳で僕の事を見詰めていたマリィは、素直に剣を納めてくれた。
その動きに、先程まで見せていた緩慢さはない。
さっきまでボーっとしていたのが嘘のようだ。
「二人とも何を遊んでいますの? 早く先に進みますわよ」
「……はい」
そんな僕達に気付かなかったレイラさんの呼び声に従い、僕達は山頂へと進むのだった。
暑さに耐えながら進んだ僕達は、遂に頂上付近へと辿り着いた。
ゴツゴツとした岩ばかりが転がっている、荒涼とした風景の中、ポツリと一軒の小屋が建っているのが、僕らの目に映る。
「あれが魔法使いの居る家?」
「多分そうだと思うよ」
こんな辺鄙な場所に家を建てる物好きが、そんなにいるとは思えない。
あの家は、街で聞いた魔法使いの家で間違いないだろう。
「では、早速行ってみるとしましょうか。……私達の仲間になってくれると良いのですが」
流れ出る汗を拭いつつ、僕らは家の前へと移動していく。
間近で見る小屋は、至る所が傷んでおり、周りの環境も相まって、あまり人が住むには適してないように見えた。
「何でこんな所に住んでいるんだろうね?」
「魔法の修行か何かでしょうか?」
何でこんな場所へと住んでいるのか考えてみたけど、結局はよく分からなかった。
「まぁ、その辺の事も聞いてみればいいか」
せっかく目の前まで来ているのだ。考えていても仕方ない。
僕は考えるのを止め、目の前の扉をノックする。
少し間が空いたあと、
「おや? こんな場所まで来るなんて、どちら様かな?」
僕達の訪問を不思議がる声と共に、中から扉が開かれる。
そして僕は、思わず目を見開いてしまった。
まず、僕の視界へと飛び込んできたのは、見事な盛り上がりを見せる胸部。
しかも服を纏ってはいない。出てきた魔法使いは上半身が裸の状態だったのだ。
日に焼けたような小麦色の身体には、僕達と同じように、いや僕達よりもびっしょりと汗をかいていた。
突然の光景に、僕は思わず息を呑んでしまう。
後ろにいる二人からも、似たような気配を感じられた。
「おやおや、キミのような少年やお嬢さん達がここまで来るなんて、大変だったろうに」
そんな僕達へと、野太い声で労わりの声を掛けてくれる魔法使いさん。
「それで? この私に何か用なのかな? 何か困りごとかい?」
「あ、いえ、その~……」
どうしよう、予想外の光景に、頭が上手く働いていない。
何を言えば良かったんだっけ?
「はっはっは、遠慮する事はないぞ、少年よ。私が力になってあげるから、安心しなさい」
そんな僕へと向かい、白い歯をキラリと光らせ、豪快に笑いかけてくれる魔法使いさん。
そして僕らへと見せつけるかのようにポーズを取り、全身の筋肉を漲らせる。
「さぁ! 何でも言ってくれたまえ! この魔法使い、グレゴールが全力で力になろう!」
そう、魔法使いさんはとても気の良い、マッチョなおじさんだったのだ。
街で会ったおばちゃんさぁ、普通、男の人にナイスバディーとは言わないんじゃない?